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2018年FIFAワールドカップ(以下、ワールドカップ)で初めて採用されたVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)システムは、最新のハイスピードカメラや映像分析技術によって判定の透明性を高めた。VARの開発を担当したホークアイ・イノベーションズ(ホークアイ)とその親会社であるソニーは、ホークアイの映像分析ソリューションを取り入れ、総合的なスポーツ体験を作り出そうとしている。彼らが目指しているものは何なのか。VARでスポーツがどのように変わるのかを考える。
64試合で17回の判定が覆ったVARの“真実”
サッカーの審判は複数の人間を同時に見る必要があるため、判定が極めて困難だ。数十メートルに渡るパスの出し手と受け手の位置、さらに、ボールに直接関与していない選手同士の小競り合いを観察するのは物理的に難しい。また、ゴール前に20人近くの選手が集まっている状況では死角が発生し、重要なプレーが見逃されてしまうこともある。
サッカーの歴史では、判定が勝負の行方に大きな影響を与えてきた。1986年のワールドカップでアルゼンチンの伝説的選手マラドーナが手に触れながらゴール判定された「神の手ゴール」、2010年ワールドカップでイングランド代表ランパードのシュートがゴールを割っていないとされた場面など、ファンの間では有名なエピソードだ。
2018年のワールドカップではVARの導入で試合に変化があった。ブラジル代表ネイマールが反則を受けたと判定されたコスタリカ戦では、VARの精査により、反則がなかったとして判定が覆っている。注目を集めた決勝戦では、クロアチア代表ペリシッチが手でボールを扱ったとして反則と判断され、フランスの追加点につながった。
VARの導入により、守備側は反則がないように守らなければならない一方で、攻撃側も、あたかも反則されたかのように振る舞って誤審を誘うようなプレーが難しくなったのだ。
FIFAの発表では、64試合のうち、すべてのゴール場面を含め、455のプレーがVARによって確認された。そのうち、試合中に審判によってビデオによる確認が行われたのが20回、さらに判定が覆ったのが17回だった。VARを使用した際の判定の精度は99.3%に上ったとされる。ちなみに、ゴール前での反則に与えられるペナルティキックは2018年大会では29回与えられ、前回大会より16回も多い。
ワールドカップでのVAR活用実績の中身
2018年のワールドカップではVARのために33台のカメラが使用された。このカメラによって長さ110メートル、幅75メートル程度のサッカー場を網羅する。そのうち、8台はスーパースローカメラ、さらに4台はウルトラハイスピードカメラで高速度撮影を行う。スロー再生は接触プレーや、反則が起きた選手の位置を確認するのに有効だ。
ゴール判定はゴール・ライン・テクノロジー(GLT)と呼ばれるシステムが設置され、判定を支援する。サッカーではボールがすべて線を越えなければ、ゴールと判定されない。ホークアイはリアルタイムにボールの位置を判定し、ゴールが認められた際に、1秒以内で主審へ通知する仕組みをとっている。
試合中の映像はモスクワにある国際放送センター(IBC)で確認される。12会場を光回線でつなぎ、リアルタイムで映像をやり取りする。 映像を確認するのは、13人の国際審判によって構成されるVARチームだ。
VARの対象となるのは「得点」「ペナルティキック」「退場」「退場・警告の選手取り違え」の4種類ある。会場に設営されたレビューエリアで主審は映像のリプレーが確認できる。
当初は試合の流れを止めてしまうと懸念されたVARだが、実際は平均して80秒程度しかかかっておらず、試合時間に大きな影響はなかったとされる。 ワールドカップでのVARを踏まえ、今後、更なる利用方法の検証は進んでいくだろう。
すでに20競技で導入・活用実績アリ
VARシステムを開発したのはホークアイ・イノベーションズという英国の会社だ。1999年に設立された同社は、映像処理・再生や映像配信に強みを持ち、サッカーにかぎらず、テニス・クリケット・野球・アイスホッケー・バレーボール・ラグビー・バドミントン・競馬を含む20種類の競技で、映像解析ソリューションを提供している。
ホークアイの技術は2006年にテニス、2009年にクリケットで導入された。さらに、サッカーでは、2013年にイングランド、2015年にはドイツで利用されるようになった。
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