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  • 2021/07/30 掲載

5Gとロボット活用まとめ、遠隔操作にサービスロボットへの応用も。現状の課題は?

森山和道の「ロボット」基礎講座

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高速・大容量、低遅延、多数同時接続を実現する5Gの活用先のひとつとしてロボットが注目されている。5Gによってロボットは、よりフレキシブルに活用できるようになる可能性がある。人との協働も容易になり、理想どおりならロボットの可能性は大きく拓けるだろう。だが、実際にはまだまだ課題も少なくない。現在行われている実証実験を見てみよう。

5Gのロボット活用への期待

 2020年3月から商用サービスが始まった5G(第5世代移動通信システム)は高周波帯の活用により、10Gbps以上の高速・大容量、高信頼でミリ秒オーダーの低遅延、現状の100倍以上の端末接続をサポートする多数同時接続といった特徴を持つ。このことから、人だけではなく多数の機械、いわゆるIoT機器の通信にも幅広く活用されることが期待されている。

 ロボットもそのうちのひとつだ。5Gによって高精細な画像もやり取りできるようになり、ロボットの遠隔操作なども低遅延で可能になるため、従来は使うことができなかった用途で使えるようになるのではないかと言われている。

 5Gを新たな社会基盤とするべく多様な用途を展開しているキャリアらも、これまでにない将来的な用途のひとつとしてロボットをシンボリックに取り上げて宣伝に活用している。何しろ小型センサー群やIoT機器と比べるとロボットは目立つし、わかりやすい。

 ロボット開発側にも、特に移動体としてのロボットの場合は、5Gの持つ接続安定性からWi-Fiに代わる選択肢として期待する人たちがいる。製造業でも、よりフレキシブルな工場、より柔軟でスマートな物流倉庫などで用いる通信手段のひとつとして期待されている。というわけで、5Gとロボット活用に興味を持っている人は多いようだ。

5Gの課題、「使える」判断はまだ先か

 ただ、課題も少なくない。そもそも高周波数になればなるほど電波は直進し、回折しづらい。複雑な遮へい物があると届かなくなるし、カバレッジも狭くなる。そのため多数の無線基地局や新たなアンテナ技術が必要となる。

 サービスエリアの問題でキャリア5Gを使えない環境で5Gを使いたい場合は、自分たちの敷地内に「ローカル5G」の無線局を立てて、独自にネットワークを構築・運用する必要がある。専用のネットワークを使えるようになるが、そのためには当然のことながら無線局免許が必要だし、そのための設備の維持コストもかかる。5Gが本当にスペックどおりの速度と安定性が出せるようになったとしても、使い続けるためにはそれなりの用途がないと難しいのではないか。

 また、「切れにくい落ちにくい」とはいっても、通信遅延や揺らぎはある。インターネットを経由するなら、その揺らぎはさらに大きくなる。操作機器やロボット自体の内部の通信遅延やデータ圧縮技術も、まだまだ発展途上だ。こういった理由で、宣伝されているような「5G時代」がいつかは来るとしても、そんなに簡単に話は進まないのではないかと私は考えている。そもそも、ロボットを活用する業界は、かなり保守的な業界だ。「使える」と判断するには時間をかけるだろう。

 ただ何にしても、無線ネットワークが今後ますます速度を上げて、用途を拡大していくことは確かだ。いま、キャリア各社や国が宣伝しているロードマップどおりに行くかどうかは別だが、通信の高速化・大容量化に伴う用途の拡大自体に疑いはない。ロボットで使いたい場合は単に低遅延というだけではなく保障してほしいところだが、将来は遅延の保障もされるようになるかもしれない。

 以上のような前提を置きつつ、いま現在、5G活用のための実証実験にどんなものがあるか、事例をいくつかご紹介する。

5Gで工場内レイアウトフリー、よりフレキシブルに

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九州工業大学西田研究室(当時)とデンソーなどによる5G活用実験(リリースから)

 まずは産業用ロボットから。2019年、九州工業大学西田研究室(当時)とATR、KDDI、デンソー九州は、5Gを活用する工場内でのロボットのレイアウトフリー実験を行った。

