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マスターデータ管理(MDM)の重要性は認識している一方で、コスト負担の大きさから実施をためらう企業は少なくない。そうした中、注目を集めているのがMDMでの人工知能(AI)活用である。過去の取り組みを学習し、人手の作業を代行できるAIは大きな可能性を秘める。ベンダー各社によるMDMツールへのAI機能の実装が進む中、ガートナーで主席アナリストを務めるサイモン・ジェームズ・ウォーカー氏が、MDMにおけるAIの可能性と今後を展望する。
マスターデータ管理にコストがかかる理由
マスターデータ管理(MDM)の課題の1つにコストがある。その額は膨大だ。ソフトウェアの永久ライセンスだけで80~170万米ドル(約9,000万円~2億円)、実装となればその数倍も追加コストが発生する。専任スタッフの雇用、スタッフの教育も必要で、システム維持のためにもコストが発生する。その負担の大きさから、必要性は理解しつつも、MDMに二の足を踏む企業は少なくない。
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こうした中、コスト削減の切り札として期待が集めるのがAI(人工知能)だ。ガートナーで主席アナリストを務めるサイモン・ジェームズ・ウォーカー氏は、次のように予測する。
「過去の作業内容をAIに学習させることで、理屈の上では人による管理をAIに代行させることも不可能ではない。実現すれば、MDMの人的コストを格段に削減できる。のみならず、疲れ知らずのきめ細やかな作業で管理の高度化も可能だ。我々は2020年までにCIOの8割以上がAIの試験運用を決断し、2022年までに4割のスタッフが意思決定や日常業務でAIの支援を受けるようになると見ているが、AIが支援する対象には、当然、MDMも含まれるはずである」(ウォーカー氏)
マスターデータ管理におけるAI活用の「期待」と「現実」
ただし、「これはあくまで理屈の上での話」(ウォーカー氏)だ。AIの可能性こそ高く評価されるが、現時点で成果が確約されているわけではない。ガートナーのハイプサイクルでも、AI関連技術は「啓蒙活動期」にさえ達していない。運用管理で期待を集める「機械学習」も「過度の期待」のピーク期にあり、今後はその限界が広く知られることとなる。
とはいえ、「AIの適用範囲の広範さは非常に魅力的」とウォーカー氏は力を込める。そもそもマスターデータはデータセットの集積だ。そして、データセットは部門ごとに存在し、その集約には重複や例外の適切な排除が不可欠だ。
ただし、データの膨大さから、人手での作業ではたとえソフトウェアを利用したとしても限界があり、それがマスターデータの品質向上に向けた壁であった。だが、AIを利用すれば、ビジネスルールの学習を通じて、部門データのマスターデータへの高速かつ自動でのマッピングや最適化、ひいてはマスターデータの品質向上も実現できる。
特に大きなメリットが期待される業態の1つがEコマース事業者である。それらの企業の多くでは、商品へのコードの割り振りを人手で行い、商品点数の多さからミスの発生率も高かった。だが、作業をAI化すれば、手間とともにミスも大幅に削減できる。作業を組織全体に拡大させることで、たとえば提案内容や問題対応を内容に応じて自動分類し、組織的な情報管理や対応にも役立てられる。
こうした取り組みでは、対象領域に含まれる事物について、その性質や特性の違いによって異同を定め、領域全体を体系的に分類・秩序立てる「タクソノミ」や、事物の関係性を記述する「オントロジ」などのデータ分類手法の活用も大いに見込める。「成果物から新たな知見を獲得できる可能性も高い」とウォーカー氏は断言する。
マスターデータの品質を高く維持し続けるには高度なガバナンスが肝要だが、そこでもAIは力を発揮する。MDMアプリには、品質が疑わしいデータ入力時にアラートを発する機能が実装されているが、アプリにAIを組み込むことで検出能力を高められ、その後の判断の自動化にも役立てられる。
「AIはマスターデータの評価にも役立つ。問題発生時には過去の対応を基に、管理者は適切な提案も受けられる。言い換えれば、属人的な対応ノウハウを容易に継承することも可能となるのだ」(ウォーカー氏)
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