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人口知能(AI)はさまざまな業界に変化を与えています。その中でも特に大きな影響を受けているのが「司法」や「セキュリティ」といった治安の分野です。犯罪予測や監視カメラの映像分析、判例や法令の検索など、多くの作業にAIが活用されるようになっています。どのような技術が活用されているのか、簡単に解説していきます。
「犯罪予測AI」の仕組み
AIとビッグデータの応用で早くに成果を上げた手法が「犯罪予測」の技術です。過去に犯罪が発生した時間と場所のデータを分析し、犯罪が発生しやすい地域を重点的にパトロールすることで、犯罪発生率を低下させ、検挙率を向上しようというアプローチです。
これは、米国で開発された手法で、日本でも事件事故に活用範囲を広げて試験的に導入が進んでいます。同様の予測技術を用いてタクシーや配達サービスの人員配置にも応用が進んでおり、リソースの最適な分配という観点で応用範囲の広い技術と言えるでしょう。
また、場所と時間だけではなく、犯罪者のバックグラウンドから「再犯率」を予測するというアプローチも研究されています。年齢、前科、保釈、雇用、学歴、信条、家族などの情報を参考に、過去のデータと比較して再犯率が高いか低いかを判定し、判決に反映するのです。
裁判においては「再犯率の高さ」が判決において大きな影響を与えます。再犯率が高ければ刑期が長くなり、低ければ短くなります。米国で検討された結果、黒人の再犯率が高くなる傾向があるとして差別的という批判も生みましたが、現実の再犯率を反映していることから、米国における深刻な問題を浮き彫りにすることとなり、議論を呼びました。
どちらの予測も、ビッグデータを使ったデータ分析が主です。こうしたデータ分析では、予測に用いる数値やパラメータが絞り込まれているため、厳密にはAIというよりは統計分析の領域です。
こうした犯罪予測が始まった当初は機械学習などを使わない純粋な統計的な分析手法が主流でした。しかし、機械学習手法が洗練されるにつれて、機械学習による予測手法が従来型の統計的な未来予測を超える精度に達するようになっており、近年はディープラーニングなどを積極的に活用した予測手法が増えています。
監視カメラを活用した「行動予測AI」の仕組み
人間の行動予測は何も時間・場所・人物的背景といった統計的情報だけではなく、その人の行動からも予測ができます。ベテランの刑事や警備員は人間のわずかな仕草から不審な人物を見つけ出します。それと同じことを監視カメラでやろうということです。
すでに万引きなどを検知する監視カメラが国内外を問わず広く開発されており、怪しい動きをする人物を検知することで万引きを未然に防ぐ試みが進んでいます。実際にこうしたAI技術を導入し、検知された人物に店員が声掛けをしたり、近くに店員が赴くことで万引きが半分以下になったという事例も報告されています。
このような不審行動の検知は万引きに限らず、スリや盗撮、ストーカーなどの各種犯罪行為にも応用が可能で、店舗や駅など人が密集する地域の監視カメラへの導入が進んでいます。
また、こうした監視カメラに顔認証システムを導入することで、犯人を特定し、追跡することも可能になります。海外の警察では、カメラが搭載されたスマートグラスなどを組み合わせることで、監視カメラだけではなく警官の視界に捉えた人物の特定をすることも可能となり、指名手配犯の検挙率が大きく向上しています。
顔認証システムはプライバシーに関わることなので国内では導入が難しいものの、技術的な導入ハードルはそれほど高くはありません。
こうした犯罪行動の予測は、基本的には監視カメラの映像をベースに学習が行われます。実際に万引きや盗撮を行った人物を映像から特定し、その直前・直後の行動を学習させ、AIに犯罪の行動パターンを覚えさせるのです。こうした犯罪行為は地域に関わらずある程度は共通しているため広く応用が可能ですが、実際には場所や時間によって行動パターンは微妙に変わります。
暗がりであったり、人混みであったり、人目につきにくい場所であったり、同じ万引きや盗撮でも、微妙に動きが異なってきます。そのため、精度を上げるためには現地の映像を使って学習を進めていくことが重要です。多くの場合、導入後にも学習を進めながらその店舗や駅における犯罪行為に精通したAIへと仕上げていくのです。
【次ページ】検事や弁護士をサポートするAIの仕組み
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