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- 2008/12/26 掲載
【特集:創る(4)】エンタープライズRIAで企業のフロントエンドを書き替えるアドビの戦略(3/3)
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その意味でFlexは必ずしもすべてのアプリケーションに向いた仕組みとは言えず、「常時ネットワークにつなげられるインフラは整ってきたものの、オフライン利用への要望は根強かった(小島氏)」。そこで「オフラインでできる事はやってしまいましょうというのが、基本的なコンセプト」としてAIRが誕生する。AIRランタイムは、Flexを含め、Web技術をベースとしたアプリケーションをデスクトップで動かすことができる。
オンラインリソースとローカルリソースの双方を扱えるAIRのメリットを紹介するため、アドビが同社のWebサイトで紹介しているのが、オンラインアルバムなどに使われるファイルアップローダだ。AIRアプリケーションで作られたファイルアップローダならローカルリソースを利用できるので、ファイルのドラッグ&ドロップによる操作が可能。複数のファイルを1度に選択してアップロードすることもできる。従来のHTMLベースのWebアプリケーションでは、ファイルをひとつずつ選択する必要があり、多数のファイルをアップロードするのは難しかった。確かにこのこと自体は非常に何気ないことかもしれないが、逆に言うとこれまでのWebアプリケーションではそんなこともできなかった。
AIRはその出自ゆえに、アプリケーションとしてできることは限られているものの、Webとの相性の良さは折り紙付きだ。Webアプリケーションの高い汎用性をそのまま生かし、「バックエンドはそのままでフロントは使い勝手がよくなる。これがAIRの一番目指しているところ(小島氏)」。中でも非常に重要なポイントは、フロントエンドとバックエンドが1:1の関係になることを意味していないところだ。AIR/Flexを使った場合、バックエンドとはXMLによる通信が可能。つまりSOA(サービスオリエンテッドアーキテクチャ)との相性も抜群に良いのだ。「複数のバックエンドに対して1つのUIに統合する使い方を考えている企業ユーザーさんが多い(高嶋氏)」。シャープでの事例はその最たるものと言えよう。
その上でさらにコンフィグレーションされた使い方も可能になる。たとえば、バックエンドデータを自由にカスタマイズして、グラフとチャートでビジュアル化する。さながら車を購入する際に、自分の好きな色のパーツを選んで組み合わせたイメージを掴むことができるのである。バックエンドのデータとフロントエンドのデータがもしも1:1の関係であればこうしたことはできない。
AIRで狙うオフィスワーカーの革新
こうしてみるとアドビがAIRで狙うのはオフィスワーカーの革新、これはそのままPDFファイルを中核にしたドキュメント管理の拡大を狙う戦略と符合する。中でもAIRに先駆けて投入している「LiveCycle ES」はそれを最も具現化した製品だ。文書のデジタル化や文書の権限管理、デジタル著作権の保護や電子署名機能などを備えた「ドキュメントサービス」を提供するものである。AIRのデモとして投入したのがそのLiveCycleサーバへアクセスする「LiveCycle on AIR」である。このデモでは、PDFファイルに一定時間が経てば見られなくなくなる属性を付与したり、パスワードを設定したりといった操作がAIRならではのドラッグアンドドロップの操作で可能になる。ビジネス文書のデジタル化とその権限管理はどこの企業でも抱えている課題のひとつだが、ネットワークを経由してファイルにDRM情報を付与することで社内文書の管理と操作をスムーズに実現する。
この流れを換言すれば、AIRの登場で、旧マクロメディアが提供してきたFlashとアドビが従来から提供してきたPDFとの融合が、マクロメディアの買収から足かけ3年でようやく結実したとみることもできるだろう。もちろん、AIR/Flexそのものが企業のWebアプリケーションのフロントを大きく変貌させる可能性と、その結果もたらされる企業システムへのインパクトにも期待できる。アドビの持つキーテクノロジーであるFlashとPDF、これらをつなぎ合わせるAIR/Flexを軸としたエンタープライズRIA戦略の成否は、実は企業のユーザビリティに対する取り組み次第なのかもしれない。
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