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自動車産業、半導体製造装置、工作機械など、まだ特定領域で高いシェアを誇る日本のモノづくりだが、国際的なポジションの低下も叫ばれている。そのような状況の中、今後、日本の製造業がさらなる飛躍を遂げるには、どのような課題を乗り越えれば良いのだろうか。昨年11月にPTCジャパンの社長執行役員に就任した神谷知信氏は、複数の大手外資系企業でグローバル事業を統括してきた人物だ。直近ではアドビのトップとして、同社のサブスクリプション事業を牽引し、クラウド事業に転換させた立役者でもある。そんな同氏に、国内製造業の復活のポイントについて話を聞いた。
もったいない…ターゲットを絞ってしまう日本企業
日本は少子高齢化を背景に、市場規模としては縮小傾向に向かうことが予想されています。そうした中で、日本企業がさらなる成長を求めるのであれば、国内の消費者だけでなく、世界を相手に事業を展開していく必要があるでしょう。
しかし現状、世界の消費者を意識できている日本企業はそれほど多くないように見えます。たとえば、日本の基幹産業とも言われる自動車業界にはEV化の波が押し寄せていますが、対応が進んでいるとは言えない状況です。国内市場を見ると、まだまだEV需要が高いとは言えませんが、国外ではEV需要は年々高まっています。
また、ここ数年の消費者の購買行動の変化も見逃せません。消費者はインターネットを通じて製品に関するあらゆる情報を収集し、比較検討をしてから商品を決める、という行動をとるようになりました。金額の大きい自動車購入の場合でも、ディーラーに足を運ぶ前に、ほとんどの消費者が車種もデザインも色も決めていると言われています。
こうした消費者の購買行動を踏まえると、消費者に選ばれる企業であるためには、企業が運営する公式SNSや、ネット上に用意した製品紹介ページ、店頭や街中に設置した広告など、消費者とのタッチポイントの在り方が重要になると考えています。
とはいえ、今の日本の製造業の中に、グローバル全体で一貫したCX(顧客体験)を整備できている企業は多くはありません。さらに言えば、消費者から吸い上げた声を商品開発に落とし込むところまで出来ている企業はわずかです。
今後、本気で世界を舞台に戦うことを考えるのであれば、日本企業は大きく変わる必要があるでしょう。モノづくりの実力は世界で見てもトップクラスの日本企業ですから、世界を見据えたモノづくりに変革できれば、大きく飛躍できるはずです。
日本企業の製造プロセスに潜む問題
もう1つ、日本の製造業が乗り越えなければならない課題があります。それが、モノづくりのプロセスの整備です。
これまで日本企業は、標準化された製造プロセスがなくても、現場の話し合いによる調整で非常に高い品質の製品が作れていました。このすり合わせの技術は世界的に見てもトップクラスであり、これが“日本製”の評価を支えていました。
しかし、あらゆる部品を世界中から調達するようになるなど、サプライチェーンのグローバル化が進んだことで、この日本特有のモノづくりでは現場が回らなくなってきています。今こそ、製造プロセスの標準化を進めなければ、品質維持や安定供給が難しくなる可能性があるのです。
とはいえ、これまでのモノづくりの在り方を変えていくのは簡単ではありません。現場の熟練技術者の“カン・コツ”に頼った製造プロセスが根付いた今の状況で、経営陣が大胆に変えようと号令をかけても、現場から反発の声が上がる可能性があります。この問題について認識している企業は多いですが、なかなか前に進まないのはこうした事情があるからです。
しかし、世界の競争相手はこの状況を待ってはくれません。中国やアセアン(ASEAN)諸国などの新興国が従来の考え方に捉われずに自由にモノを設計し、ベストプラクティスを導入しながらモノづくりを加速させている状況があります。既存のやり方に囚われない競争相手に対し、何十年もかけて作り上げてきたノウハウを持つ日本企業が、このノウハウに基づくモノづくりから発想を転換し、太刀打ちしていかねばならないのです。
とはいえ、日本企業の現場力はホンモノです。これを仕組み化できれば、世界を圧倒するポテンシャルがあると考えています。仕組み化を進めるべく、多くの日本企業はIT投資を加速させている状況もあります。ただし、モノづくりの実力向上につながるIT投資と、そうでないIT投資を見極めた投資判断ができているでしょうか。
【次ページ】モノづくりの実力を左右する「ある領域の投資」とは
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