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消費者の行動が「モノからコトへ」、体験重視へと変化する中で、リアルな体験の場であるイベント興行の価値・役割が見つめ直されている。そこで避けて通れないのが、チケットの問題だ。不正転売の防止やデータ活用、マーケティングなどの面から、今後は「電子チケット」が急速に発達していくと見られている。そこで、改めて電子チケットとは何か、その変遷の歴史や日米の違い、SNSやチャットの発達に応じたこれからの電子チケットのカタチなどについて解説する。
解説:playground 執行役員 河野 貴裕
聞き手・構成:編集部 中島 正頼、執筆:井上 猛雄
実は歴史の長い「電子チケット」、仕組みと変遷を整理
モノがあふれる現在、消費者が求めるものは「経験・体験」となった。その大きな潮流の中、リアルな体験を提供するイベントが改めて注目を集めている。そしてリアルイベントと消費者をつなぐ「チケット」も、そのあり方を大きく変えようとしている。
激変が予想される近未来の「電子チケット」について、電子チケット発券システムやコンサルティングサービスを提供するplaygroundの河野 貴裕氏に話を聞いた。
まず、これまでの電子チケットの変遷から見ていこう。電子チケットは「流通をデジタル化したチケット」のことであり、その定義に従えば、それほど目新しいものとはいえない。
ここでは電子チケットの変遷を「電子チケット1.0」「電子チケット2.0」「電子チケット3.0」という分類で解説していく。
電子チケット1.0とは? QRコードで発券するまでのプロセスを電子化
まず電子チケット1.0の時代は、「QRコード型(またはバーコード)」のものだ。イベント主催者の委託を受け、チケットの予約・発券を代行するチケットエージェンシー(和製英語でプレイガイドとも言う)が、ユーザーに発券するプロセスを電子化するために登場した。QRコードであれば、Eメールで簡単に送付でき、ユーザーもプリントアウトや画面表示で入場できる。イベントだけでなく航空券など、今でもよく見かける方式だ。
QRコード型電子チケットは、日本よりも米国で急速に普及した。その背景には、国土が広く、郵送等の手段ではチケットのデリバリーに大きなコストがかかってしまうという理由がある。デリバリーを簡易化・一律化するために、米国最大手のチケットエージェンシー 「チケットマスター」を中心に、QRコード型電子チケットを積極的に広げていった。
一方、日本国内では「チケットぴあ」の店舗窓口や、コンビニのネットワークが発達しており、紙チケットの受け取りは容易だった。また宅配便での配送コストも比較的安価に抑えられていたため、チケットの発券と受け取りに、米国ほど困ることはなかった。そのため、QRコード型電子チケットのニーズも米国と比べればそれほど高くなかった。この時代は、チケットエージェンシーが顧客にチケットを届けることを工夫した「電子チケット1.0」の時代といえる。
電子チケット1.0の課題は不正転売などセキュリティの甘さ
米国で発展してきたQRコード型電子チケットによる発券と受け取りは、システム的には導入ハードルが低く、ユーザーの利用も簡単というメリットがある半面、2つの大きな弱点があった。1つはセキュリティが甘いという点。極端な場合、紙のコピーやPC画面、携帯電話画面のスクリーンショットでも、機械にかざせば入場できてしまう(または、あたかも入場できそうなチケットを偽造できてしまう)原始的な仕組みであり、誰でも不正利用が行える余地があったのだ。
実際に米国では、転売市場で不正に複製されたQRコード型電子チケットの重複販売が問題視された。露骨な転売屋も現れ、複数のアカウント利用や“なりすまし”により、人気のあるプラチナチケットを購入し、高値で売りつけるなどの不正が目立つようになり、社会問題化するようになった。
また最近では、専門の転売業者のみならず、一般ユーザーがオークションサイトで転売行為に走るケースも増えており、転売の課題は今も払拭されているわけではない。
2つ目は、会場の受け入れコストだ。QRコード型電子チケットは、会場にQR読取設備(専用ゲートやQRコードリーダー)の設置、電源の確保、野外の場合は雨対策などが必要となるため、導入における設備投資コストがかさむケースが多かった。また、QRコード型チケットの専用レーンを設ける必要があるなど、オペレーションコストにも心配があった。
