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  • 2022/05/30 掲載

EVシフトで加速する「ロボットセル」への移行、Mujin 滝野CEOに聞くFA向け成長戦略

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自動車業界では電動化、いわゆる「EVシフト」が加速しつつある。それは自動車の作り方自体も急速に変化していることを意味する。では、ロボットはどんな役割を果たすことが期待されているのか。注目のロボットスタートアップMujinでは、自動車製造は従来の「専用ライン方式」から「知能ロボット」とAGV(無人搬送車)を活用した、より柔軟な「ロボットセル」へと移行しつつあると見ている。具体的にはどんなイメージなのか。今後のトレンドを知るために、改めて Mujin CEOの滝野一征氏に話を伺った。
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2022国際ロボット展のMujinブース

物流で培った経験で再び工場自動化へ

 産業用ロボット向けの「知能ロボット」コントローラーと3Dビジョンの開発・販売、それらを活用した自動化ソリューションを手掛けているMujinは、物流分野でのパレタイズ・デパレタイズなどの自動化で知られている。本連載でも以前からお知らせしているとおり、新たな分野への浸透、そしてマネタイズがとても難しいロボット業界において、「成功している」と言える、数少ないロボットスタートアップの一つだ。

 Mujinは2016年に経済産業省の「ロボット大賞」を獲得するなど、本連載でフォーカスした2018年最初の時点で既に業界内注目度は非常に高かったが、今ではASKULやファーストリテイリング(ユニクロ)などでの導入を経て、より一般のビジネスシーンでも広く知られるようになっている。ちなみに以前の記事ではオフィスの様子なども紹介したが、今はより広く、1万4000平方メートルの展示場併設の社屋に引っ越している。


 同社は独自のモーションプランニング(ロボットアームの動作計画)技術を活用した物流倉庫の出荷工程におけるティーチレスの混載ケース積み付けや、市場が拡大し続けているeコマース分野でのピースピッキング等で知られているが、3月に行われた「2022国際ロボット展(iREX2022)」では、これまでとは少し変わった方向での展示アピールを行っていた。製造業向けのソリューションである。

 Mujinはもともと設立当初は物流よりも製造業向けにアピールしていた。その後、いったんは物流分野に事業の焦点を絞っていたが、物流現場で培った経験を製造現場に応用。同社のコントローラーを使った「知能ロボット」と数十台のAGVを組み合わせたソリューションによる「次世代生産ライン」をFA(ファクトリーオートメーション)向けに提供し始めている。

次世代「知能ロボット」によるセル生産システム

 「2022国際ロボット展」では8つのソリューションが紹介されていた。そのうち、今回の特徴だったFA向けのソリューションについては、この機会にざっくりと紹介しておきたい。いずれも大手自動車メーカーや一次請け、2次請けの企業で導入実績があるものだという。


 まず、「リング部品 高速バラ積みピッキングロボット」は、一度に2個のワークをつかめるダブルハンドを使ってピッキングができ、AGVと連携して加工機に供給するソリューションだ。ビジョンを使うことで、ワークの表裏を判定した置き分けもできる。


 「複数品種ディスクローター ハンドカメラ ばら積みロボット」はディスクブレーキの構成部品の「ディスクローター」を扱うロボット。ロボットの手首につけたハンドカメラで複数品種を認識、バラ積み整列を行って加工工程に供給する。工作機械一台ずつにロボットを用意するのではなく、このロボットシステムに複雑な作業を集約させてサイクルタイムに合わせて作業を行い、搬送も含めて自動化することを提案している。一台で加工機10台をカバーできるという。


 「コンロッド 3 in 1加工機全自動化ロボット」は、ピストンとクランクシャフトをつなぐパーツである「コンロッド」を扱うロボットで、バラ積みからの取り出し、汎用(はんよう)加工機へのワークの投入、加工機からの取り出しとパレタイズなど一連の人間が関わる工程(投入・排出・パレタイズ)を自動化した。コンロッドは引っかかったりして、いわゆる「2個取り」をしてしまいやすいが、その場合は力覚センサーで検知することができる。

 「ブレーキASSY 組立ロボット」は組み立て作業工程の自動化をMujinが丸ごと請け負った例で、独自技術でワークの3DCADデータを用いてワークを認識し、組み付けを行う。ロボットを使うことで変種変量に対応することを狙っている。

