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自動車に誕生以来の転機が訪れています。今後の展開次第では業界の淘汰が進み、世界の自動車メーカーの顔ぶれや勢力地図が大きく塗り替わる可能性があります。いわゆる「カーボンニュートラル」のうねり──2050年ごろまでをめどに、新しく販売する自動車を事実上のCO2排出ゼロにしようという動き──です。直近でも、トヨタが「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」(2021年9月7日配信)をメディア向けに行うなど、業界の動きは日々熱を帯びつつあります。これから約30年、自動車業界はリスクとチャンスが交錯する未開の地を疾走することになるのです。
自動車業界を揺るがす地球温暖化
時代を振り返ると、自動車産業はアメリカのT型フォードの革新的な量産技術にはじまり、フェラーリ、ロールスロイスといった、主にヨーロッパ車が発揮してきたデザインや圧倒的なブランド力、ドイツ車が誇るスピードや走行性能、日本車などが強みを見せる利便性の高いパッケージや先進機能、コスパなど、さまざまな分野で優位性を競い、時代ごとにメーカーが覇権を争ってきました。
ただ、近年自動車業界がこぞってフォーカスしているテーマといえば、間違いなく“事実上のCO2排出ゼロ”、すなわち「カーボンニュートラル」(ゼロカーボン、ネットゼロとも)です。
狙いは、国やメーカー単位で自動車全体の走行時に排出するCO2をできるだけ抑え、残りを森林の吸収量で相殺するか、国際的なCO2排出権取引によって実質的にゼロにするというものです。これはメーカーにとってもたやすい目標ではなく、自社の今後の命運を左右しかねない大問題です。
「CASE」(ネット接続、自動運転、シェアリングサービス、電動化)という言葉もよく耳にします。こちらは自動車の新しい可能性を感じさせてくれるテクノロジーばかりですが、一方のカーボンニュートラルはユーザーが得をするわけでもなく、ワクワクするものでもありません。ただ、これは世界共通の課題であり、もはやどのメーカーも避けて通ることはできません。
カーボンニュートラルがターゲットとしているのは2050年。これは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、2018年10月に採択した通称『1.5℃特別報告書』で、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃以内に収めるためには、人為起源のCO2排出量を2050年前後までに正味ゼロにする必要がある」としたものがもとになっています。
2050年まで30年を切りました。いまだにさまざまな利害対立で揺れる各国が同じテーマで協調できるのか、メーカーは技術的なハードルをクリアし、ユーザーの心を捉えるカーボンニュートラルな自動車をつくることができるのか。難問は山積みですがやるしかありません。事態は切迫しているからです。
現在の地球環境に目を向けると、北極の海氷の減少、永久凍土の融解、ドイツやベルギーなどヨーロッパを襲う豪雨、カナダやトルコ、ギリシャの熱波と大規模な火災。日本でも50年に1度レベルの大雨が頻発するなど、「極端現象」が相次いでいます。特に、海氷や凍土の溶解と森林の焼失が与えるダメージは深刻で、これまでそれらの場所に閉じ込められていた温室効果の高いガスが大気に放出されるため、温暖化がさらに加速すると言われています。
EVに集まる期待
カーボンニュートラルに対する自動車メーカーの意識を強力にドライブしているのは、各国政府が定める罰金などを伴う規制です。各国の代表的な目標と、主なメーカーの取り組みを確認してみましょう。
(各国政府の目標)
- 【アメリカ】
2050年までに温室効果ガス排出ネットゼロ
- 【中国】
2060年までにカーボンニュートラルを実現
- 【EU】
2050年までにカーボンニュートラルを実現
- 【イギリス】
2050年までに1990年比で少なくとも100%排出減
- 【日本】
2050年までにカーボンニュートラルを実現
注:2050年までのカーボンニュートラルにコミットしているエリアは、合計123カ国と1地域。
(出典:経済産業省『2050年カーボンニュートラルを巡る国内外の動き』をもとに作成)
(主要自動車メーカーの電動化情報一覧) |
メーカー |
情報 |
フォルクスワーゲングループ |
2030年までに約70車種の電気自動車を発売予定。うち20車種はすでに生産開始。 |
メルセデスベンツ |
中期経営計画『Ambition2039』で2030年までに新車販売の50%以上をBEVやPHEVにする目標を表明。 |
BMW |
すでに世界で13車種の電動車をローンチ。2023年までに25車種を提供し、うち半分以上はBEVとする計画を表明。 |
グループPSA(ステランティス) |
グループ内ブランドでパワートレインの選択性を高めた共通プラットフォームを活用し、2020年までにBEV7車種、PHEV8車種などを投入。 |
ルノーグループ |
欧州ベストセラーEVのゾエなど複数車種をすでにラインアップ。グループ全体で2025年までに10車種以上のBEVを投入するなど電動化強化を表明。 |
ジャガーランドローバー |
2030年までにジャガーブランドは100%、ランドローバーでは60%の車種をBEV(ゼロエミッション)とする計画を表明。 |
ゼネラル・モーターズ |
2035年までにすべての乗用車を電動化する目標を表明。2025年までには全車種の40%となる30車種をBEVにする計画。 |
フォード |
2030年までに欧州市場での販売をEV100%とする目標を発表。2025年までに2兆円以上を電気自動車に投資。 |
トヨタ |
電動車(HV中心)を世界で550万台以上販売し、そのうちEVとFCVを100万台以上とする目標を2030年から2025年に前倒し。 |
日産自動車 |
2022年度までにBEVなどの電動車100万台販売の目標を表明(e-POWER含む)。 |
三菱自動車 |
2030年までに世界販売の50%を電動車(HVを含む)にする目標を表明。 |
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注1:BEV=純粋にバッテリーの電力のみで走る電気自動車(本稿では単にEVと表記)、HEV=ハイブリッド車(HVとも)、PHEV=プラグインハイブリッド(外部電源から充電可能なハイブリッド車、PHVとも)、FCV=燃料電池車(FCEVとも)
こうして見てみると、多くの計画が2050年に照準を絞っていること、そして実現のための主力はEVであることが分かります。ただ、いずれもすべて“目標”にすぎず、達成は現在のところ未知数と言わざるを得ません。
【次ページ】自動車すべてがZEVに変わるまでどのくらいかかるか
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