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交通渋滞を解消する機動的なインフラとして、「空飛ぶクルマ」の産業形成への期待が高まっている。すでにトヨタをはじめとする大手自動車メーカーやVCが投資を進めており、新規業種からの参入も含めて、機体の試作も進んでいる。国内外でコンセプトモデルが発表され、日本では政府が2023年の事業化と30年代の本格的な普及に向けたロードマップを提示している。今後、国内企業・自治体・官公庁などが、社会実装を前提に、空飛ぶクルマをうまくテイクオフさせるには一体どうすればよいのか。PwCの専門アナリストらに話を聞いた。
空飛ぶクルマとは?国内市場規模は2.5兆円へ拡大
PwCによれば、2040年には空飛ぶクルマの市場規模は約2.5兆円に拡大する可能性があるという。この過半数を占めるのが物資(54%)や旅客(27%)を輸送するサービス分野だ。ただし、この規模を実現するには、インフラやシステム要件の整理、機体開発や制度への対応もカギとなる。
また市場規模は、このまま2040年に向けて順調に成長していくというわけではない。キーワードとなるインテグレーターの登場や、産官学の一体となった産業形成ができることが大前提となるからだ。
最も市場が伸びそうな「サービス分野」についてみると、エネルギー供給事業者、空港運営事業者、ゼネコン事業者、保険業者など、プレイヤーは多岐にわたる。そこで「制度の整備や航空機の設計・生産・運航基準の取りまとめ」「サービスモデルの定義とアライアンス」「段階的な実証計画の策定と推進」といったことを一体で実施するために、インテグレーションが求められるのだ。
一方、市場規模は約3%ほどで大きくはないものの、市場形成に重要な「その他の周辺システム分野」では、運航管理の仕組みとシステム開発が重要だという。従来の飛行機やヘリコプターは、すでに運航管理の枠組みがあるし、ドローンもその整備が定まりつつある。
ところが、空域が数百メートルの空飛ぶクルマは、新たに物資・旅客輸送サービスなどを統合管理するインフラや、その枠組み整備が必要だ。具体的には管制・運航管制・地上支援など多くの仕組みとシステム開発・整備が求められる。その結果として、2040年には560億円規模の市場になるそうだ。
都市と地方で異なる活用事例、救命救急医療・災害救助
次にPwCは、国内における空飛ぶクルマの主要な活用シーン(ユースケース)についても分類した。
このうち「都市内移動」「都市間移動」「観光・レジャー」は市場ポテンシャルが高い。また「救命救急医療」「災害救助」は社会受容性が高く、「離島間移動」「過疎地間移動」は確実にニーズがある。国内プレイヤーは市場ポテンシャルや社会受容性に着目し、自社の注力領域を見極めるとよいという。
特にポテンシャルが高い都市内移動・都市間移動は、渋滞や密な移動を避けられる点がメリットとなる。市場推計でも2030年以降にボリュームが顕在化する。この市場が成立するには乗降インフラ、バッテリー技術などが必須だ。また観光・レジャーは、景観に配慮した乗降場所や、地域で運用できる環境整備、需要と安全性を両立した飛行ルートの策定が重要だ。
社会受容性が高い救命救急医療・災害救助は、必ずしも規模が大きいわけではないが、新技術の導入が受け入れやすい分野だ。現状でもヘリコプターが活躍しているが、空飛ぶクルマが普及するとトータルの運営コストが低減される可能性がある。また小回りの利く機体なので利便性もメリットになるだろうという。
【次ページ】国内外の空飛ぶクルマの進捗状況とは
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