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新しい時代においても、当局としっかりとしたコネションのある主体が金融システムの担い手になるべきと説く岩下 直行氏。今後FinTechが取り組むべき領域や、FinTechにおける同氏の新たなチャレンジについて聞き、最後に金融を志す学生や若手金融マンに対して今後の指針となるメッセージを語ってもらった。
日本のFinTechに足りないこと
──日本の金融をより良くしていくために、FinTechが取り組んでいくべき領域について、何かお考えはございますか?
岩下氏:これは決定的に「パーソナルデータの活用」です。Tポイントカードやクレジットカード、Alipay、WeChat Payのような決済サービスが持つ購買履歴データのことです。
決済や購買のデータというのは、単にWebで見て「いいね!」を押しました、という行為とは違う。経済学で「顕示選好(消費者が実際に購買したモノのからその好みを推計すること)」という概念があるのですが、お金を使って消費をしたということによって、その人の好みなり行動なりが示される部分がある。
そうすると、この人はどんな人か、将来どんなことをしそうか、どんなニーズがありそうかということを深く知れる。アリペイやアマゾンは相当そのデータを持ってビジネスをやっているわけです。
もっとも、銀行などの金融機関は、既存の住宅ローンであるとか、あるいはクレジットカード、デビットカードの類しか扱っていません。また、保険商品でも、大したデータ活用はできないかもしれない。
でも従来ような大手製造業を相手に、集めたお金を貸し出せば利ざやで稼げるという時代ではないので、どうやって利益を出していくかは切実な問題です。
銀行はたくさんの顧客との接点を持っているから、そこからさまざま情報が取れるはずで、それをマネタイズしていくということは、金融界にとっても望ましいことだと思います。
ただ、当然利用者が「嫌だ」と言う可能性がある。そこはプライバシーの問題なので、利用者が断ればマネタイズはできない。その代わりデータ提供を断る利用者は、「口座使用手数料を払ってください」という話だと思います。
手数料を払わない代わりに、あなたの情報を使わせてくれというのは、たとえば「Tポイントカードで1%分のポイントをあげます」というのと理屈は同じはずです。
金融機関も利用者の情報を上手に活用しながら、新しいビジネスを開いていくことを考えなくてはいけない時期に来ていると思います。
銀行がデータを活用する難しさ
──どのようにすれば銀行がデータを活用できるようになるのでしょう? ITサービスの場合、ユーザーは個人情報を提供するのに慣れている側面があると思います。
岩下氏:たしかに、(ユーザーが気軽に個人情報を提供しがちな)無料で利用できるITサービスやポイントがたまるサービスはたくさんあります。一方、実はそれらは利用者にとって厳しい「利用規約(タームズ・アンド・コンディションズ)」が書いてある場合も多く、「事業者が好きに使ってよろしい」ということになっている。
銀行が利用者の情報を上手に活用するのが難しいのは、その歴史からです。これまで銀行が個人情報を必ず業務上必要としてきため、印鑑証明付きとか住民票付きの非常に確実な情報を本人から「きちんと」取ってきていた。
あまりにきちんと取ってしまったものだから、もうプライバシーポリシーみたいなところでは、これは一切他で使いませんという言い方をしてしまっている。こういう状況だと、銀行が利用者情報の活用を果たして今後やっていけるのだろうかと。
どこかで(銀行の)タームズ・アンド・コンディションズを変えなくてはいけないのだけど、利用規約を変える時は、グーグルやアップル、フェイスブックでさえ大騒ぎになる。
三菱UFJや、みずほといったメガバンクが「変えました」と言ったら大きな反応があるのは当たり前です。
一応、「悪いことはしないでしょう」、という前提で「グループ企業内では自由に使えます」程度のことは規約に書いてあるのですが。これからは「データの時代」です。
データの所持者が強者で、価値を提供できるという潮流の中で、「データは手にできるが一切使いません」という“ストイックさ”は、あまり望ましくないのではないでしょうか。
【次ページ】「安定を求める人は銀行に向かない」
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