• 2024/12/14 掲載

ユニクロの柳井氏も危機感、世界的な大企業もハマる「成功の復讐」というワナ(2/2)

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世界的な大企業もはまってしまう「成功の復讐」というワナ

 これは「イノベーターのジレンマ」と呼ばれる現象で、「成功の復讐」あるいは「経路依存性」ともいわれます。特定の技術や事業モデルでの成功体験が足かせとなり、次の波をつかみ損ねるという、勝ち組によくある落とし穴です。

 成功を収めたことで、従来の延長線上で何とかしようとすればするほど打つ手は狭まり、変革は起こせず、停滞します。リスクを恐れて、新しい大きな目標を打ち立てず、「前年比〇%増目標」のような安全運転をしていれば達成できる目標しか掲げなくなります。

 当然、世の中があっと驚くようなサービスや製品は生まれにくくなり、少しずつ衰退していきます。

 日本企業の凋落ばかり指摘しましたが、世界的な大企業もこのワナにはまっています。

 たとえば「写真フィルムの巨人」といわれた米国のイーストマン・コダックは、デジタル化に乗り遅れて法的整理に追い込まれました。

 また、かつて世界最大の自動車メーカーだったGM(ゼネラルモーターズ)も燃費の悪い大型車が生む利益に頼り、小型車シフトや環境技術など市場の変化の波に乗り遅れて、破産法を申請しています。

 アナログ携帯電話で大成功したために、デジタル化の取り組みが遅れたモトローラも、典型的な「成功の復讐」にはまってしまった企業のひとつでしょう。

 一方でGE(ゼネラルエレクトリック)は、祖業はエジソンが発明した白熱電球ですが、現在、GEの売上高に占める白熱電球の比率はほとんどありません。中興の祖であるジャック・ウェルチ氏による経営改革で、事業ポートフォリオの見直しに成功しました。金融業と製造業の複合経営は世界中の製造業のお手本になりました。

 ただ、GEは今、その複合経営が行き詰まり、電力タービンや医療機器などの製造業に専念しています。企業の成長と衰退は、常に紙一重なのです。

 こうした「成功の復讐」のワナを、柳井さんは当然熟知しています。ユニクロが目指しているのは「イノベーターのジレンマ」とは無縁の企業です。自己否定を恐れずに変わり続ける企業です。

 過去に成功したのはそのときの製品やサービス、戦略が環境に適合していたからに過ぎません。環境は常に変わるわけですから、企業も常に変革を起こし続けなければいけないのです。

 だから、変わり続ける。それも、経営陣だけが変革を叫んでも限界があります。カリスマ経営者が変革を起こせたとしても、それでは持続性がありません。その経営者が去ったらおしまいです。

 だから、ひとりひとりが変わり続けなければいけないのです。誰かに依存せずに、みんなが経営者の意識を持って仕事に臨まなければいけません。組織の成長は、そのひとりひとりの「変革」の力の総和にかかっているわけです。

ユニクロが変革を起こす「3倍の法則」とは

 もちろん、「変革を起こせ」「ひとりひとりが経営者の意識を持て」とただ叫んだところで、あまり実効力は上がらないでしょう。そこで、実践させるのに必要になるのが仕組みです。

 まず、目標を高く設定します。

 たとえば、柳井さんは「グローバルでナンバーワンのアパレルブランドになる」とよく宣言しています。今はスペインのインディテックス(ZARA)、スウェーデンのH&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)に続いて3位です。単純に売り上げだけで比較するとインディテックスはユニクロの約2倍で5兆円以上の売り上げがあります。正直、少し遠いですね。まさに大きな変革を起こさないと届かない距離感といえます。

 ここで有効になるのが「3倍の法則」です。ユニクロはイノベーションをドライブするために一定の目標達成が見えてきた段階で、現状の3倍程度の高い目標を掲げ、その実現のために10年がかりでのイノベーションをテコにした変革を果たしてきています。

 過去の成功体験のしがらみにとらわれることなく、さらなる成長を目指すのです。2023年度の売上高は約2・7兆円ですが、3兆円が視野に入ってきたところで、柳井さんは2023年に第4の創業・10兆円構想をぶち上げました。壮大な目標に映るかもしれませんが、この壮大な目標が変革には効果的です。

 人間は現状維持で満足しがちです。企業で働いていて目標を立てるとしても、現状を少し改善した程度になりがちです。前年度の取り組みを効率的に回して、前年度比で数%でも伸ばせば評価される企業が大半です。ただ、それでは持続的な成長にはつながりません。

 たとえば、「3兆円を3.5兆円にしなさい」と言われたら、今の延長線上で達成可能に思う人が大半ではないでしょうか。

 一方で、「3兆円を10兆円にしなさい」となると、根本的に考え方を変えないと絶対に実現が難しいと考えるはずです。ちょっとした改善策では不可能だと誰もが感じます。

 このマインドチェンジこそが狙いです。目標が壮大であれば、現状に満足することなく、試行錯誤する方向に意識が傾きます。自ずと、大胆なアクションを計画して試み、変革を起こす可能性も高まるというわけです。

画像
ユニクロの仕組み化』をクリックすると購入ページに移動します
これは米国のグーグルの「10X(テンエックス)思考」に似ています。

 これは社員にゼロベースでの思考を促すために、現状の数値に「0」を1つ足した目標(=10倍)を実現するにはどうやるかを考えさせる仕組みです。もちろん10倍の数値がそのまま目標となるわけではありませんが、「経路依存性」ともいわれる過去の成功体験に縛られないアウト・オブ・ボックスの発想を行うためには常識では、考えられない高い目標を掲げることが有効です。

 人間は環境に左右される生き物です。そうせざるを得ない状況に身を置けば、意識は変わります。

 高い目標を掲げることでそうした環境を整え、ひとりひとりが変革を起こす仕組みをつくっているのです。その仕組みが、グループ全体を底上げして、ユニクロの急速かつ持続的な成長を支えています。

※本記事は『ユニクロの仕組み化』を再構成したものです。

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