• 2010/12/03 掲載

インターネットで加速するリーク社会──匿名リークを収集/公開するウィキリークス(2/2)

ウィキリークス論考:塚越健司氏

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リークとどのように向き合うべきか?

 リークに関しては、日本にも公益通報者保護法(2006年4月施行)によって、リーク情報提供者の匿名性は守られるとされている。しかし実際には、行政サイドの役人との面談などが生じる場合もあり、そうでなくとも提供者への心理的ストレスはウィキリークスのそれとは比べものにならない。ましてや国家機密レベルの情報など、誰が行政に持ち込めるだろうか。

 さらに、昨今の金融危機で経済的に苦境に立たされているアイスランドにおいて、ウィキリークスは2009年7月29日、アイスランドのカウプシング銀行の内部資料を公開した。資料により同行のずさんな経営実態が暴かれるとともに、このニュースはアイスランド全体を大きく揺るがすことになった。この事件を契機にウィキリークスはアイスランドの議会との接触点を持った。その後アイスランドでは「アイスランド・メディア・イニシアチヴIcelandic Modern Media Initiative(IMMI)」という法案が、ウィキリークスによる法案内容作成の助力もあり、2010年6月15日に採択された。この法案は主にオンラインメディアなどの情報公開を支援する目的があり、情報提供者の保護も念頭に置いている。具体的な文章にするまでにはおよそ1年かかるとのことだが、数年後には、重要なリークを実行しようとする独立系メディアがアイスランドに大挙し、世界中のリークの発信源になる可能性もある。リークはすでにウィキリークスだけの問題ではないのだ。

 一方でこのような潮流を踏まえ、リーク対策を講じる企業もある。繊維事業を主とするグループ企業「帝人」では、顧問弁護士とは別に社内リーク専用の外部弁護士と契約することにより、作業員用専用の通報窓口から直接弁護士と連絡が取れる。さらに通報者の名前は、本人が了解しない限り明かされることはない。企業の不祥事はマスコミの格好の餌食となりやすいが、このようなより安心できる通報制度があればこそ、社内の不正を大事になる前に防ぐことも可能となる。安心してリークができる社内は、不正を働く機会そのものを奪う。従って、よりクリーンな労働環境の成立が、社員の士気を向上させる可能性も十分考えられる。

 リークは今後、よりその数を増すだろう。今回の尖閣ビデオ事件では多くのメディアが、リーク実行者の人物像や、リークそのものへの賛否について議論していた。しかし、より重要なことはウィキリークスの存在が証明するように、手軽に匿名のリークができるような社会が成立していること。そして、手軽なリーク手段がある以上、リークは善悪を問わず、個人の意志によって今後もより多く実行されるのではないか、ということである。

 そもそも、リークやその内容に対する評価は、見るものの立場によって容易に見解が分かれるものである。だとすれば、問題はリークの善悪について論じることではないだろう。 より重要なことは、実際にリークが生じた場合に、それが企業や社会にとってどのような意味を持ち得るのかということ。そして、リークによって生じた状況の変化に対して、どのような対応をすべきかを冷静に検討することである。

●塚越健司(つかごし・けんじ)
一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程在籍中。専門は社会哲学。 プロジェクト「.review」の中核メンバーとしても活動中。『週刊エコノミスト』や『ビジスタニュース』などに論考を寄稿。

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