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- 2016/04/07 掲載
マツダはいかにして「どん底」から世界最高峰のエンジンを開発したのか
驚きの燃費性能を実現したマツダのSKYACTIV
開発の開始当時から「SKYACTIV」の燃費性能を実現するには、従来の手法では実現できそうにないことは明らかだった。高度で複雑な新製品ながら、品質を担保しつつ、スピーディな開発を行うためにはどうすればよいのか。実は、その誕生を支えたのが「モデルベース開発」(以下、MBD)であった(関連記事:トヨタがエンジン開発で取り組んだ開発手法「MBD」とは)。2016年1月に開催された「オートモーティブワールド2016」に登壇したマツダの原田靖裕氏は次のように振り返る。
「予算がない、工数がかけられないといった状況ほど、段取りをうまくやる必要がある。そこで開発にあたり、2つの基本方針を考えた。1つ目はコモンアーキテクチャーにすること。さらに部品を単純に共通化するのではなく、高機能ユニットも同体質でそろえた。自動車は部品もユニットも多く、無数の組み合わせがある。短期間で車両システムの品質と性能最適化を成功させるために最大限にモデルを活用してきた」(原田氏)
もう1つ工夫した点は、開発の優先度を決めたことだ。必要な機能を約700項目に絞り込み、計画的にモデリングしていったという。このモデル化によって、品質工学も導入できるようになった。
「品質工学は良い話もあるが、時間がいくらあっても足りないという面がある。しかし、NASA(アメリカ航空宇宙局)では“タグチメソッド”を使っていた。宇宙開発は一発勝負の世界で、失敗は許されない。そのためMBDに頼らないと、品質を十分に担保できなかったということだが、今後は自動車の世界でも同じことが起きるだろう」(原田氏)
実車がなくてもあらゆる設計と評価を机上で実施
SKYACTIVエンジンが世に登場したのは2011年のこと。同社は、1Lで30㎞を走行できるガソリン車でつくるという大胆な目標を立てたが、オフィスで構想から詳細までを徹底的にモデルベースで設計し、車両評価も机上で行えるように真正面に取り組んだ。走りと燃費の両立については、テストモデル・車両モデル・自動解析モデルをつくり、目標に一歩でも近づけるように設計・検証を繰り返した。エンジン、トランスミッション、車両など、すべてのエネルギー効率を考慮し、大上段からエネルギーの全体最適問題を解き、机上でサクセスシナリオを描いた。
「従来までは、実機の完成後にシミュレーションを後追いで開発していた。そこで実機と違う結果が出ると怒られていたが、このときはシミュレーション結果がすべて。もし結果が反映できないのであれば、実機の設計に問題がある。もっと現場に頑張ってくれというマネジメントが回り始めた」(原田氏)
この開発環境では、制御系と仮想車両がつながり、何万回でも総合的な自動テストが机上で可能になった。どの機構にバラつきがあると品質に悪影響を及ぼすかということも検証できる。MBDの価値は指数関数的に増していき、結果として2011年にデビューした当時のデミオで、1Lで30㎞の燃費性能を実現できた。
デミオの成功は世間で大きな話題となり、いわゆる「マツダショック」が起きた。そして他の自動車メーカーも、MBDへの方向転換を迫られた。
「我々は、SKYACTIVにおいて、開発の上流から下流までMBDを活用した。このモデル化により、手戻りを防いで生産性を上げ、品質を向上させる効果も共に2倍以上になった。実機の試行錯誤による摺り合わせ開発でなく、モデル化で最適解を求められることが無限の価値だと思う」(原田氏)。
資源が限られていたマツダは、徹底的な選択と集中を行い、エンジンの高圧縮比という進むべき方向を定め、焦点を絞って新技術の開発に邁進した。さらにプロセス上でもモデルを習熟していった。実機での試行錯誤を繰り返す余裕はなかったからだ。
原田氏は「これまでモノが何もない段階で開発する技術は数%にも満たなかった。しかし、いまでは従来の8倍も出図前の検証が行えるようになった。さらにMBDの運用を効率化するために、自動化ツールなども用いて工夫を凝らした。我々のような中規模メーカーは、MBDなしには世界一の技術はできない。これからの時代は、小さな企業ほどMBDを使いこなすことが重要になる」と強調した。
【次ページ】マツダの自動運転のアプローチと、開発の切り札
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