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現在、世界中で大きな話題を集めているChatGPTだが、はたしてこの技術は製造業の現場やロボットにどれほど影響を与えるのだろうか。大阪大学大学院 基礎工学研究科 システム創成専攻(豊中キャンパス)教授 兼 国際電気通信基礎技術研究所(ATR)フェローの石黒浩氏はAIによって人間のようなロボットが登場しはじめれば、「日本が再び世界の製造の中心として復権していくチャンスが訪れる」と語る。石黒氏に製造業の未来を聞いた。
ChatGPTの衝撃、社会への影響とは
最近、革命的と言えるChatGPTがOpenAIから登場し、さまざまな産業やビジネスにおいて、大きな衝撃が走っています。実際に使ってみると、ChatGPTの中に本物の人間が入っている気になりませんか。実際にChatGPTの回答は平均的な人間の回答よりも優れているケースが多いように思います。
もちろん、今後ChatGPTはロボットにも実装されていきます。自然な対話ができるロボットになり、より人間に近くなるでしょう。そうなると、ロボットが人間にとって欠かせないパートナーになっていくはずです。
実際に、先般タレントのマツコ・デラックスさんの番組に8年ぶりに出演したときは、自分のアンドロイドにChatGPTを搭載して、自動で答えさせるようにしていました。ですから、自分のパラメータを入れておけば、アンドロイドが自分に代わって、それなりに回答することもできます。
我々の研究室では、以前からロボットによる対話の研究をしてきましたが、ChatGPTに搭載されている生成AIエンジンの最新版であるGPT-4の登場を受け、対話の研究はストップしてしまおうかと考えてしまうほど、GPT-4は優れていると感じました。人間同士の対話にある“間(ま)”までは再現できませんが、内容に関してはほかの技術では太刀打ちできないレベルまで達していると見ています。あれほどのデータ量を学習させたAIに、勝つことは難しいかもしれません。
ですから、これからの対話の研究は、ChatGPTをベースにそれをどう使うかということになっていくと思います。すでに言語を考えて話をする技術の部分は完成しており、今後はChatGPTを使って、どうロボットをうまく動かしていくか、たとえば視覚情報の活用法などの議論になってくるでしょう。ロボットもコンピューター、OS、GPT、その上に、色々なシステムが載ることになっていきます。
ソフトバンクのPepperも良かったのですが、市場に投入する時期が早すぎました。今、PepperにChatGPTを搭載したら、一般常識を持った人間のようなロボットになり、状況もだいぶ違ってくるでしょうね。
ChatGPT登場に危機感、今すぐ国策で注力すべき領域とは
今後は、ChatGPTによってビジネスの世界はガラリと変わりそうです。そのような中で、日本も国策として日本版GPT(LLM:大規模言語モデル)を作っていく必要があるだろうと危機感を覚えています。ChatGPTは英語ベースですし、日本語のデータは全体の数パーセントしかありません。それでも日本語でもかなりちゃんとした答えを返してくれるのですが。
しかしOpenAIはコア技術は外には出さないとアナウンスしていますから、もし1から開発するとなれば多額のコストがかかるしょう。マイクロソフトも1兆円を投入すると発表しています。もし日本企業だけで進められないのであれば、国家プロジェクトとして、政府が早急に取り組んでいかなければいけないと思いますね。
加えて、人材の問題も同時に考える必要があります。今のところITもネットも、すべて米国主導で外堀を埋められてしまっている状況にあり、これから日本政府が動き、どれだけAIエンジニアを育てることができるかがポイントになるでしょう。
さらに言えば、人材よりも日本語のデータ量が少ないことのほうが問題です。日本では、最近ようやくマイナンバーも普及し始めましたが、個人情報の問題やデータ管理も含め、利活用できるデータの量をどう増やしていくかを真剣に考えていかなければならない局面になってきたと思います。
ChatGPTのようなLLM開発は、日本でも国策としてマストで進めていくべきですが、ほかにも注力したい技術が多くあります。
たとえば、バッテリーはロボットにも電気自動車(EV)にも重要な要素技術です。いま中国の後塵を拝していますが、もともと日本の得意技術なので、これから性能も上がり、EVの走行距離もロボットの稼働時間も伸びていくはずです。
【次ページ】AI時代に日本が世界の製造のスタンダードになれる理由
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