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近年、欧州を中心に、企業・業界間の垣根を超えて、各企業が事業を通じて蓄積したデータを共有し、新たな価値の創出を目指そうとする取り組みが急速に進んでいる。また、そうした取り組みを推進する存在として、
「
IDSA」や「
GAIA-X」、「
Catena-X」などが注目を集めている。このように、データ共有の在り方を模索する流れがある中で、現在、製造業固有のデータ共有の在り方を整備しようとする「Manufacturing-X」と呼ばれるデータ共有基盤構築に向けた構想が立ち上がってる。今回は、Manufacturing-Xとは何かをやさしく解説する。
今、欧州で何が起きてる? 見落としてはいけない最新動向
現在、欧州で進むデータ共有の在り方を模索する取り組みに関して、多くの人の目が行きがちなテーマが、「各企業が保有するデータのうち、どこを他の企業と協調する領域に設定すべきか」や「データ共有・交換を行うための標準をどう作るか」という点だ。しかし、その裏側の動きにも留意する必要がある。
なぜなら、欧州企業を中心に、すでにデータ共有の標準に沿った具体的なデータ共有のためのソリューション開発や、欧州電池規制をはじめとしたデータ共有をすることがビジネス上必須となるようなルール作りがセットで進められているからだ。
そのため、標準などの開発の動向を様子見し、標準が出来上がった段階で活用を検討するといったスタンスでは大きく後れを取ってしまうことに注意しなければならない(図表2)。
Manufacturing-Xとは
そうしたデータ共有に向けた流れがある中で、立ち上がってきた構想が「Manufacturing-X」だ。Manufacturing-Xとは、製造業固有のデータ共有基盤の構築を進めようとするプロジェクトだ。
すでに、製造業の中でも、自動車業界においてはCatena-X(自動車業界のデータ共有エコシステム構築に向けた取り組み)が存在するが、Manufacturing-Xでは自動車を含めた製造業全体が対象となる。Catena-Xを土台(BluePrint)としつつも、製造業のセクター横断で進めていくイニシアチブとなっている。
2022年8月31日に承認されたドイツ連邦政府のデジタル戦略においてManufacturing-Xが提示されたのがはじまりだ。なお、VDMA(ドイツ機械工業連盟)は主導している組織の1つであり、その他ndustry4.0推進組織であるPlatform Industrie4.0や、SAPをはじめとするドイツ主要企業が取り組みをリードすると見られている。
Manufacturing-Xの構想が立ち上がった背景
Manufacturing-Xの検討が進む背景には、新型コロナウイルスの感染拡大や、ウクライナ危機、エネルギー危機・原料価格の高騰、気候変動が関係している。これら変化により、世界では供給の不足や生産停止、インフレなど進み、現在、急速に景気後退リスクが高まるなど競争環境が悪化している。そうした危機感もManufacturing-Xの検討が進む理由にある。
また、ドイツの産業としては中小企業が多いという特徴があり、これら中小企業がプラットフォーマーに依存しない相互運用性の高いデータエコシステムの構築が求められている。その裏側には、欧州としては図表4のとおり、莫大なデータをもとに競争力を持つ米国や中国をはじめとするメガプラットフォーマーへの対抗軸を打ち出すという思惑も存在する。
Manufacturing-Xの「3つの目的」
Manufacturing-Xが掲げている目的は大きく3つに分かれる。
Manufacturing-X
(1)レジリエンス
インシデントに迅速に対応できるバリューネットワークの再構築
(2)持続可能性
新しいビジネスモデル、循環型経済、効率性の向上
(3)競争力
ドイツ産業のグローバル・リーダーシップの確保、デジタルイノベーションの拡大
このように、Manufacturing-Xが掲げる目標は、人間中心とともにレジリエントやサステナビリティをコンセプトに掲げる欧州委員会の「インダストリー5.0」や、ドイツがIndustry4.0の次のコンセプトとしてデータ共有につながる自己決定権・自律性やサステナビリティ、インターオペラビリティを掲げている「Industry4.0 Vision2030」と大きくリンクしている形となる。
【次ページ】Manufacturing-Xの超重要な「5つの柱」
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