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生成AIであるChatGPTの流行で、AIの開発競争に一気に火がついた。あまりの急激な技術進歩に対し、EUでは生成AIを規制する統一ルールの年内合意を目指す一方、米議会もプライバシー保護、倫理道徳、安全保障などの側面からAI規制に向けた議論を開始している。AI規制論がヒートアップする一方、米国はこれまで自由放任主義によってAI開発を大きく発展させてきた。AI規制となれば開発スピードが遅れる可能性もある。AI開発の今後を左右する重大な局面に対し、米国はどのような選択をするのだろうか。そのカギを握るものとは何か、現在地を探ってみた。
AI経済規模の予想がなんと「1京ドル超え」!?
米テック業界は今、「開拓時代の自由さ」を謳歌するAIブームに沸いている。金融大手バンクオブアメリカは
2月28日付の分析で、2030年にAIは世界経済に対して年間157億ドル(約2兆1,350億円)規模の貢献をすると予測した。一方、カリフォルニア大学バークレー校のAI専門家であるスチュアート・ラッセル教授は、AIの経済規模が「1京3,500兆ドル($13.5quadrillion)」までに発展すると
予想する。もはや天文学的な領域だ。
現在の米国におけるAI開発は、法的規制がほとんどなく、自由放任主義で企業や研究所に委ねられている。それを前提にしているため、先述のような青天井の予測が可能だったと言える。規制がガチガチでは「1京ドル超え」の規模は達成できないだろう。
他方、欧州は規制に積極的だ。イタリアが3月31日に、ChatGPTの使用を一時的に禁止した。それに続き、ドイツやフランスなど他のEU主要国も規制論が浮上している。
だが欧州は、AI分野ですでに米国に大きく後れをとっていると
指摘されており、規制でユーザーを保護できても、AI開発自体はさらに取り残される可能性がある。これは、米国と欧州のIT規制の基本姿勢、および産業発展の度合いの差とも共通点がある。
米ITが世界トップである秘訣は「自由放任」
EUは2018年に、いち早く一般データ保護規則(
GDPR)を導入した。これに対し米国では、カリフォルニアなど一部の州におけるローカル規制止まりな上、米議会が審議する米国データプライバシー法案(ADPPA)やその他の業界規制法案は一向に前進していない。しかし規制とは裏腹に、米国はIT分野における世界トップのリーダーの地位を得ている。
事実、米フォーブス誌が2022年に
集計したところ、世界で最も売上が多いIT企業164社のうち、半数以上の72社が米国企業であった。AI分野においても、ChatGPTを開発したOpenAIやそのライバルとしてBardを提供するグーグルなど米国企業が世界をリードしている。
スタンフォード大学の人間中心AI研究所のラッセル・ウォルド氏は、「米国はAIの商業開発に、より放任的なアプローチを採っている」と
分析する。つまり、米国はIT企業の自主規制が主流の考え方であり、AI規制論もその大きな枠組みの中で行われている。
しかし米世論ではAIについて、業界の自主規制では不十分だとの意見が大勢を占める。マサチューセッツ工科大学でAIに関する教鞭を執るアレクサンダー・マドリー教授は4月5日に米議会で証言し、「米政府はその責任を放棄して、AIの未来をIT大企業の手中にのみ委ねてはならない」と非難した。
こうした中、包括的なAI規制に向けて、バイデン大統領自らが言及するなど、米議会が動きを見せ始めている。
【次ページ】AI規制に舵を切る?「フェイスブックの大失敗」から何を学べるか
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