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2020年1月7日~10日にかけて、米国ラスベガスで「CES 2020」が開催された。2018年以降、コンシューマ色を弱める意味で正式名称が「CES」となり、「Consumer Electronics Show」の名称を使わなくなった同イベントだが、今年のCESではさらに企業向けの展示が増え、スマートカーやスマートシティ関連の展示ブースが目立った。今回初めて参加したという、ウフル IoTイノベーションセンター長の八子 知礼氏にCESの印象を聞いた。
執筆:井上健語 聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司
執筆:井上健語 聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司
家電から自動車、街まで、すべてを“コネクテッド”するのがトレンド
今回のCESで、自動車関連企業が集まるノースホール展示のうち特に印象的だったのは、スマートシティと自動車を関連付けた展示が多かった点だ。確かに、自動運転車が街中を快適かつ安全に走行するためには、自動車だけではなく、街全体を考えなければならない。したがって、自動車も街もすべてがつながっていくのは必然といえる。
ウフル IoTイノベーションセンター長で、「
INDUSTRIAL-X(インダストリアル・エックス)」を立ち上げた八子 知礼氏はなぜCESを訪れたのか。
「以前は『コンシューマ向けの展示会』をうたっていたCESですが、公式に示している通り、まったくC向けではありません。B(企業取引)も含めたB2B2Cを中心に展示しているので、実際の様子を確認したかったのが1つです。もう1つは、数年前に登場した『スマートホーム』に疑問を感じていたことです。たとえば冷蔵庫とECサイト、キッチンのレンジフードとお掃除サービスというように、IoT設備を入れても外部サービスとつながらないと意味がないと感じていました。CESで『街と家がつながる文脈』を確認したかったのです」(八子氏)
こうした同氏の目に留まったのが、サムスンのブースだったという。
「サムスンのブースには、足下に道路が描かれていて、家のゾーン、街のゾーンといったエリアに分かれていました。そして、各エリアをスマートコネクテッドでつないでいくコンセプトが表現されていました。やはり、家の中から自動車、街まですべてがつながってスマートシティが実現されていくというのが、2020年の大きいトレンドだと感じました」(八子氏)
曖昧になる「家電」と「自動車」の境界
自動車関連の展示では、自動運転の進展に伴い、「自動車の家電化」もしくは「家電のモビリティ化」を象徴するものが多かったという。
家電がコンピュータ化し、ユーザーが「いつでもどこでも」その機能を使えるように求めるようになると、進化の延長線上に電気自動車が現れる。実際に自動車作りはすでにモジュール化しており、家電製品のように開発できる。
自動車作りそのものが家電化しているが同時に、「家電というカテゴリの中に自動車が入ってきている」とも表現できる。より高度な自動運転が実現すると、車の中に快適性が求められるようになることは明白である。家電と自動車の境目が曖昧になってきているのだ。
「たとえば、今回、ソニーが発表した電気自動車の『
VISION-S』でやろうとしたのは、大音量で最高の音を聞きながら移動するエンターテインメント体験を提供することです。一方、トヨタ自動車の『e-Palette』では、自動車の中がお店になったり、くつろいだり、調理したり、食事をしたりといったことが可能になります。つまり、リビングやダイニングに置いてあるさまざまな家電が自動車の中に組み込まれて動き出すのです」(八子氏)
同様のコンセプトはボッシュなども打ち出していたが、自動運転で空間を確保するとなると、e-Paletteのような形に落ち着くといえそうだ。
「iPhoneが登場して、平面を指でなぞるインタフェースに統一されたように、自動運転車で内部にスペースを確保するなら、トヨタのe-Paletteのようなスタイルにならざるをえないでしょう。シャシーに駆動系部品を搭載し、その上にボディーを載せてできるだけ広い空間を確保する。運転席はなくて、そこにソフトウェアとしての自動運転を組み合わせる。そう考えると、ほぼe-Paletteのような形になると思います。ただし、居住空間をあえて広くしないという発想をすれば、また別の形もありうるでしょうね」(八子氏)
PCの世界で起きたことが、自動車の世界で起きている
とはいえ、トヨタは他の自動車メーカーとはかなり異質であるのは確かだ。今回のCESでも、同社はあらゆるモノやサービスがつながる「コネクティッド・シティ」というプロジェクトを発表して注目を集めた。そこからは、「我々は自動車だけの会社ではない」という強いメッセージを感じる。
「e-Paletteが発表されたのは2年前の2018年です。そのときトヨタは『モビリティの会社になる』と宣言しました。『車だけ作っていたら危ない』という危機感が強かったのだと思いますが、だとすれば、その数年前から今回のコネクティッド・シティのような構想はあったのだと思います。そして現在は、中国のバイトン(Byton)のような新興の電気自動車メーカーが、2年くらいで市販の自動車を出してしまう世界になっているわけですから、トヨタの危機感は的中していたといえるでしょう」(八子氏)
現実に、Bytonをはじめとする新興の自動車メーカーの製品を見ていると、既存の自動車メーカーは、デザインではもはや勝てないのではないかと感じる。これは「過去にPCの世界で起きたのと同じことが、自動車の世界でも起きているからだ」と、八子氏は次のように説明する。
「かつてIBMは、頑丈で高性能なPCを開発していましたし、HP(ヒューレット・パッカード)もスマートで洗練されたPCを作っていました。しかし、製造機能は、中国や台湾のODM(Original Design Manufacturing)企業に奪われてしまい、IBMは最終的にビジネスそのものを売却するにいたりました。その時期から、IBMは『Smarter Planet』というコンセプトをうたい始めたわけです」(八子氏)
八子氏の話の「IBM」を「トヨタ」に、「Smarter Planet」を「コネクティッド・シティ」に置き換えると、状況はかなり類似しているように思える。
自動車のデザインに関しては、たとえば高性能な3Dモデリングソフトを提供しているダッソー・システムズのパッケージを利用すれば、自由にデザインして開発、製造のシミュレーションまでできる。後は、「資材を買ってきてオーダーするだけ」だ。場合によっては、3Dプリンタで作ることさえできる。特別に巨大な資本がなくても自動車が作れる環境があるため、Bytonのような新しい会社が次々と誕生しているのが現実だ。
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