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- 2023/06/01 掲載
工場2000拠点を視察して実感、藤本 隆宏教授が「製造業衰退は大間違い」と断言のワケ
Seizo Trend創刊記念インタビュー
「製造業の衰退」は錯覚? ちゃんとデータを見て判断せよ!
日本のGDPはいま500兆円強ですが、この30年間、日本経済は500兆円前後でほとんど成長していません。一方、米国、中国、欧州、アジアの多くの国ではGDPはどんどん伸びました。日本は完全に置いてきぼりで、この件の成長戦略はおおむね失敗と言わざるを得ません。こうした日本経済全体の停滞感が影響してか、日本の製造業に関しては「製造業全体が競争力を失って、どんどん縮小している」「全面的に空洞化している」というような議論を、この20~30年、かなり多く聞いてきました。しかしそれは、経済理論にも、統計的事実にも、多くの現場の実態にも一致しない、総じて間違った論説だと言わざるを得ません。
たしかに、テレビや半導体のように、局地戦で大敗した産業分野はあります。しかし、「局地戦で負けたから、製造業全体でも負けている」という製造業悲観論は、部分と全体の混同、つまり誤ったロジックに陥っているのです。
製造業の生産性は全体よりも「3割高い」
そこで、国の統計に基づいて、日本の製造業の実質付加価値額の実際の推移を見てみると(図1)、1990年代は80兆円台でしたが、2021年は約110兆円超で、日本のGDP(国内総生産)の20%強を占めています。30年間でこの程度ですから、中国などに比べればまったくの低成長と言わざるを得ませんが、少なくとも縮小・衰退の事実はありません。ちなみに、いわゆるG7国の中で、製造業がGDPの20%以上を占めるのは、ドイツと日本だけです。
一方、その期間の製造業の就業者数を図1で見ると、30年前は約1500万人、今は1000万人ほどです。つまり、日本の製造業は、約110兆円の付加価値を1000万人で生み出しているので、前者を後者で割った付加価値生産性は、年間の1人あたりで約1,100万円です。
今や日本の生産性は低いとよく言われますが、それは産業全体の話で、全体の労働人口が約6700万人、付加価値が500兆円強なので、付加価値生産性は年間1人あたり約800万円です。しかし製造業だけを見れば、前述の約1,100万円。サービスなど非製造業を含む産業全体よりも3割以上も高いわけです。
過去30年間、ポスト冷戦期の日本製造業、特に貿易財産業は、冷戦終結で突然東西分断の壁の向こうから出現した、賃金約1/20の低賃金人口大国・中国とのコスト競争で、悪戦苦闘を続けてきたわけです。いわば20倍のハンデを背負った日本製造業が、少なくとも30年間、縮小しなかったということは、これはこれで大変な頑張りであったと評価すべきでしょう。 【次ページ】「貿易赤字20兆円」は製造業の衰退を意味するのか?
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