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クラウドに代表されるサブスクリプションサービス(サブスク)の台頭によって、IT流通の世界も様変わりを果たした。ソフトウェアベンダー直販も増え、SIerなどの参入などにより、その競争も激化している。こうした中で10期連続の増益を果たしつつ、「これまで参入できなかった市場に切り込むチャンスも同時に生まれている」と意気込むのが、ソフトバンクグループでIT流通を手がける、SB C&S代表取締役社長 兼 CEOの溝口泰雄氏だ。同社の事業戦略と今後のビジョンについて話を聞いた。
クラウド進展で激化するIT流通の競争
SB C&Sは、ソフトバンクグループの原点であるIT流通事業を手がける企業です。その中で、「Value Added Distributor(付加価値提供型ディストリビューター)」として、「流通を通じた新たな価値の創出」と、そのための「プラットフォーム」としての役割が事業の柱であることは40年前の創業以来、一貫して変わりません。
一方で、事業環境に目を向けると、ソフトウェア流通のDXとも言える、パッケージからサブスクリプションモデルへの急速なシフトが起きており、それとともに、SB C&Sのビジネスモデルは大きく変わってきました。
私がこの会社に参画した2000年代を振り返れば、ソフトウェアも含めた商品を物理的に顧客に届けることがSB C&Sのミッションでした。
創業以来、家電量販店やメーカー、物流を巻き込んだ、販売から売掛金の回収までの一気通貫のプラットフォームを整備し、他社に付け入る隙を与えないことでパッケージソフトウェアの売上では全体のシェアの大半を握っていました。
しかし、その後のクラウドサービスの台頭は周知の通りです。この流れを当事者として目の当たりにし、危機意識もかなり早くから抱いていました。
2000年代中ごろに付き合いのある全ソフトウェアメーカーと一緒に、ASPサービスを開始したのも、まさにそのためです。残念ながらこの時は結果を伴わなかったものの、この取り組みは非常に大きな学びになりました。
その学びを生かして整備したプラットフォームが、クラウドサービスの契約管理を行うプラットフォーム「ClouDX(クラウディーエックス)」、ソフトウェア評価サイトの「ITreview(アイティレビュー)」です。
クラウドサービスの販売には月次の継続的な請求や契約ごとのライセンス証書の発送など、多大な手間が伴います。それらの煩雑な作業を、受発注からサービス開通、契約情報、課金、請求までの機能を備えたClouDXにより一気通貫で肩代わりできるようになり、パートナー企業のクラウド販売の支援が可能になったわけです。
これらの「変化を好機に転じる」というグループ文化による攻めの取り組みを長らく続けることで、SB C&Sの売上高は5,000億円を超え、6期連続の増収、10期連続の増益を続けています。
経営者の意識改革とキラーアプリの育成も寄与
もっとも、買い切り型のパッケージ販売との違いから、クラウドサービスの販売では売り上げの一時的な落ち込みが避けられません。そのため、クラウドサービスの販売に力を入れたがらないパートナー企業の経営者もかつては少なくありませんでした。
そうした中、SB C&Sはこうした経営者への意識改革に早くから動いてきました。リカーリングモデル(サブスクを含んだ繰り返しビジネスのこと)にはもちろん、数多くのメリットがあるわけです。
たとえば、売り上げを安定させられ、顧客と長期的なつながりを持てるようになり、そこで得られたデータを基に、各種施策を打ちやすくなります。
それらの経営での意義を訴えるとともに、Microsoft 365などのクラウドサービスの専門チームを結成し、継続的にセミナーを開催することで、ユーザーに“欲しい”と思わせるキラーアプリの育成も並行して行ってきました。
そのためのノウハウを蓄えるべく、自社でのクラウド利用も加速させてきました。今では年間で数千億円規模のビジネスを行うSB C&Sの基幹システムの多くもすでにクラウド上に移行済みです。提案する以上、自社で手本を示すべきでしょう。
流通の収益モデルを拡大するため、自社ブランドのモバイルアクセサリー「SoftBank Selection」はじめ、自社でのサービス開発、通信や保守サービスと組み合わせての提案など、販売時にどう付加価値を高めるかにも知恵を絞ってきました。
SB C&Sの好業績は、これらの複合的な取り組みがうまくかみ合った結果です。ClouDXが対応するメーカー数も増えており、ASP(Application Service Provider)で苦労を重ねてからの15年を振り返ると、何とも感慨深いですね。
【次ページ】進化するIT流通の中でどう「チャンスを創造」するのか
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