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  • 2018/10/03 掲載

ちょい飲みブームは終わるのか?吉野家や鳥貴族が大幅減益のワケ

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「ちょい飲み」は一時的なブームを超えてすっかり定着し、外食産業全体がその波に洗われている。セブン-イレブンはいったん断念したが、業態を超えた乱戦模様のあおりで、「夜の飲み屋」の居酒屋やビアホールやバーが売上を落としている。しかしその一方でちょい飲みの代表格たるチェーン店の業績が頭打ちになっているとも見て取れる。NPDジャパン・フードサービス シニアアナリストの東さやか氏は「鳥貴族ははっきり目に見える形で値上げしたのが災いした」と分析した。本稿で「ちょい飲み」を取り巻く状況を徹底解説する。

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いま外食業界に、「ちょい飲み」の大きな波が来ている
(©BRAD - Fotolia)


「夜の飲み屋」だけマイナス成長の理由

 外食産業全体は、一時期の不振を乗り越えて、2012年から6年連続で成長している。 2018年7月30日に日本フードサービス協会が発表した2017年の「外食産業市場規模推計値」は、前年比0.8%増の25兆6561億円だった。協会ではその要因として、1人あたりの外食支出額の増加、訪日外国人の増加、法人交際費の増加傾向を挙げている。

 業態別では、ハンバーガーやお好み焼きなど「その他の飲食店」の伸びが前年比3.9%と最も大きく、「そば・うどん店」の2.7%増がそれに次ぐ。ファミレスや中華、イタリアン、フレンチなど各国料理の「食堂・レストラン」や、カフェチェーンが好調の「喫茶店」も1.6%増と健闘した。一方で「居酒屋・ビアホール」は1.4%減、「料亭・バー等」は1.7%減で、「夜の飲み屋」の業態だけが全体の足を引っ張っていた。

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2017年外食産業市場規模推計値の前年比増減率

 と言っても、みんな夜、盛り場を飲み歩かなくなった、外でアルコールをたしなまなくなった、というわけではないようだ。日本フードサービス協会ではその不振の原因を「食堂・レストランでの『ちょい飲み』需要に顧客を奪われたとみられる」と説明している。ほかの外食業態がさまざまな「ちょい飲み企画」を繰り出して、居酒屋やビアホールやバーなど昔ながらの「夜の飲み屋」からお客さんを奪った、ということらしい。

 その「ちょい飲み」とは、いったいどんなスタイルなのだろうか?

これが「ちょい飲み」の平均的なスタイル

 外食・中食情報サービス「CREST」で外食マーケットを追跡しているNPDジャパンでは、アルコールありの食機会で、店舗での滞在時間60分以内を「ちょい飲み」、61分以上を「ゆっくり飲み」と定義して、2018年1~6月の実地調査データをもとに、「ちょい飲み」の平均的なプロフィールを次のように割り出している。

・年間市場規模 4154億円
・平均客単価 1767円
・平均グループ人数 3.4人
・アルコール杯数 2.2杯
・フードメニュー数 3.3皿

 市場規模は外食全体25兆6561億円の1.6%しかないが、外食各社の経営戦略に及ぼす影響は決して小さくない。一般的なイメージとやや異なるのが「平均3.4人のグループで飲みに来る」という部分だろう。「ちょい飲み」は決して「ひとり酒、手酌酒」ではない。演歌を聞きながらというより、仲間との会話、食事を楽しみながら飲んでいる。年齢層によっては女性の参加率もゆっくり飲みより高く、「男酒」とも言えない。

 ちょい飲みの時間帯は早め。アルコールを飲む食機会(以後、アルコール食機会)全体でも、11~13時台の「昼食」、14~17時台の「間食」の時間帯が少し増え、18~21時台の「夕食」の時間帯が大きく減っている。11~17時のちょい飲みへのシフトが見て取れる。

