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ソフトウェア開発の基盤をクラウドに移行することのメリットに注目が集まる。AWSに関する最新動向等を紹介するカンファレンス「AWS Summit Tokyo 2016」には、キヤノン 映像事務機DS開発センター 主席研究員の八木田 隆氏が登壇。企業顧客向けのプリンティングソリューションのホスティングシステムをAWSに移行し、アーキテクチャ、プロセス、組織連携などを見直すことで、QCD(品質、コスト、納期)の向上を実現した秘訣について語った。
7つのサービスの基盤をホスティングからクラウドへ移行
八木田氏が所属する映像事務機DS開発センターでは、企業向けの複合機やプリンター製品に加え、スマホやパソコンなどと連携し、プリントサービスを提供したり、機器からの情報を収集、分析したりする7つのサービスがホスティングサービス上で動いていた。しかし、「従来のホスティングサービスは非効率で不安定という課題がありました」と八木田氏は語る。
八木田氏は「最初に成果から語る」と前置きした上で、7つのサービスの基盤をAWSに移行したことにより、以下のような、自社サービスのQCD(品質、コスト、納期)向上の成果が得られたことを示した。
リリース:年3回から週に複数回へ
インシデント:移行後は1/5以下に
脆弱性診断指摘:移行後は1/4以下に激減
また、プリントサービスでは、移行前と比べ、以下のようなメリットがあった。
コード量:1/5
スループット(パフォーマンス):2倍
運用コスト:1/5
インフラコスト:1/4
評価工数:1/4
開発期間:1/3(6カ月)
八木田氏によると、従来は、インフラの障害対応などに手間取り「仕事に集中できない」ことや、「自動化をやりきれない」、あるいは、取得できないログが多く「監視、管理しにくい」、リリース作業に時間がかかり「年3回のアップデートがやっと」という課題があった。
そこで、QCDの改善のためには、「1つ1つの課題を改善するより根本的な見直しが必要」と、システム基盤をクラウドに移行することを決定した。
AWSの「イノベーションのスピード」に学ぶ
そこで注目したのがAWSだ。AWSは2015年に722のメジャーな新機能、新サービスをリリースしており、八木田氏は「AWSのイノベーションの速度に学びたいと考えました」と話す。
中でも、八木田氏が注目したのは「APIによるコミュニケーション」だ。
「AWSは全てがAPIであり、APIですべてを制御できます。QCD向上にはここが肝になると思いました」(八木田氏)
APIですべてを制御する考え方は、開発チームの体制にも応用できると考えた。具体的には、いわゆる「マイクロサービス」と呼ばれる、小規模のサービスを組み合わせ、ソフトウェアを構築する考え方を適用。自社サービスのアーキテクチャや開発プロセス、組織の連携を見直した。
「AWSのデザインは、オープンな標準技術に忠実で、設計思想に一貫性があり、AWSで作られたサービスは使いやすく連携しやすい。我々のチームもAWSのAPIをベースにやり取りをすることで複雑さを排し、エンジニアが本来やるべき仕事に集中することで、イノベーション創出につなげよう、ということです」(八木田氏)
同社がAWSクラウドを使い始めたのは2014年の3月からだ。「Amazon EC2」や「Amazon S3」といった基本的なサービスはもちろん、ネットワーク系のサービス、運用管理系のサービスも数多く利用しているという。
AWS移行に際しては、「カタログエンジニアにはならない」ことを心がけた。具体的には、エンジニアリングで課題を解決すべく、以下の5つの課題解決に取り組んだ。
セキュリティ
アーキテクト
自働化
コミュニケーション
計測
【次ページ】 AWSへの移行により、各チームのエンジニアが元気になった
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