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- 2015/04/24 掲載
フルキャストはいかにしてピンチをチャンスに変えたのか? ビジネスモデルの転換術
フルキャストホールディングス 朝武 康臣氏インタビュー
二度の大きな危機に直面し、ビジネスモデル転換を迫られる
──ご経歴と現在の業務を教えて下さい。
朝武氏:社会人のスタートは銀行からで、企業融資やエクイティファイナンスを担当しつつ、会計の基礎を学びました。その後いくつかのベンチャーに転職しましたが、業務はそれほど変わらず、ファイナンス、M&A、上場準備や中期計画の策定など、経営企画や事業企画まわりを担当していました。右肩上がりの企業から、曲がり角の企業まで多くの経験をしてきました。今はフルキャストで経理・財務とIRの責任者をしています。
もともと私がフルキャストに来たときは、リストラのまっただ中で、会社再編フェーズに入っていました。それを実務に落とし込むことが私に課せられた役割でした。この再編が何とかうまくいき、利益も上がり始め、ようやく日の目を見るところまできたタイミングで、労働者派遣法が改正されました。根幹となる事業が法律により禁止されたことで、ビジネスモデルの転換を迫られたのです。それも何とか乗り越え、今は成長フェーズに入っています。
──二度の大きな危機を乗り越えて今があるわけですね。フルキャストのドメインとなる人材サービスについて教えてください。
朝武氏:我々の事業は短期、それこそ最短1日からクライアントのオーダーに応える人材マッチング業務です。労働者派遣法改正法の施行前は「派遣」を主としていましたが、現在は「紹介」が主力サービスになっています。
実は、現在こうした業務に対応する上場企業はほぼ我々だけです。他社は事務職派遣や技術者派遣という形式で、数か月から3年という期間の人材派遣がほとんど。これは、就業者のスペックが派遣先の企業ニーズに合致することを重視したものです。一方、我々のビジネスは、就業者のスペックやノウハウにフォーカスを当てず、クライアントの業務量に対して繁閑の波に対応することを重視しています。
朝武氏:IT化等により業務効率化を追求しても、やはり人手に頼らざるを得ない業務や、繁閑の波の予測を超える需要、あるいは短期間しか発生しない特定業務もあります。たとえば、倉庫や工場などの物流関連業務や、選挙、引っ越しやキャンペーンなど、限られた期間の業務のお手伝いをしています。
2012年10月に施行された労働者派遣法の改正により、それまでフルキャストの中心的な事業であった短期派遣が原則禁止になりました。この話は前から時間をかけて議論されていたものなので、施行前から準備を進め、ビジネスモデルを切り替えることができました。
競合のいない「アルバイト紹介」と「給与計算の代行」を軸に
──具体的にビジネスモデルをどのように変えたのですか?朝武氏:もともとはシンプルに、短期派遣を中心にサービスを展開していたのですが、労働者派遣法改正で日数の制約が設けられ、30日以下の派遣が原則禁止となりました。ただし、31日以上の派遣は禁止されていないので、この部分はわずかですが残っています。
一方、30日以下の派遣については、「アルバイト紹介」と「アルバイトに対する給与計算を主とした管理代行」にビジネスモデルを切り替えました。
──「アルバイト紹介」「給与計算の代行」とは、どのようなモデルでしょう?
朝武氏:これまでの派遣業は、我々のような派遣元に就業者の雇用責任があり、スタッフの給料支払いも給与計算の業務も我々派遣元で行っていました。しかし、短期の派遣が原則禁止になったため、企業は短期就業の人材が欲しい場合、自社で雇用しなければなりません。そこで、我々のノウハウを活かして短期就業の人材を「紹介」するモデルを始めたのです。
「派遣」ではなく「紹介」なので、企業側に雇用責任があり、給与支払いも企業側で行う必要があります。給与支払い業務ならば、どんな企業でもやっていますが、最短で1日といった短期就業人材の給与計算となれば、その業務は繁雑になり、リソースを持たない企業も多くあるわけです。
そこで、ご希望のお客様に対して、給与計算も代行するようにしました。企業では新たな負荷が発生せず、シームレスに事業が進められます。この給与計算を主とした管理代行をセットで提供することで、もともとの派遣と変わらぬサービスを実現できるわけです。
──なるほど、面白いですね。競合となる企業はどこでしょうか?
朝武氏:日次の給与計算は労力がかかりますから、同様のサービスを実施する企業はありません。その部分をご提供できることが、我々の1つのアドバンテージです。
今後競合の人材サービス業が、給与管理代行サービスに乗り込んでも、委託先が複数あることは企業にとってはメリットになりません。もし最初に我々のサービスを選んでくだされば、そう委託先は変更もしないでしょうから、先にドアをオープンした我々のサービスが優位性を発揮できるでしょう。
──なぜ他の人材サービス業のように長期派遣の方向へ行かず、短期のニーズにこだわるのでしょうか?
朝武氏:人材の短期マッチングは世の中からなくならないし、なくしてはいけないものだというのが、当社の想いです。日本の産業が海外に移転し、競争にさらされるとき、人件費の変動費化は避けられませんが、これは企業側の事情です。
正社員になりたい方々ももちろん多いのですが、逆に短期でなければ働けない方々もいます。就業人口が減る中で、女性や高齢者に注目が集まっていますが、その方々の中には正社員化を望んでおらず、短期雇用を望まれている方も非常に多い。そこに就業機会の場を作りたいと思いました。派遣業を続けることに限界が出てきたときに、将来の法改正にも備えた上で組み立てられるビジネスとして、短期の紹介業を考えたわけです。
【次ページ】 IT投資の考え方は? 工数削減の効果は2段構えの議論が必要
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