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  • 2006/05/25 掲載

【コロムビアCEO廣瀬氏インタビュー】音楽ソフト産業のイノベーションと復活への戦略

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CD販売が低迷を続ける中、携帯電話やインターネットでの音楽配信が注目を集めるレコード業界。向かい風とネットビジネスへの波が渦巻く中、コロムビアミュージックエンタテインメントの経営再建を請け負ったのが廣瀬禎彦代表執行役員兼CEOだ。かつてIT業界で伝説の営業マンとして名を馳せた同氏が語る音楽産業のイノベーションと老舗復活への道筋とは。

知財・知識活用 コロムビアミュージックエンタテインメント
代表執行役兼CEO
  廣瀬禎彦

●最終学歴
1969年 慶応義塾大学大学院工学研究科修士課程 卒業

●主要経歴
1969年4月 日本アイ・ビー・エム株式会社 入社
1982年1月 同社 金融機関開発本部 都市銀行担当営業所長
1986年10月 IBM Corporation出向 Corporate Marketing Staff
1989年1月 日本アイ・ビー・エム株式会社 広報・宣伝部長
1991年4月 同社 西部営業統括本部長
1996年1月 同社 コンシューマ事業部長
1996年6月 株式会社アスキー 常務取締役
1996年10月 同社 専務取締役
1998年6月 株式会社セガ・エンタープライゼス 代表取締役副社長
1999年10月 アットネットホーム株式会社 代表取締役社長 兼 最高経営責任者
2003年12月 同社退社
2004年1月 コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社 代表執行役 兼 最高経営責任者(CEO)
2004年6月 取締役代表執行役 兼 最高経営責任者(CEO)



――コロムビアミュージックエンタテインメントは100年近い伝統を誇るレコード会社ですが、90年代初頭から最終赤字が続き、現在は米国リップルウッド・ホールディングス傘下で再建途上にあります。長年、IT業界で活躍し、そして今、老舗レコード会社の経営に参画されて、改めてこの業界の状況をどう見ていますか。

廣瀬●レコード業界は昨年から来年にかけて、業界全体のCDビジネスが赤字になる、つまり損益分岐点を割ってしまう状況です。目に見える動きとしては最近、各地のCD販売店が次々に廃業に追い込まれています。大きい店は、まだ体力があるので耐え忍んでいますが、小さいところはもとより、地方の中堅ショップまでが店を閉めています。
 レコード産業が元気なら、出店数は増えるはずです。しかし実際は昨年の8月、9月だけを見ても、全国で数店、それなりに名の知られた販売店が廃業しました。CDの販売拠点そのものが減り、我々にとっては、お客様との接点が激減しているというのが現状です。

 レコード業界のピークは98年でした。その年、CDの販売額は6000億円を超えていたのです。それが毎年10%減のペースで昨年は約4000億円まで下がりました。今年はおそらくさらに減少するでしょう。
あらゆるビジネスにおいて原価率はだいたい6割ですので、ピーク時の3分の2まで市場が縮小したということは、業界全体の原価割れを意味します。特にソフト産業は固定費比率が高く、損益分岐点を超えてからの限界利益が大きいビジネスです。したがって、販売数量がある一線を切りますと、コストをセーブできず、カタストロフィカルに状況が悪くなりますよね。


音楽へのディマンドは増えている
今こそ、ビジネスデザインをやり直す絶好のタイミング



――音楽コンテンツの数は減っていないようですが、なぜCDの売り上げが落ちているのでしょうか。

廣瀬●コンテンツの数は減っていませんし、我々が音楽と接している時間も減っていません。それどころか、音楽に対するディマンドはますます増えてくると思っています。市場構造が変わったわけではないのです。
 ただ、音楽をパッケージ商品として提供する形は、もう今の社会状況に合わなくなっている。市場とサプライヤーがアンマッチな状態にあるのです。
 CDの売り上げが落ちたベースには、いくつかの原因があります。1つは消費者のお金の使い道がCDから携帯電話に移っていることです。CDをたくさん買うのは15~25歳の人たちですが、この世代の携帯電話の月間使用料金は8000円~1万円に達しています。CDに換算すると3~5枚分くらいですから、これは非常に大きな数字です。また、携帯は習慣性の強い商品です。使用料がどんどん増えれば、お小遣いのかなりの額がもっていかれてしまうでしょう。

 もう1つの原因は、DVDが98年に離陸を始めたことでしょう。一見、同じパッケージビジネスのようですが、DVDは音楽と映像の両方を消費者に提供する点がCDと異なります。消費者にとっては余暇の過ごし方で選択肢が増えたことになり、しかもCDアルバムより安い。発売からしばらくすると、1500円とか980円ぐらいまで値段が下がりますので、エンタテインメントとしてパワーがあるだけでなく、価格弾力性のある代替商品といえます。

 さらにその次に起きたのが、音楽ダウンロードやコピー技術の進化です。01年にヤフーBBがスタートし、ブロードバンドインターネットのユーザーが一気に増えました。ブロードバンドのメリットは情報が速くやり取りできることであり、そこに目を付けたのが音楽データの交換アプリケーションを出したナップスターということになります。そうした3つの段階を経て今に至っていると私は見ています。


――レコード会社の事業が落ち込んでいるということは、これから業界再編が起きる可能性がありますか。

廣瀬●インターナショナルメジャーのレコード会社はそうした方向に向かい、その過程で作品点数を絞って、採算性をあげようとしています。しかし市場のディマンドが減ったわけではないのですから、作品数が減れば、消費者の選択肢が狭まることになります。単純に統廃合で会社の規模を大きくすれば、うまくいくかというと、難しいでしょうね。
 例えば自動車産業なら、2社が統合されれば、車種は半分に整理されます。同じ1300ccの車ですと、ユーティリティはそれほど変わりませんから、メーカーにとっては1車種あたりのロットを増やすことで採算性を維持できます。

 しかし、音楽CDの場合は1つ1つ商品の中身が違います。ステップとして作品点数を減らし、ロットサイズを増やそうという動きが現実にあったとしても、それだけでは対応に限界があるでしょう。
私がコロムビアに移ってくる際、この業界は面白そうだなと思ったのは、音楽のパッケージ販売は、ここ100年間ぐらいのビジネスだということです。つまりエジソンが円筒型蓄音機を発明してからちょうど100年ほど経ち、今後はパッケージから離れて、音楽を情報として扱うビジネスに変わっていく。ビジネスデザインのやり直しが求められているのが今のタイミングだと思います。
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