 どういう話か、少しさかのぼって説明する。いまロボット業界では協働ロボットの活用が進みつつある。協働ロボットの利点のひとつは、安全柵必須で床に固定する必要がある従来型の産業用ロボットとは違って、簡単に動かせるということである。これによって必要なラインにロボットを持っていくことができる。

 だがそうなってくると問題は配線である。配線を引きずるのは面倒だ。レイアウトを変えたところで、そのたびにまた配線し直さなくてはならなくなる。ロボットはロボットを操るためのコントローラーやセンサーともつながっているので、本体以外にそれらとの配線もし直す必要がある。これはもう想像するだに面倒だ。「動かせる」と言われていても、ほとんど動かせないものになってしまいそうなことは目に見えている。

 だがこの間の配線がワイヤレス化すればどうだろうか。というのがこの研究の狙いだ。西田健氏らは三次元計測センサーやコントローラーとロボットの間の通信などを5Gを使って無線化。電源ケーブルだけロボットにつなげば動かせるという環境を実現した。こういうふうになれば、協働ロボットのライン変更が容易、という話は実際のメリットが出てくる。なお西田氏は現在九工大を離れ、AIロボットコンサルティングを行うNishida Labを立ち上げているので、この研究は今は九州工業大学の池永研究室に引き継がれているとのことだ。

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NECによるローカル5G活用実験(リリースから)
 ローカル5G活用の製造現場のリモート化・自働化の実証実験はもちろん今も続けられている。NECは自社工場のNECプラットフォームズの甲府工場でローカル5Gを導入している。2021年4月にはARを使った作業者支援のほか、ピッキングロボットを遠隔操作するという実証実験を行った。リリースによれば5Gで映像を伝送しながら一人で2台のロボットを制御し、8種類の部品ピッキングを行った。目標遅延時間0.2秒以下を達成できたとし、今後はほかのロボットやAGVとの連携、生産ラインへの導入を目指すとされている。

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ORiNによるキャリア5G活用実験(リリースから)

 6月にはORiN協議会やデンソーウェーブほかが、複数の産業用ロボットの遠隔操作に成功したとリリースした。「ORiN(オライン)」とは、異なるメーカーの産業用ロボットをつなぐためのミドルウェアで、ORiN経由で操作信号を変換して、ヤマハ発動機のスカラロボットと、カワダロボティクスのヒト型協働ロボットを操作したという。ちなみにキャリア5Gを使った産業用ロボットの操作はこれが日本初だそうだ。

 7月には通信端末メーカーのエイビットとロボットメーカーのFUJIがローカル5Gを工場で活用するための実証実験を行った。生産環境での電波伝搬試験、アプリケーション試験を実施して、既存の無線システムに対するローカル5Gの優位性の検証を行ったという。

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パナソニック「現場マルチネットワークサービス」(リリースから)
 また、パナソニックは2月に「現場マルチネットワークサービス」の事業を立ち上げている。プライベートLTE、Wi-Fiのほか、2022年4月からはローカル5Gも提供。無線ネットワークシステムをサービスとして提供する予定だ。画像伝送、電波伝搬シミュレーション、画像認識ほかのアプリケーション、エッジデバイスを提供する。

 現状はこのとおりで、まだまだ電波がどのくらい届くか、実際に動かせるか、画像が送れるかといったことを検証している段階である。工場のなかは比較的見通しが良いため、使いようは十分あるようだ。ちなみに今回はロボットの実証実験のみを紹介しているが、もちろんほかにも、人の動態を把握するといった実験も行われている。

 なお「5Gによる無線通信の進化がもたらす未来の工場」という資料が、工場内の無線通信の利活用を促進するフレキシブルファクトリパートナーアライアンスから公開されている。今後の工場での無線の利活用の考え方について、とてもわかりやすくまとまっているので未見の方はぜひご覧になることをお勧めする。この資料については前述の西田氏に教えて頂いた。

【次ページ】サービスロボットでも5Gの信頼性に期待
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