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「外食」アルコール食機会の時間帯別の増減

 フランスやイタリア、スペインでは、昼食時間帯でもお店でワインを飲む人は少なくない。英国のパブでは「ハッピーアワー」で安い夕方から宵の口にかけては高齢者や子ども連れの主婦がちょい飲みし、夜がふけるとバンドが入って、客席はゆっくり飲みの若い世代に入れ替わる。時間帯だけで言うなら日本はヨーロッパの飲み方に少し近づいている。

 なお、アメリカ合衆国は歴史上有名な「連邦禁酒法」(1920~1933年)の名残でアルコールを提供する場所や時間帯の規制が厳しい州や自治体があり、全体的にちょい飲みをしにくい国なので、参考にはなりにくい。

 滞在時間別では60分以内のちょい飲みの比率は全体の26%で、存在感はしっかり。全体の19%が31~60分で切り上げて店を出る。外食店にとっては客単価を客回転でカバーできる分、酒食を安く提供できる余地が生まれる。

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「外食」アルコール食機会の食事にかかった時間の比率

 「ちょい飲みの年齢層は高い」は大方のイメージ通りだが、男性では40~59歳と60~79歳が拮抗(きっこう)している。昼や夕方から飲みに行けるリタイア層だけでなく、中年の現役世代もアフター5にちょい飲みを楽しむ。

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「ちょい飲み」と「ゆっくり飲み」の男女別、年齢層別構成比(2018年1~6月計)

 女性の参加率は、40~59歳ではゆっくり飲みの29%に対しちょい飲みは38%で9ポイントも高い。60~79歳ではゆっくり飲みの31%に対してちょい飲みは27%と低い。

 中年の女性の参加率が高いのはやや意外かもしれないが、職場のグループや夫婦など男女連れでも利用されていて、女性にとっては長時間の「ゆっくり飲み」より参加しやすいのかもしれない。最近はカフェなど女性に好まれる業態もちょい飲み企画を展開しているので、女性だけの「ちょい飲み女子会」も今後拡大する可能性がある。

どんな外食業態でも「ちょい飲み」への道は開ける

 「ちょい飲み」と「ゆっくり飲み」では、食べ物や飲み物にどんな違いがあるのだろうか?

 NPDジャパンの調査によると、ちょい飲みの飲み物はビールが圧倒的で、2位の日本酒の5.2倍、飲まれている。3位は焼酎、4位は酎ハイ・サワー、5位はワインだった。

 ゆっくり飲みでも1位はビールだが2位の焼酎の2.7倍にとどまり、3位は日本酒とワインが同率、5位は酎ハイ・サワー。ちょい飲みはビールに集中して、ゆっくり飲みは分散する傾向にある。

 食べ物のメニューは飲み物と逆に、ちょい飲みのほうが分散している。メニュー出現率上位はサラダ、すし、魚の刺し身、鳥のから揚げ、スープ・汁物だが差は小さく、ラーメンやギョーザも上位にランクインする。

 一方、ゆっくり飲みはサラダと刺し身の比率が大きく、以下焼き鳥・串焼き、鳥のから揚げ、スープ・汁物。特徴的なのはちょい飲みではすし、丼物・重物、白いご飯と「ご飯物」が上位に入ることで、ちょいとつまむだけでなく、バラエティーに富むメニューでけっこうしっかり腹を満たしているようだ。

 では、ちょい飲みではどんな店に行っているのか? 業態別のシェアでは1位が和風居酒屋で2位がスナック、バー、ナイトクラブと昔ながらの「夜の飲み屋」が上位を占めるが、3位はラーメン・ギョーザ店、4位がホテル・宿泊施設、5位がすし店、6位が洋風ファミレスとなっており、中華、お好み焼き、そば・うどん、牛丼の店も上位に食い込むなど多彩。

 NPDジャパンによると首位の和風居酒屋はシェアを落とし、ラーメン店や焼き肉店がシェアを伸ばしているという。

 この傾向は、どんな外食業態でもアルコールを提供できれば、ビジネスチャンスが平等にあることを示している。ハンバーガーでもたこ焼きでもピザでもドーナツでも、やり方次第でちょい飲み市場が開拓できる。

【次ページ】“代表格”吉野家や鳥貴族らに陰り、ちょい飲みブームは終わるのか?
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