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日本人が食べる「貝」は、養殖のホタテとカキが突出してトップ争いをしている。近年、その貝殻のリサイクル利用が大きく進んでいる。ホタテの貝殻からは、バイオプラスチックの割り箸や使い捨て食器、抗菌剤などがつくられ、カキの貝殻からは、ボルダリング競技の滑り止めなどが生まれている。カキ由来の土壌改良剤を使った水田でブランド米と日本酒までつくったプロジェクトもある。貝殻は、環境問題の解決に貢献して地球を救えるか?
日本人が食べる貝、大部分が「養殖ホタテと養殖カキ」
日本人が食べる「貝」といえば、アサリ、ハマグリ、サザエ、アワビ、シジミなどが思い浮かぶかもしれない。しかし実際は、肉厚のホタテとカキが出荷量でトップを争っている。どちらも欧米では「オイスターフェスティバル(カキ祭り)」などで盛んに食べられ、日本でのホタテ、カキの人気は、食生活の洋風化を反映しているともいえそうだ。
農林水産省の「海面漁業生産統計調査」によると、2018年の養殖ホタテ貝の出荷量は、1位が北海道48.8%、2位が青森県48.4%、3位が宮城県1.6%で北日本が上位を占めた。同年の養殖カキ類の出荷量は、1位が広島県58.9%、2位が宮城県14.8%、3位が岡山県8.8%で、どちらかといえば「西日本の貝」だった。
そのホタテとカキの養殖出荷量は、近年ほぼ互角である。2018年は、カキが17.6万トンで、ホタテ貝の17.3万トン(別に天然ものが8トンある)をわずかに上回ったが、首位は年により頻繁に入れ替わった。サンマなど魚の漁獲量ほど変動は激しくないが、天候や海水温の変化、震災、台風災害などが影響している。
天然ものの貝代表、アサリの採貝漁獲量は、2008年の2万4279トンから2018年の7628トンへ、10年で3分の1以下に減っている。2018年、サザエは3826トン、アワビは784トンにすぎず、ハマグリやシジミはもっと少ない。今や、日本人の食生活で「貝」の大部分は、出荷が安定した養殖ホタテと養殖カキで占められている。
そのホタテもカキも、身をむいた後の貝殻は、水産加工場や家庭からゴミとして捨てられるのが一般的だった。それが今、「再生利用資源」として脚光を浴びつつある。
貝殻が地球を救う?
地球環境の大問題の1つに、使い捨てプラスチックによる海洋汚染(マイクロプラスチック問題)がある。2018年6月のシャルルボワ(カナダ)G7サミットで「海洋プラスチック憲章」が採択され、環境省は「
プラスチック資源循環戦略」で、2030年までに使い捨てプラスチックの排出量を25%削減する数値目標を定めた。プラスチックの包装材や容器を紙や木など代替素材製に切り替える動きは、外食や小売を中心に産業界全体に広がりつつある。
プラスチック自体も、石油由来ではなく生物由来の有機素材や生分解性プラスチックに切り替える動きがある。この生物由来のプラスチックは「バイオプラスチック」と呼ばれる。
バイオプラスチックは、世界的にみて2020年代前半に成長が見込まれる。ウィーンに本部がある欧州バイオプラスチック協会が2018年に行った調査・予測によると、2017年に全世界で206.0万トンだった生産能力は、2023年には261.6万トンまで伸びる見通しで、6年間の成長率は27%だ。
バイオプラスチックの原料は植物が多いが、成分のほとんどがカルシウムの動物由来の有機原料、貝殻を原料として活用する動きもある。国内消費が多いホタテやカキは海の貝なので、それらの再利用はイメージ的に「海洋プラスチック問題解決」に結びつきやすい。
ホタテの出荷量日本一を北海道と争う青森県では、産地の陸奥湾岸の水産加工場から出る貝殻を一時保管場所に大量に捨てていた。それに着目したのが、宮城県塩釜市に本社をおくプラスチック製造企業の明康だ。
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