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前編の記事では、経営が苦しくなった中小企業を政府が延命し、廃業率を低く抑えるという政策が転換点を迎えている現実について解説した。だが日本の中小企業が抱えている課題はそれだけではない。中小企業の数が多すぎ、これが中小企業の生産性を引き下げているという指摘がある。
中小企業の定義は意外と難しい
日本には約360万の中小企業が存在していると言われるが、中小企業の数や経営実態について諸外国と比較するのは意外と難しい。中小企業基本法では、中小企業に関して業種ごとに資本金と従業員の数で定義している。
たとえば、製造業では資本金3億円以下、従業員数が300人以下の場合、中小企業と分類される。また、同法には、さらに小さい事業者として小規模事業者という区分もある。製造業の場合、従業員20人以下の事業者が小規模事業者と認定される。
ひとくちに中小企業と言っても、株式会社の形態になっているところもあるし、法人にはせず、個人事業主として従業員を雇っているところもある。税制上、両者の違いは大きいが、経済活動の実態について分析する際には、どのような組織形態なのかはあまり関係ない。
一方、諸外国では資本金ではなく、従業員数で定義されることが多い。たとえばドイツでは9人未満の企業をマイクロ、49人未満はスモールと定義している。米国も基本的には従業員数が統計区分となっている。
割合は低いものの、資本金の額が大きくても、従業員数が少なく売上高が小さい企業が存在することも考え合わせると、中小企業の実態について分析する場合には、従業員数で見るのがもっとも分かりやすいだろう。以下では、従業員数を基準に日本と米国、ドイツの比較を行った。
米国と比較した場合、日本の方が中小企業が多いのは事実である。日本では人口1000万人あたり28万の事業者が存在しているが、米国では24万事業者にとどまっている。日本と米国を比較した場合、人口あたりの事業者数は日本の方が多く、日本の企業規模が相対的に小さいことが分かる。企業規模が小さいと、規模のメリットを追求できないのでコストが余分にかかってしまう。事業者数が多いことが、日本の低生産性の原因になっているとの指摘は多い。
確かに米国との比較では、日本の事業所数は多いのだが、ドイツを見るとまるで状況が違っている。ドイツは米国に匹敵する高い生産性を誇っているが、人口1000万人あたりの事業者数は42万と日本よりはるかに多いのだ。
ドイツは中小企業が多いが生産性は極めて高い
ドイツの例を見ると、中小企業の数が多く、規模のメリットを追求できないことが、必ずしも生産性低下につながっているわけではないことが分かる。ではドイツの中小企業の収益力はどの程度なのだろうか。ドイツ連邦銀行の調査によると、スモールもしくはミディアムに属する企業の売上高に対する税引前利益率は6.2%と極めて高い数字だった。
一方、日本の中小企業(資本金1億円未満)における税引前利益率は3.3%とドイツの半分しかない。ドイツは中小企業の比率が高いものの、利益率も高いことが分かる。
日本の場合、製造業に分類される中小企業のほとんどは、大手企業の下請けとなっている。ドイツでもいわゆる下請け企業はたくさんあるが、ドイツの場合、企業の自主性が強く、従属的な関係に甘んじるケースは少ない。海外戦略についても、自力で海外の顧客を獲得した上で、製品を直接納入するケースも多く、これが利益率の向上につながっている。
結局のところ、中小企業が高い生産性を実現できるのかは、企業の数ではなく、ビジネスモデルの中身にかかっている。合併などによって企業の数を減らせば、組織をスリム化できることに加え、調達コストも下がるので、ある程度の生産性向上効果が見込める。だが、大企業に対する従属的な下請けビジネスから脱却できなければ、規模の拡大による生産性向上にも限界があるだろう。
従属的な取引関係というのは製造面における元請け、下請けに限った話ではなく、販売面においても非効率な商習慣が残っている。
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