 「PickWorkerパッケージ」はバラ積みピッキングのMujin標準セル。ロボット、コントローラー、ビジョン、ハンド、架台がパッケージ化されている。以前から提案されているものだが、ソフトウェアの改良や3Dビジョンの内製化により現在は投入平均のサイクルタイムが4.5秒にまで短縮された。ロボットは12kg可搬、25kg可搬から選択でき、価格は1,500万円程度だ。

 このほか物流向けには、飲料ケースなどの重量物を持つための「二面ハンド」を使ったデパレタイザー、側面ハンドを使ってミシン目入りのはがれやすいケースでも搬送して、さまざまな什器に対して積みつけ作業ができる「混載パレタイズシステム」、マスターレスで最速1時間1000ピースの「ピースピッカー」などをデモしていた。これらと構内搬送を担うAGVと連携させることで省人化を行う。


 なお、ロボットはいずれも安川電機とファナックのロボットを使っている。ロボットコントローラーと3Dビジョンシステムは内製品に一新。特に3DビジョンはこれまでFA向けの金属部品認識では他社の物を使うこともあったが、完全に内製化した。対象物やコンテナサイズに合わせて4機種を展開。約1kgと軽量でIP65相当の防じん防水性能を持つためオイルミストや粉じんが舞う環境でも使用可能だという。もちろん物を扱うハンドもオリジナルで、キーコンポーネントは「オールMujin仕様」となっている。すべて内製化しているためブラックボックスがなく、バグの発見など何かトラブルがあった際の問題の切り分けと対応が容易であること、そして価格面でも競争力が出せる点が強みだという。

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従来はキーエンスやキヤノンのカメラを使っていたが、3Dカメラも内製化した

 これらの展示は6月30日(木)〜7月2日(土)に愛知県国際展示場(アイチ・スカイ・エキスポ)で初開催される「ロボットテクノロジージャパン2022」のMujinブースでも出展予定とのこと。興味のあるユーザーは、実際に足を運んで見てみるといいだろう。

フレキシブルな生産設備への移行加速が、ロボットベンチャーを後押しする

 Mujinが「知能ロボット」とAGVを組み合わせたソリューションをFA分野に投入しようとしている背景には、自動車業界のEVシフトがあるという。近年の自動車業界では以前のような大量生産向けの専用ライン設備ではなく、柔軟に組み替えが可能な「ロボットセル」への移行が加速しているとMujinのCEO 滝野一征氏は語る。

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Mujin CEO 兼 共同創業者 滝野一征氏

 EV化によって動力源がエンジンからモーターになる。その結果、複雑な冷却機能が不要になり、トランスミッションはインバーターによるトルク制御になる。市場の参入障壁が下がってプレーヤーは増え、自動車はパソコンのように多品種小ロット化し、車種が増える。いっぽう、市場変化は激しくなり人手は不足する。これまでのように一車種のために生産ラインを立ち上げるのはリスクが大きくなる。だから必要であればオーダーごとに増やしていけるセル生産のほうがリスクは低くなる、というわけだ。

「フレキシブルな生産設備になればなるほど、カラクリやハードウェアは減る。いっぽうソフトウェアはより難しくなっていく。そこが我々のメリットであり付加価値です」(滝野氏)

 ただ、ライン生産かセル生産か、という議論はこれまでにも何度も繰り返されており、実際に試行錯誤も行われてきた。セル生産のほうがフレキシブルではあるが、1人で多くの工程を手がける必要があり、そのための技術も必要だ。そして、人には間違ってしまうリスクがある。そこでロボットを使った自動化が期待される。しかしロボットに多くの工程をやらせるにはプログラミングの手間も多い。そこに「Mujinが持っているティーチレス、プログラミングレスの技術がバッチリハマってくる」と滝野氏は語る。

「カラクリもなくなるので、セルとセルの間はAGVで結ばないといけない。それはソフトウェアで管理する。ロボット側もセンサーを使うことで周囲の段取り用のカラクリやハードウェアがどんどん減ってくる。ロボットが賢くなればなるほど周辺機器は少なくなる。そしてソフトウェアの比重が大きくなる。AGVやロボットをどうやってうまく使っていくかは次の10年のトレンドになると思います」(滝野氏)

 ここに、これまでにMujinが物流分野で培ったノウハウが生きてくる。実際に問い合わせも増えているという。「人が使われているのは加工機への投入とアッセンブリーです。ここにはまだまだ人が使われているので無人化していきたい」(滝野氏)


【次ページ】「ロボットを導入したほうが絶対に得」な世界を目指す
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