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  • 2023/06/05 掲載

IVI理事長 西岡靖之氏が語る、未来のTSMCは「日本企業」から誕生するかもしれない理由

Seizo Trend創刊記念インタビュー

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現状、日本の製造業では自動車産業が1番強い分野であり、これが世界と戦える数少ない分野となっている。日本の自動車産業が強いのには理由があり、それは“匠の技術”の形式知化を通じて、ものづくりを標準化してきた歴史があるからだという。自動車に続く世界と戦える産業を生み出すにはどうすれば良いのだろうか。また、日本のものづくりの躍進には何が必要なのだろうか。IVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ)の理事長で、法政大学大学院デザイン工学研究科 システムデザイン専攻教授でもある西岡靖之氏に話を聞いた。
聞き手:中澤智弥、執筆:井上猛雄、写真:濱谷幸江

聞き手:中澤智弥、執筆:井上猛雄、写真:濱谷幸江

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IVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ) 理事長
法政大学大学院 デザイン工学研究科 システムデザイン専攻教授
西岡靖之氏
1985年に早稲田大学・理工学部機械工学科を卒業後、国内のソフトウェアベンチャー企業でSEを経験。1996年に東京大学大学院・博士課程を修了。東京理科大学・理工学部経営工学科助手、法政大学・工学部経営工学科専任講師、米国マサチューセッツ工科大学客員研究員(2003年~2004年)などを経て、2007年から現職

理解しておくべき…日本企業のリアルな現状

 日本では自動車産業など特定の領域に強い分野がありますが、製造業全体で見ればうまく機能していない部分もあると言えます。それは、それぞれの企業が垂直統合モデルのまま閉じており、水平分業が進んでいないことが関係しています。

 たとえば、一部の海外企業では、自社の強みとなる競争領域と、そうではない非競争領域をしっかりと見極めた上で、非競争領域における製造プロセスにおいては外部のラインビルダーやEMS(製造受託企業)などに委託しながら生産スピードを加速させています。また、このように水平分業を進めることで、自社の競争領域を磨くことに時間を割けています。

 近年は、日本でもオープン化が叫ばれるようになりましたが、アプローチを間違えると、これまで日本企業が蓄積してきた強みが失われることになりかねません。

 なぜなら、日本の場合は、「どの領域をオープンにし、水平分業を進めていくか」という議論の以前に、そもそも「自社がなぜうまくいっているのか、競争領域がどこにあるのか」を把握できていない企業も少なからず存在するからです。特に、中小企業にはその傾向があります。

 そうした企業に見られる特徴として多いのが、製造工程などにおける技術やノウハウを特定の“人”が保有しており、それがマニュアルなどによって形式知化されていない状況が挙げられます。仮に優れた技術や製造ノウハウを有していたとしても、それらが形式知化や標準化がされていなければ、デジタル化することも難しいでしょう。オープン化どころか、他社とつながりデータを共有・連携することも困難でしょう。

 そこで、まずは会社の仕組み自体を棚卸し、どんな業務・生産フローで、ノウハウがどこにあるのかを確認していただきたいです。必要なことは、とにかく自分たちの技術やノウハウを形式知化し、その上で外部と協調して情報共有しても良いところと、隠しておくべき競争領域を明確にすることになります。

未来のTSMC? 受託製造企業にチャンスがある理由

 このように、製造業全体で見れば課題もありますが、中小企業の中でも競争力があり、知る人ぞ知るというような、十分に伸びる実力を秘めた企業は、まだ多く残っています。

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日本の中小企業のポテンシャルについて解説する西岡氏

 たとえば、表面処理や特殊加工などの特定工程を請け負うような受託製造企業にはポテンシャルがあります。これらはニッチですが、同じ生産プロセスを担い続けてきた結果、ノウハウをかなり蓄積しています。上流工程の企業ですら強く交渉できないほど、必要不可欠な生産工程をグリップしており、その立場を利用して、むしろ交渉権を持てるスタンスにあります。

 製造受託と聞くと、下請けのようなイメージを持つ方もいますが、半導体製造ファウンドリーのTSMCのような成功事例があるように、製造プロセスを一挙に引き受けるということは、ボリュームビジネスになり得るわけです。

 このように、日本の中小企業は、特定のプロセスに特化することで、EMSやOEMの領域も伸ばせるかもしれないのです。また、プロセスを設備化して売る、というラインビルダーのようなビジネスにも勝ち筋があると考えられます。

 ただし、そういった可能性を引き出すためには、前述のように技術やノウハウの形式知化、デジタル化を進めなければなりません。担当者の頭の中だけで知識化されていたり、経験値の塊になっていたり、それに合わせて設備も最適化されたままでは、そのノウハウを外販するということにはならないからです。

 したがってDX前段階として、繰り返しになりますが、技術やノウハウの形式値化が求められるのです。

 今後、ビジネスのチャンスが舞い込んできたタイミングで、自社のノウハウについてヒアリングされても、すぐに情報が出せない、または特定の技術者以外は答えられないという状況では難しいでしょう。せめて、技術やノウハウを蓄積した当事者ではない人でも、ある程度、自社の技術やノウハウについて答えられるように、ドキュメント化しておくことが大切です。 【次ページ】乗り遅れたらヤバい? 世界の製造業の超重要トレンドとは
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