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コロナ禍で世界経済が落ち込む中、中国国家統計局は2021年1月、同国の2020年の実質GDP(国内総生産)が前年比2.3%増と発表し、いち早く経済危機を脱する予測を出した。IMF(国際通貨基金)が2021年4月に発表した「世界経済見通し」でも、2021年の世界経済の成長率予測(6%)に対し、中国はそれを上回る8.4%増と見込む。同国のGDPの40%程度を占める「デジタル経済」について、戦略の変遷やアリババやテンセントなどの巨大プラットフォーマーの取り組みを野村総合研究所(NRI)未来創発センターの上級コンサルタントを務める李 智慧氏の論考を紹介する。
中国がコロナ禍で最も優先したのは「消費の回復」
中国のデジタル社会の現状とはどのようなものか。野村総合研究所(NRI)未来創発センター 上級コンサルタント 李 智慧氏は、新型コロナウイルス感染症対策を例に説明する。2020年4月以降、同国のウイルス感染者は激減し、1月当たり100人前後で推移しているという。その理由として、李氏は「感染者の情報に加えて、企業や個人などの情報を融合したことにある。感染経路を徹底的に分析したり、感染者をいち早く見つけ出したり、医療機関の空き情報などを管理できたからだ」と解説する。
また、李氏は「感染を収束させて経済活動を再開し、安心して仕事を再開できるようにする“デジタル社会のガバナンス”の成果だ」と評価する。たとえば、音声認識の発信型AIロボットが「名前」や「家族構成」「体温」「咳など症状」「感染者との接触」といった問診を1カ月で2000万人に実施し、市内の感染状況を把握したという。
さらに、スマホアプリ経由で地方政府が発行したデジタル証明書「健康コード」も広く活用された。これは、ウイルス感染に対する安全度を判定し、「通行手形」のような機能を果たしている。感染拡大の抑制に大きく貢献できたとされている。
加えて、中国企業の多くが消費や余暇、ビジネスのスタイルの再構築にも取り組んだ。たとえば、2020年4月に開催した広州輸出入商品展示会では、オンライン開催の仕組みを2カ月で構築した。その結果、出展数2万6000社が約160万件のオンライン商談を実施するなど、クラウドによる新しいコミュニケーションを創出させたという。
また、経済再生の仕組みとして、ECサイト(オンライン販売)とライブ配信を組み合わせた販売形態である「ライブコマース」が広がっている。たとえば、約4000店舗を展開する大手靴販売チェーンのレッド・ドラゴンフライは、大きく落ち込んだ売り上げの回復を目指し、2020年2、3月にライブコマースを約3000回実施した結果、5,300万元(約9億円)を売り上げた。
デジタルデバイド解決にも有効な「デジタル消費券」
李氏は「これらの取り組みで分かることは、コロナ禍で中国が最優先したのは消費回復だった」とし、地方政府が決済アプリや生活サービスアプリ経由で配布した「デジタル消費券」も消費の回復をけん引したと説明する。
デジタル消費券とは、アリババやテンセントなどの決済アプリを通じて配布されるお得なクーポンのようなもの。有効期限や1人当たりの受領回数を制限でき、経営の厳しい店舗や地域の周辺住民に対して消費券を発行することで、新たな消費喚起にもつなげられる。
配布から精算までオンラインで完結するデジタル消費券は、政策実施後の効果測定や分析も容易に実施できる。杭州でのデジタル消費券施策の実施結果では、これまでオンラインでの消費意欲が少ないと思われてきた中高年層ほど、デジタル消費券のけん引効果が顕著に表れ、その有効性が確認されたという。
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