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仮の運用でスタートし、効果測定を繰り返しながら臨機応変に改変していく「アジャイル」はソフトウェア開発だけでなく、さまざまなビジネス分野でも注目され始めている。アジャイルの根源は日本にあるという説もあるが、なかなか手法として広まらなかった過去がある。アジャイルの導入がなじまなかった理由や、必要な要件を解説し、ソフトウェア開発領域以外の分野へ適用の可能性を探る。
アジャイル型人材はなぜ必要か?
ソフトウェア開発手法としてよく知られる「アジャイル」や「スクラム」という言葉を聞く機会が増えてきた。2000年代にちらほら聞かれた後、失敗事例が相次ぎ、そもそも日本の企業文化には合わないといった意見が流布されたことでしばらく落ち着いていたが、最近になって再び熱を帯びてきている。
(システム内製化の流れもあり)アジャイルの成功事例が増えてきたことも原因の一つだが、ビジネス環境や技術の変化が加速し、従来以上の開発速度が必要不可欠な時代に突入したから、とも捉えられる。環境や技術の変化が激しいのは、ソフトウェア開発の現場ばかりではない。激しく変化するソフトウェア自体が日々社会に組み込まれて新たな環境として機能するため、他業種にも大きく影響している。
筆者が関わることの多い教育業界は変化の少ないと考えられている業界の一つだが、この数年で生徒たちの「デジタルネイティブ化」が加速した結果、情報の質と量が多様化し、今までにないスピードでの変化が求められているのを感じる。
この連載では、なぜいま、ソフトウェア業界以外でも臨機応変にビジネスに取り組む「アジャイル型人材」が求められているのか、なぜ多くの日本企業でアジャイルの導入が難しいのか、どうしたらアジャイル型人材を育成することができるのかに焦点を当てて論じていきたい。
日本でアジャイル普及に時間がかかった3つの理由
アジャイル型人材について議論する前に、日本ではなぜ「アジャイル開発」を当初うまく導入できなかったのかを振り返ろう。そこには大きく3つの原因があると考えられる。
1つ目は契約形態の問題、2つ目は合理主義の問題、3つ目は教育制度の問題である。
まず契約形態の問題について。(システム開発の際には)日本ではSIベンダーが請負契約をする受託開発が圧倒的に多いため、「変更が前提」であるアジャイルは適用しにくい。
変化に即したプロジェクトスタイルであることは、アジャイルの最も顕著な特徴のひとつだが、そのためには、目標達成のために方法を柔軟に変えていく発想が必要である。
つまり、ロジカル・シンキング(論理的思考)だけでなく、直感的な発想手法であるラテラル・シンキング(水平思考)が求められる。多くの開発チームは、実装して欲しい機能を指示されて開発をする形態をとるが、アジャイルの場合、顧客の目的達成のためにどのような機能を開発実装すれば良いかをチームで考え、随時改善や変更をしていく。
チームの中に顧客も参画しているからこそできる方法であるが、「すべてはチームの自己責任」であるというアジャイルの思想は請負契約と相性が悪い。
また、顧客に対してプロセスが可視化されることを嫌う体質の企業も多く、伏せる部分と見せる部分とを分けて調整する文化がアジャイルの導入を阻んでいる感もある。
【次ページ】アジャイルは日本人になじむ手法のはずだが……
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