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- 2021/05/10 掲載
企業間で「安心安全なデータ提供」を実現するには? 経産省が解説する “実務”のポイント
AI人材育成に必要な「企業間データ提供促進」
企業のデジタル化が加速していく中、AIやデータを活用できる人材の需要が高まっており、人材育成のためのさまざまな取り組みが進められている。この潮流の中でも、企業同士がデータを安心、安全に流通できる環境を整備することが重要である。経済産業省が発表した「AI・データサイエンス人材育成に向けたデータ提供に関する実務ガイドブック」は、この環境づくりのためのガイドブックである。このガイドブックでは、企業がAI人材を育成する際にあたって有効となる考え方の枠組みを公開している。データの提供者とデータを受け取る利用者との間で、データの流通を活発化させることで、AIやデータサイエンスの人材育成につなげる狙いだ。
企業の積極的なデータ提供により、利用者側のデータ活用を促し、AIの社会実装を進めていくためには何が必要なのか。本ガイドブックの策定内容のメリットやリスクなども踏まえ、AI 人材育成の観点から解説していこう。
このガイドブックで示す人材育成事業とは、企業や大学など「データの提供者(注1)」と「データ利用者(注2)」との三者以上の関係者間で「データのやりとり」を活発化させ、人材同士のつながりを作り、AI人材の実践的な育成の機会を生み出す事業のことである。
また、このガイドブックでは、「AIの開発の前提として必要な処理を行う前のデータ」と「そのデータをどのように活用するかといったテーマ」のセットを「教材」と位置づけている。
ユースケースにみるデータ提供事業者の「メリットとリスク」
データの提供者とデータ利用者との「データのやりとり」の活発化により、提供者と利用者において、事業のさまざまなメリットが得られる一方、リスクが生じることが想定される。ユースケースを1つ紹介する。小売業Xは、教材作成事業者Yに過去の仕入れデータを提供することを検討している。小売業Xは、ギフト品販売業で、メーカーから商品を選定・仕入れた後、包装や名入れを自社で実施した上で一般顧客向けに販売している。
データを提供する小売業Xにとっては、自社の営業秘密に関する情報が流出するリスクがあるものの、収益獲得や自社の認知度向上など、提供に見合うインセンティブが得られるというメリットも期待できる。一方、データ利用者となる教材作成事業者Yは、実データを基に教材を作成でき、学習者の育成に活用できるメリットが想定される。
上記のユースケースで挙げたようにデータ提供者は、人材育成事業へのデータの提供により、以下のメリットが期待できる。
1つ目はデータ提供者のデータを基に生成されるAI(学習済みモデル)を活用できるなど「成果物の獲得」だ。また、販管費データを基にした在庫管理の最適化や、工場機械の稼働データを基にした故障時期の推定が可能になれば、自社の業務改革に有効なデータとして利用できる。さらに他業界やAI・データサイエンスの知見に基づく視点を生かした新規事業案、課題に対する新しいアプローチ案などを成果物に取り込めるケースも期待できる。
2つ目は、データ提供者が保有していないデータの利活用に関する知見やノウハウの獲得、そしてそれらをきっかけとした新たな事業創出のチャンスだ。データ提供者自身が、データを活用するための技術や事業上の課題への対応について十分な知見やノウハウ、経験を保有していない場合がある。そのため、人材育成事業へのデータ提供を通じて、これらを獲得する機会を得られるといったメリットも考えられる。
3つ目は、先端的な知見を有するAI人材との接点や採用機会の獲得である。たとえば、データ提供者のデータを活用した新規事業をテーマとしたハッカソンを開催できれば、参加するAI人材との接点を作ることで、新しい採用の機会を獲得できる。
その他にもデータが価値を生み出すものであれば、データそのものが収益にもつながり、これらの先進的な取組が社外の露出にもつながるといったメリットも考えられる。一方、データ提供者にとってリスクも想定される。データ提供者に典型的に想定されるリスクの例としては、以下のケースが想定される。
- <1>データの意図しない流出に伴う競争優位性の毀損による事業機会の喪失
- <2>データ提供者のレピュテーションの毀損による事業機会の喪失
- <3>第三者に対するデータ提供者の損害賠償責任の発生
競争優位性の観点では提供されたデータにおいて、データ提供者の競争優位性に影響を与え得る情報が競合の事業者にデータが流出する可能性がある。そのため、そのデータを源泉とするデータ提供者の競争優位性が損なわれるリスクが存在する。このリスクが顕在化した場合に事業機会が失われる可能性があることは、データ提供者にとっての大きなリスクとなる。
【次ページ】企業にとっての4つの枠組み
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