• 2024/11/15 掲載

生成AIは創作の現場でどう使われている? 「制作コストゼロ」は実現するか(2/3)

稲田豊史のコンテンツビジネス疑問氷解

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
19
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。

AIはどこまで「物語」を作れるのか?

 ただ正直言って、これらはいずれもアシスタント頭脳的な使い方にすぎない印象だ。もっと直接的に、物語そのものを一から作ってくれたりはしないのだろうか?「膨大な学習データの中から、最適な組み合わせを見つけ出す」ことを得意とする生成AIにしてみれば、古今東西あらゆる「面白い物語」の王道展開パターンを学習した上で、そのバリエーションを瞬時に生成することはお手の物のように思えるが。

 しかし小林氏としては、「現時点では、まだ使えない」という。理由は、「あらすじ」と脚本家が書き上げる「映像作品用のシナリオ」は異なるから。

「ぶっちゃけ、組み合わせのパターンであらすじだけは作れます。シナリオの本でもよく言われていますが、物語のあらすじというものはもう世の中に出尽くしていて、10パターンくらいに分類できてしまうという説もある。ただ、あらすじのパターンは有限でも、キャラクターは無限です。なぜなら、キャラクターには感情があるから。1人ひとりには別々の感情があって、それはパターン化できない。人間の感情の機微って、理屈で計算できるほど単純ではなくて、もっと複雑で奥深いということを、シナリオを書きながら日々感じています。だから、学習したデータからキャラクターの“属性”まではパターン化できても、感情の抱き方や変化まではパターン化が難しいのではないでしょうか」(小林氏)

 それゆえに、感情が「セリフ」や「ト書き」の形で落とし込まれた映像シナリオの生成は、現在の生成AIには難しいのでは、というのが小林氏の意見だ。

 ただし、小林氏と同世代で40代のある脚本家は、プロット作りに生成AIを使っているそうだ。当然ながらそのままは使えず、組み換えや修正は必要だが、使い所があると考えるプロの脚本家もいるという事実は興味深い。なお小林氏はこの話を本人から直接聞いたというが、「かなり驚いた」そうだ。

生成AIは「編集者の代わり」

 では、漫画はどうなのか。コマ割りや描画はクリエイター自身が担当するとして、その骨子となるストーリーをゼロイチで作ってくれたりはしないのか。

「できるかできないかでいったらできると思います。ただ、ボタン1個押したらポンっとお話が出てくるというよりは、相当な量の“対話”を繰り返す必要がありますね。現在の生成AIだと」(小沢氏)

 小沢氏いわく、生成AIにプロットに関する相談をすることもあるが、連載が進み、キャラクターがある程度動き出してくると、その必要性はなくなっていくという。むしろ活用するのは、新連載の序盤だ。

「漫画連載が決まるかどうかは、最初の3話にかかっているんです。編集部は最初の3話を企画会議にかけて、連載するしないを決める。だから僕、本当に売れてる漫画30本くらいのプロット構造をExcelに落として、それぞれの作品をプロットにおこして抽象化した、“無敵の頭3話フレームワーク”を作ってみたんですよ」(小沢氏)

 なんともワクワクする。さまざまなジャンルの漫画に適用できる、売れる漫画の「典型的な展開」、魔法のレシピというやつだ。ただ、ここまでは完全に人力である。

「で、“無敵の頭3話プロット”を下敷きにした自作の冒頭3話を作るにあたり、3話分の展開順に細かく質問してくれるMyGPTsを作ったんですよ。こちらの構想がぼやっとしていて何となく逃げているシーンや描写を、具体的にどこまでも問い詰めてくれる」(小沢氏)

 つまり「編集者の代わり」だ。ブレストの相手であり、アイデアのヒントをくれて、作品に穴がないかを指摘してくれる人(AI)、というわけだ。

画像
壁打ちの相手をしてもらう AI編集者GPT

 逆に物語の序盤ではなく、終わった後、つまり「続き」を作ってもらうのに生成AIが向いているのではと考えるのが小林氏だ。

「生成AIは、ヒットした映画やドラマの続編、スピンオフなんかのあらすじ作りは得意だと思います。この時間軸とこの時間軸の間に何が起こった? みたいな質問を投げて、何パターンも作ってもらう。用途としては、映像シナリオというよりその前段階、テレビ局なり映画会社なりのプロデューサーが企画書用に作るあらすじテキストですね」(小林氏)

 実際、企画書用の簡単なあらすじは、脚本家ではなく企画者であるプロデューサーが自分で書くのが通例だ。

「企画書は内部資料ですし、どっちみち仮のものだから、シナリオレベルの精度は必要ありません。企画が通ったら、きちんとしたレベルのものを脚本家が書けばいいわけですから。あとはたとえばですが、すでに作品化されているIPのこのキャラとこのキャラを、この世界観の中で共演させたオールスター映画のあらすじは?……とか。もうすでに誰かがやってる気もしますけど(笑)」(小林氏) 【次ページ】AIはどこまで「絵」を描けるのか
関連タグ タグをフォローすると最新情報が表示されます
あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます