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スマートフォンが登場する以前、携帯電話のJava実行環境で累計出荷台数8億台を誇った企業がアプリックス(旧アプリックスIPホールディングス)だ。その勢いのままで2003年には東証マザーズに上場した同社だが、Androidの登場以降、業績は徐々に低迷することになる。しかし、そのアプリックスがIoT企業として、再び成長戦略を描こうとしている。2017年2月から同社を率いることになった代表取締役 長橋賢吾氏に、これまでのアプリックスと現在、将来について話を聞いた。
(聞き手はビジネス+IT編集部 松尾慎司)
IoT/M2M関連ビジネスを主軸に据えて構造改革完了
──2017年4月1日からアプリックスとして新たなスタートを切ることになりました。長橋さんは新社長としてその舵取りを任されたわけですが、まずはこれまでの事業の流れについてお聞かせください。
長橋氏:アプリックスは今年で33期目を迎える歴史のある会社です。最初の飛躍のきっかけとなったのは、1990年に発売した「CD Writer」です。音楽や映像などのマルチメディアコンテンツやソフトウェアをCD-ROMに書き込む技術として注目されました。
次に成長のエンジンとなったのが、携帯電話用のJava実行環境である「JBlend」です。携帯電話の普及とともに大手通信会社で導入が進み、世界の携帯電話の累計出荷台数で8億台にまで成長しました。
しかし、2008年にAndroidが登場してから状況が変わりました。無料で利用できるAndroidは、組み込み業界にとってはまさにゲームチェンジャーだったのです。
そこで2010年から、コンテンツ事業への取り組みをはじめました。携帯電話向けゲームの開発を行っていた株式会社ジー・モードをはじめ、アニメ制作会社や出版社などを買収し、アニメやゲーム、コミックを組み合わせたビジネスを展開しましたが、ジー・モード創業者でもある宮路武氏の急逝などの不運もあり、徐々に事業は縮小。2014年に事業譲渡する形となりました。また同じくコンテンツ事業の一環として推進していた出版事業についても、本年3月譲渡が完了しました。
──既存事業を整理する一方で、IoTを新しい事業の柱に据えるということでしょうか。
長橋氏:はい。2009年に買収した米国Zeemote社のBluetooth技術をベースとしたM2M/IoT関連の製品・サービスは成長してきています。2013年には、iOS 7の新機能だった「iBeacon」に対応したビーコンの発売を開始し、関連アプリやクラウドサービスを開発・提供してきました。
また、2015年には世界中のルーターやスイッチメーカーに採用されているルーティングソフトウエア「Zebra(商用版はZebOS)」の開発で知られる石黒邦宏をCTOとして招聘。こうした成果が徐々に現れ、今年2月には2017年12月通期業績の黒字化の予想を発表しました。
IoT時代にビジネスはどう変わるのか?
──事業売却などでリストラを完了したわけですが、IoTビジネスはすでにネスレ社のコーヒーメーカーに採用されるなど、成果も現れつつようですね。
長橋氏:ネスレさまは、これまでの卸販売だけでなく、顧客に直接販売する仕組みとして「バリスタi」という商品を開発されました。バリスタiはBluetoothでスマートフォンとつながってさまざまなサービスを提供できますが、そのコンセプトを具体化するコンサルティングからアプリの開発、クラウドとの連携まで、共同で開発させていただきました。
──他にも導入事例があったらお聞かせください。
長橋氏:米国のAquasana社の浄水システムにも、弊社のBLEモジュールが搭載されています。同社の浄水システムはシンクの下に置かれ、フィルタが汚れるとランプが点灯する仕組みでしたが、それだとユーザーが気付かないので、Bluetoothでスマホに通知する機能を搭載しました。
これにより、専用アプリで利用状況を把握でき、確実に汚れたタイミングでフィルタ交換が行えるため、メーカー側としてはフィルタ交換需要を喚起できるほか、消費者側にとっても「あまり汚れていないのに定期的に取り替えるのはちょっと…」という問題を解決できるWin-Winになります。さらにメーカーは機器から得たデータをクラウドに集約すれば、マーケティングや開発へフィードバックすることもできます。
また、米国のOurPet's Company社とは、ペット製品のIoT化で協業しています。米国ではペットの多頭飼いが多いので、1頭ごとに専用タグを付けて個体識別し、きめ細かい対応を実現できます。たとえば、病気のネコが自動エサやり器に近づいたら薬入りのエサを与え、健康なネコが近づいたら通常のエサを与えるといったことが可能になります。
パイオニア社が開発した「クルマ DE ビーコン サービスプラットホーム」にも当社のビーコンが採用されています。これは、ドライバーが車を利用するシーンや位置情報を認識し、スマートフォンと連携したサービスを提供する基盤です。
すでにこの基盤を活用して、事故発生時にスマートフォンを1タップするだけで保険会社に事故連絡ができるサービスなどが実用化されています。
──売上規模、海外/国内の割合についてもお聞かせください。
長橋氏:2月に発表した業績予想では、売上規模は約10億円です。サービスやアプリの開発規模の関係から、割合としては海外よりも日本のほうが多くなっています。当初はレベニューシェアのビジネスモデルを指向していましたが、収益化に時間がかかりますので、現在はお客さまの要望や考え方に合わせて、基本料金をいただくなど、柔軟に対応していこうと考えています。
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