電子チケット2.0とは? 専用アプリをダウンロードし、発券から入場までを電子化
以上のような事情に加え、スマートフォンの登場が電子チケットの新たな形態を生んだ。それが専用アプリ型電子チケットだ。2010年あたりから、国内でも専用アプリを開発し、発券だけでなく入場までを電子化することで、不正転売を防止する動きが出てきたのだ。今なお主流の「電子チケット2.0」の時代である。
このころは、いくつかの国内ベンチャーを中心に、セキュリティ強化という文脈での電子チケットが誕生しはじめた。ユーザーはスマートフォンからチケットを申し込み、専用アプリをダウンロードし、会員登録や個人認証を経て、アプリ画面上に表示される電子チケットを受け取る。イベント当日はその画面を提示し、画面に所定の操作をすることで認証を行い、入場するというのが大まかな流れだ。
電子チケット2.0の時代は、自分のスマートフォンに専用アプリをダウンロードし、チケット購入時に電話番号などで個人認証したり、イベント入場時に専用ゲートで事前登録した写真と照合して本人確認を行うなど、さまざまな対策が練られるようになった。また受け取ったチケットを友人やパートナーに分配する回数や枚数の制限をかけ、指定した同伴者のみに分配する機能なども取り入れられた。
電子チケット2.0の課題はユーザビリティ
こうした対策はセキュリティ強化には有効だが、やはり光と影がある。セキュリティと利便性は、常にトレードオフの関係にあるからだ。専用アプリに頼り、不正転売の禁止に軸足を置きすぎてしまうと、今度はユーザーの利便性が低下し、本来あるべき電子チケットの流通性を担保できなくなる恐れも出てきた。これでは本末転倒になってしまう。
たとえば、専用アプリのダウンロードは、ライトユーザーにとってハードルが高い。年に何度もコンサートやスポーツ観戦に行くような熱狂的ファンならば問題ないだろうが、スポット的に1回のイベントに参加するユーザーにとっては、わざわざアプリをダウンロードするのは面倒であったり、使い方がわからないため不安に感じたりということになりかねない。 運用サイドとしても、問合せコストの増加や、当日案内コストの増加が課題視されるケースが多かった。
電子チケット3.0とは? ユーザビリティとセキュリティを両立しながら終了後のフォローまで
しかし、スポーツビジネスやコンサート産業の盛り上がり、その背景にある「モノからコト」と総称される顧客体験重視の気運から、2017年あたりから電子チケットにも「来場者体験」を求める動きが出てきた。電子チケットの発券自体も来場者体験の1つであり、来場者とつながるためのチャンスでもあるととらえ、つながることでさらなる来場者体験の向上を目指す、新たなニーズが登場したのだ。
結果、発券から入場、さらにイベント終了後のフォローまでをカバーできる電子チケットシステムが求められるようになった。本来の流通の健全化を担保しながら、運用の効率化や、不正転売をうまくコントロールするバランスのよい仕組みが登場し始めている。いよいよ「電子チケット3.0」の時代の到来である。
従来の方法と比較して電子チケット3.0の特長を整理すると、大きくは下記の4点になるだろう。
1)専用アプリではなく、LINEやFacebookといったSNS、メール、SMSなどのコミュニケーションツールでチケット受け取りができるため、ユーザビリティが高い(ブラウザベース)
2)偽造防止、不正譲渡防止などのセキュリティ性が高い(ユーザビリティと両立している)
3)SNSなどと連携し、イベント中やイベント後も来場者と継続的にコミュニケーションを取れる(データ取得)
4)電子スタンプ規格や指もぎりなど、複製が難しく、かつ現場受け入れコストが安い認証方法を採用している
5)「電子チケット発券」に特化した専用システムであり、チケット販売事業者が低コストで導入できる
ここからは、具体的な電子チケット3.0のサービスを例に、その仕組みやビジネスモデルを深掘りしていこう。
【次ページ】SNSで受け取り、スタンプでもぎり、イベント後のフォローも行う「3.0」
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