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人工知能(AI)に注目が集まっているが、いまだその意味を十分に理解できているという人は少ないのではないだろうか。そこで「FINAL FANTASY XV」リードAIアーキテクトとして、ゲームにおけるAIの開発・研究に従事してきた三宅陽一郎氏と、テレビ用CG制作に携わりながら、AI(人工知能)関連の開発や書籍執筆歴も持つグラフィッククリエイターの森川幸人氏に、『絵でわかる人工知能』を発刊したことを記念に、いま知っておくべき人工知能(AI)に関わる重要キーワードについてわかりやすく解説してもらった。
シンギュラリティ:AIが進化しても人々の仕事がなくならない理由
三宅氏: シンギュラリティは、日本語で「技術的特異点」と呼ばれており、2045年には人工知能(AI)が人間の能力を超える新しい段階に入ると言われています。賢さで言えば、いまでもコンピュータは計算も検索も人間より得意です。しかし、ここで言う賢さとは人間の総合的な賢さのことで、知性や感性も含れます。森川さんは、いまコンピュータにどのくらいの感性があると思いますか?
森川氏: 知性や感性については、これからでしょう。いまのところ総合力では人間が優れていると思います。ただしポツポツと部分的に抜かれつつある状況です。囲碁の世界ではAlphaGoが登場し、コンピュータが人間に勝ちました。ただし人を感動させる絵は、2045年を超えても描けないと思います。
三宅氏: シンギュラリティを超えると、どんな社会が到来するのか。多くのは自分の仕事が奪われてしまうと懸念しています。しかし仕事の何%か置き換わるかもしれませんが、丸ごとAIにはならないでしょう。AIは弁護士の判例を探すような仕事は得意ですが、討論したり、話を聞くことは苦手です。そういう意味では、人間と人工知能が協調することが、シンギュラリティの本質だと思います。
森川氏: 実は仕事の変化は、産業革命以降から人間が何回も経験していること。すごい道具が登場し、職業の一部が入れ替わったり消えることはありました。その延長にあると考えればよいのではないでしょうか。いまの騒がれ方はちょっと脅しのような気がします。
三宅氏: 実際に1990年代からコンピュータが普及し、手紙から電子メールになったり、かなりの部分でデジタル化され、ビジネスがドラスチックに変わりました。一方でAIは従来の情報技術のレイヤー上に乗った感じです。質的に変化するのは2045年頃かと思います。
森川氏: ただし、それは指数関数的に急に変化してくると思います。
三宅氏: そうですね。まさに「収穫加速の法則」で、どんどん加速して、最後はあっという間に変わってしまうのが怖いところかもしれません。とはいえAIが人間と敵対するとわけではありません。両者が新しく手を取り合う時代が来るということですね。
強いAI、弱いAI:あまり使わないほうが無難なキーワード?
三宅氏: 最近よく「強いAI」とか「弱いAI」という言葉を聞くかもしれません。もともとAIに何ができるのかという、哲学的な批判から出てきた言葉です。知能があるようにしか振る舞えないのが「弱いAI」で、本当の知能として考えられるのが「強いAI」。AIを議論する人が、どういう立場で語るかという表現の話で、人工知能の性質ではありません。
森川氏: 強いAIや弱いAIという表現自体が、あまり良くないですね。AI同士でバトルをしている感じがして変です。特殊な専門的なことしかできないのが弱いAIで、人間のように歌ったりダンスをしたり、汎用的なことができることを強いと表現しているだけです。
三宅氏: そうですね。間違って使われることが多いようです(笑)。よく誤解されるのは、囲碁AIは強いから、他のゲームも強いはずだと。囲碁AIは囲碁しか打てず、シューティングゲームができるわけではありません。AIは1つのベクトルしか持っていません。人間の場合は本当にいろいろなことができる360度方向のベクトルを思っています。
森川氏: ピンポイントしかできないことを果たして知性と呼んで良いのかということですね。そういう意味では、簡単には総合的な能力を持った強いAIはできないと思います。
三宅氏: ですから、そんなにAIを恐れる必要はないのです。何でもできるという誤解が社会にあるようですが、これを覚えておくと少し安心できるでしょう。いずれにしても、強いAIと弱いAIという言葉は、あまり使わないほうがよいと思います。哲学的な議論で、間違って使われ、混乱の元になるからです。
IBM Watson:人間とIBM Watsonが協調し、さまざまなサービスで新しい関係を築く
三宅氏: IBM Watsonは、自然言語に特化したAIです。どんな言葉がどの言葉と一緒に現れるのかを、世界中の文章から学習し、語と語の相関を取っています。米国の人気クイズ番組で、IBM Watsonがチャンピオンを相手に圧勝してから、一躍有名になりました。
森川氏: 仕組みはどうなっているのですか?
三宅氏: たとえば、「リンゴ」が含まれる文章に現れる言葉を100位まで抜き出します。そこに「果物」「ビタミンC」「赤い」というようにランクを付けるのです。どのくらい言葉が含まれているのか、数値によって関連度が分かります。人間では一生かかっても読破できないような文章量を学習するのが強みです。
森川氏: こうやって見るとAIというよりも、巨大なデータベースみたいですね。
三宅氏: 実際に巨大なデータベースで、さらに使いこなすために高速な検索能力を持っています。医学論文を学習させると、医者に匹敵する知識が蓄えられます。エキスパートを育てるために、こういったAIがあれば百人力。文字であればIBM Watsonは無敵です。
森川氏: 人間の寿命を遥かに超えるような能力を持つと言うことですね。人は、いくら勉強しても死んでしまえば終わりですけれど、IBM Watsonは消えませんからね。ただし本当に文字だけで、芸術版はないですよね。
三宅氏: 最初から自然言語に割り切っています。お医者さんの横にいたり、保険の窓口で使ったりと、フロントエンドのアプリや窓口業務などでサービスを展開しています。
森川氏: 従来のデーターベースと大きく違う点は、人間がすぐ使える形で出力してくれることでしょう。医療でもトップ5ぐらいの候補を出してくれれば、最後は人が選んで判断できるようになります。
三宅氏: 最後は人間が選ぶという点がポイントですね。人間とIBM Watsonが協調することでシナジーが出てきます。何か知識が欲しいとき、AIにお願いすればよい。これが人間とAIの新しい関係になるかもしれません。
【次ページ】AI台頭で人が不要になることはない?
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