• 2006/05/25 掲載

【コロムビアCEO廣瀬氏インタビュー】音楽ソフト産業のイノベーションと復活への戦略(2/3)

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顧客の利便性を訴求しシングルソース・マルチプロダクトへ


――メディアが拡大し、デジタル化の波が押し寄せているからこそ、音楽ビジネスも変わっていくということですか。

廣瀬●音楽はデジタルの世界にもっともふさわしい商品ですし、事実、デジタル化では先行していました。本当はいつでもネットに乗せられる状態で、たまたまネットの方が遅れていたわけです。
 これまで売り方としてはCDだけでしたが、携帯が普及し、DVDが出て、ネットでも配信できる。コンテンツの提供の仕方が増えてきますので、今後は「シングルソース・シングルプロダクト」の時代から「シングルソース・マルチプロダクト」の時代に変わっていきます。
 シングルプロダクトで採算を合わせようとしても、それは不可能です。そうではなくて、様々なデリバリーをする。簡単な例をあげれば、スーパーマーケットとコンビニエンスストアの違いですよ。両者は同じものを売っていますが、スーパーは安さを、コンビニは利便性を訴求しており、それぞれ値段が違うでしょう。音楽も同じで、受け手の利便性によって価格を変えた売り方があってもいいはずです。


――具体的にはいつ頃、変化が起きるのでしょうか。

廣瀬●私は、06年頃に色々なことが変わるだろうと見ています。まず今のペースでCD市場が縮小します。したがってCDだけのビジネスはもう成り立たなくなります。
 また、その頃には携帯電話がブロードバンド化されるでしょうから、音楽ダウンロードは携帯電話を対象とするようになります。携帯のマーケットは約8000万。ということは、我々は8000万人に対してダイレクトに音楽を売れるようになります。消費者と音楽制作側のつながり方がまったく違ってくるわけです。

 実はもう1つ、隠れたディマンドがあります。テレビ放送です。テレビは音楽なしでは成り立たない商売で、あらゆる番組で主題歌や挿入歌といったサウンドトラックを使っています。今それが目立っていないのは、東京ですら7つしか地上波チャンネルがないからで、06年に地上デジタル放送が各地で展開されますと、チャンネル数がものすごく増えるはずです。おそらく100チャンネル、仮に140チャンネルとなると、単純計算で音楽需用は20倍に膨らみます。
 もっとも、放送局1社あたりの広告料金が減るでしょうから、我々の収入が20倍になるとは思いませんが、キャパシティが変わるのは間違いありません。トータルのマーケットとしては何倍にも拡大する可能性があります。


音楽の価値体系が変わった
不可逆的な流れの中でプレーヤーも入れ替わる



廣瀬●音楽の楽しみ方に関して、今非常に面白い現象が起きています。ハードディスク内蔵型の携帯音楽プレーヤー「iPod」が一昨年、日本で売り出され、いったんは行き渡ったといわれながら、しばらくすると、またヒョイっと売り上げが伸びる。踊り場現象が見られます。これを分析したところ、ユーザーが購入し、音楽の読み込みの容量がいっぱいになると、その機種は売れなくなることがわかりました。そこで容量が大きな機種を発売すると、また売れる。その繰り返しなのです。
最新機種は40GBで、最大1万曲入りますが、普通、CDを1万曲分も買う人はいません。部屋に入りきらないし、聴くのも大変です。ところが、iPodのユーザーは4000曲、6000曲入る機種が満杯になると、1万曲入るのを買う。容量が小さいiPodミニは何台も買っておいて、製品の色別に音楽ジャンルを変えて使ったりもしているようです。

 このことから何がいえるか。これまでリスナーは自分が聴きたい音楽を買っていましたが、今は聴きたい音楽をとりあえずiPodに入れておくというように、消費行動が変わってきたのです。私は、音楽の絶対的ディマンドは「人数×聴ける時間」だと思っていました。しかし、聴ける時間はもう制限ではなくなりました。なにしろ、iPodを満杯にしている人は、1曲100円としても100万円の音楽資産をポケットに入れて歩いているのですよ。だからiPodを落としたときは「(製品価格の)4万5000円を落とした」ではなく、「100万円落とした!」ということになる。使う人によって価値がぜんぜん違う道具になりうるし、もっといえば、音楽に対する価値体系をはっきり変えてしまったのだと思うのです。


――人々の音楽に対する価値体系が変わったとすれば、今後、制作側はどう変わっていくのでしょうか。

廣瀬●価値体系に合わせたビジネスにするという意味では、コストは以前よりぐうっと下がるでしょう。典型例がデジタルカメラです。かつてはフィルムを買い、写真を撮ったらDPE屋に持っていって現像、プリントでまたお金が必要でしたが、デジカメの普及によって、写真を撮るコストは非常に下がりました。音楽もそうなるはずで、制作課程と聴く過程にデジタルを放り込むことによってコストが変わります。この現象は不可逆ですから、止めることはできません。一時的な時間稼ぎはあったとしても、世の中の流れを止めるのは不可能なのです。


――業界にはデジタル化の流れに抵抗している企業もあるようです。コロムビアとしてはどう動きますか。

廣瀬●競艇って、コーナーを曲がるときに順位が入れ替わるでしょう。スピードが上がりすぎている艇はオーバーランするから。コロムビアは今、売り上げ競争というレースの後ろの方を走っています。しかし、だからこそうまく急コーナーをうまく回れる。そういう感じで頑張ってます。
 現在の当社の状況を数字だけで考えたら、コストを削って売り上げを伸ばすのが従来型の再生方法です。しかしマーケット全体が縮小しているときに売り上げを伸ばすのは、ものすごく大変です。もちろん伸ばしたいですけど、売り上げだけに依存してはいられないし、うれしいことに業界が今、変わりつつあります。

 ビジネスの転換点ではプレーヤーが入れ替わるものです。新しい技術をいち早く持ち込んでビジネスモデルを変えてしまった所が勝つのです。先ほど話したデジカメの世界でも、カシオやソニーがカメラを作るとはだれも想像していなかったでしょう。
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