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  • 2017/11/21 掲載

デジタル・ツイン実装のポイントは「野心的になりすぎない」--ガートナーが指南

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IoTシステムを実装する企業の多くが「デジタル・ツイン」を導入している。デジタル・ツインでいったい何ができるのか、ビジネスにどのような影響を与えるのだろうか。ガートナー リサーチのバイス プレジデント兼最上級アナリストのニック・ジョーンズ氏が、デジタル・ツインのビジネス戦略における価値と、導入への道筋を示す。
※本記事は「Gartner Symposium/ITxpo 2017」の講演内容をもとに再構成したものです。

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デジタル・ツインに必要な4つの要素

 デジタル・ツインとは、現実世界の物理的な「モノ」と対をなす“双子”を、システム上にデジタルで表現したものだ。ジョーンズ氏は、「デジタル・ツインは、企業のIoT戦略の中で、将来的に重要な位置を占める」と述べ、デジタル・ツインが企業のIoT戦略にどのような価値をもたらすのか、その実装の手順について話した。

 ガートナーの調査では、IoTシステムを提供している、または今後提供しようと考えている企業のうち48%が、この先1年でデジタル・ツインを採用すると回答している。

画像
IoTシステムにデジタル・ツインは必要不可欠
(出典:ガートナー)


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 なぜIoTシステムにデジタル・ツインが必要なのか。短期的には、機械・設備などに対してデータを元にした予知保全が可能になることが挙げられる。また、中期的にはより洗練されたIoTに移行できる。たとえば、風力発電所において、単一の風車を最適化するのではなく、風車群全体を最適化することができるようになる。そして、長期的にはイノベーションを促進することが可能になる。IoTで集めた膨大なデータを、次の世代の製品やサービス、プロセスの改善に生かすことが可能になるからだ。

 「デジタル・ツインには、4つの主要な要素と、3つのオプショナルな要素がある」とジョーンズ氏は説明する。

 主要な要素とは、「モデル」「データ」「一意性」「監視」の4つだ。「モデル」については、単純な情報モデルから複雑な物理モデル、有限要素法(FEM)モデルまでカバーしているケースもある。「データ」は、モノの状態、コンテキストなどのデータのこと。そして、一つのモノに対して少なくとも一つ以上のデジタル・ツインが存在する「一意性」を持ち、「監視」は状態をモニタリングしたり、通知を取得したりすることだ。

 これに加えて、3つのオプション要素とは、「アナリティクス」「コントロール」「シミュレーション」だ。

 デジタル・ツインは「アナリティクス」の機能を持っている場合が多く、アルゴリズムや予測へとつながるものだ。また、デジタル・ツインに対して、モノを「コントロール」するよう指示を出すことができる。そして、デジタル・ツインの中では複雑な「シミュレーション」を扱うことが可能だ。たとえば、風力発電の風車の例では、デジタル空間上で「もし風速が100km/hを超えたら、タービンはどうなるか」を試行することが可能だ。

 ジョーンズ氏は、「デジタル・ツインをつくる目的は、売上を増加させたり、コストを節減したりといった、よりよい“ビジネスの成果”を出すことにある。その意味で、デジタル・ツイン導入の意思決定は、事業戦略の一環である」と話し、将来的にはプラットフォームビジネスにおいて、重要な要素になると指摘した。

デジタル・ツインのゴールはよりよい意思決定の支援

photo
ガートナー
リサーチ部門
バイス プレジデント兼
最上級アナリスト
ニック・ジョーンズ氏
 「戦略的な観点から、デジタル・ツインは3つの次元をサポートしていると考える」とジョーンズ氏は続ける。

 どのようなサービスを提供するか、概念としての「ビジネス・コンセプト」、それを実装に落とし込む「ビジネスモデル」、そしてKPI、ROIなどの数値的な「エコノミック・アーキテクチャ」がその3つだ。「IoTやデジタル・ツインで何ができるのかを考えるときに、この3つの次元で切り分けるとクリアになる」とジョーンズ氏はアドバイスした。

 実際のデジタル・ツイン活用の事例として、エミレーツ航空と、同社の飛行機のジェットエンジンを製造するGEの事例が紹介された。

 エミレーツ航空では、計画外のメンテナンスが非常に多いことが課題だった。計画外のメンテナンスが発生すると、サービス全体を停止しなければならず、それがたび重なって毎年億単位の費用がかかっていた。

 起きていたのは、ジェットエンジンのブレードや、それを覆うシュラウドの部分が酸化して腐食し、破砕してしまうという問題。特に暑くて砂の多い地域では酸化の進行が早まるが、エミレーツ航空の飛行機が行くのは、まさに「暑くて砂の多い」地域である。

 この問題を解決するために、ジェットエンジンのデジタル・ツインをつくった。ブレード、シュラウドの素材特性や、各機体が何時間飛行したか、エンジンの運用状況や、飛行ルート、温度などの環境に関するデータをデジタル・ツインに取り込んだ。そのデータを機械学習にかけて、タービンのブレードやシュラウドに、いつメンテナンスが必要になるかを予測したのだという。

 「これを運用したことによって、計画外のエンジンメンテナンスは、2016年02017年の1年で56%減らすことができた」と、ジョーンズ氏はその効果の大きさを示した。

 そして「すべてのデジタル・ツインが現実に忠実な物理モデルでなくてよい。デジタル・ツインは資産を視覚化するが、ベースに置くべきなのはあくまでビジネス目標。デジタル・ツインを考えるときには、シンプルなモデルから考え始めて、テクノロジーに馴染んだところで、もっと高度で洗練されたモデルへと移行していくのがよいだろう」とジョーンズ氏は付け加えた。

【次ページ】デジタル・ツインが貢献する2つのエコシステム
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