0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
共有する
フランスの優勝で幕を閉じたFIFA World Cup 2018。世界中からロシアに集まっていたファン・サポーターたちも、それぞれ帰路についた。弾丸旅行の人もいれば、全期間ずっと滞在していたという人もいるが、それぞれの旅の形に合わせて、さまざまなテクノロジーがファン・サポーターの「旅のお供」となっていた。2002年の日韓大会で韓国を訪れて以来、5大会連続で現地を訪れている筆者が、実体験も踏まえながらレポートする。
「ワールドカップ参加者」であることの絶対的な証、FAN ID
ロシア・ワールドカップに訪れたファンにとって必須のアイテムが“
Fan ID ”である。社員証のように、顔写真のついたカードをストラップで首からぶら下げるこのIDは、今大会で始めて導入された、ファンのキーアイテムだ。
Fan IDの公式サイト によれば、このFan IDは、すべての観戦者が発行しなければいけない証明書であり「スタジアムでの快適さと安全性」「ロシアのビザ免除」「無料乗車」を目的としたものであると説明されている。
2018年4月にロシア情報技術・通信省はFIFAワールドカップのために
50万人分のFan IDを発行 したことを発表した (その後も大会中にかけてまでチケットの追加販売が続いていることを鑑みると、50万人よりもさらに多くのファンがスタジアムを訪れていることになる)。
この政府発表によれば、全体の50%はロシア人で、次点は米国人2万2,500人、メキシコ人1万6,000人、中国人1万4,500人、コロンビア人1万4,200人と続く。
自国代表が出場していないにもかかわらず、米国と中国のファンが上位を占めているのは驚きだ。米国のファンはUSAのユニフォームを着ている人がほぼ皆無で、現地で見かけなかった(分からなかった)のだが、中国のファンを特にモスクワやサンクトペテルブルグで非常に沢山見かけた。
多くがドイツやブラジル、アルゼンチンなど、強豪国のユニフォームを着ていた。今大会の公式スポンサー17社のうち4割にあたる7社が中国企業ということもあり、至る所でロゴやブースが目に付き、中国のエネルギーに圧倒された。
また、ロシア各地でコロンビア人と出会う機会が非常に多く、対戦国でもあった国のファンが大挙してロシアに押し寄せるその熱量に圧倒され、日本から駆けつける仲間の少なさに寂しさと課題を感じていた日本人サポーターが、筆者以外にも多かった。
このFan IDはワールドカップのチケット所有者に対して、大会期間中に限り、ロシア入国の査証(ビザ)を免除する代わりに発行を義務付けたもので、外国人の身分証明証として非常に重要な意味を持つ。
FIFA及びロシア政府は、フーリガン(悪質な行為を行うファン)やテロリストや犯罪者の入国やスタジアム来場を防ぐためにこのFan IDを利用しており、空港の入国審査及びスタジアム入場の際に、このFan IDが機械に認証されなければ入れない、といった徹底ぶりであった。
FAN IDが示す個人認証の可能性
このFan IDは、交通機関のシステムとも連動して個人認証に使われている。
開催都市とモスクワなどを結ぶ長距離寝台列車や空港と市街地を結ぶエアポート・エクスプレスやエアポート・バスの予約・乗車の際にFan IDを使えば試合日の利用が無料になった(一部交通機関は、その前後日も無料)。
また、ロシア国内航空の予約の際にも個人認証の一環でFan IDの入力を求められた。
つまり政府当局、交通機関、FIFAらが連携して安全・安心を管理する上で、Fan IDが各機関のシステムをつなぐハブの役割を果たしている。
また、Fan IDを持っていくと博物館や美術館などの名所で入場がディスカウントになることも多く、観光面でもありがたいアイテムでもあった。
筆者の滞在中、試合の有無に関わらず、街中にFan IDを身につけた沢山の人々が闊歩している風景はお馴染みで、筆者自身も外出中はほとんど首からぶら下げていた。
ファン同士の交流の際には(相手が日本人でも外国人でも)、まるで名刺交換のようにFan IDを見せ合うのも定番であった。
そのため「管理のためのID」という窮屈な感覚はまったくなく、筆者を含め、自身の「ワールドカップに来ていることの証明」になっていた。帰国して成田空港で首から外す際には、旅の終わりを感じて感傷的になるほどだった。
ロシア政府は、大会終了直後にFan ID保有者について2018年末までビザ免除でのロシア再入国を認めることを発表した。Fan ID導入が大成功だったことを受けてのことだろう。
開催国、ファン、サポーターに好意的に受け止められ、ロシア大会の象徴となったこの仕組みは、次回のカタール大会以降も引き継がれていくのではないだろうか。
日本の立場から考えれば、2020年の東京五輪にも十分応用できる。
【次ページ】SIMフリースマホ普及で日本サポーターのモバイル事情が変わる
関連タグ