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- 2017/01/11 掲載
田中俊之氏、リクルートワークス、サイボウズが語るダイバーシティとインクルージョン
「男は仕事、女は家庭」
そう指摘するのが、武蔵大学 社会学部 助教の田中俊之氏だ。
「HRカンファレンス2016-秋-」で登壇した田中氏は「男性学」の視点から男女の働き方を考える活動を行っている。この男性学とは「男性という性別が原因で何かしら問題が生じている事象を扱う学問で、1980年代の後半頃から議論され始めている」という。
「たとえば、僕は現在41歳ですが、40過ぎの男性が最も心配されるステイタスは、『無職』だということです。次に40過ぎの男性で『フリーター』だというのも問題視される。その次に、定時に帰って、育給も取って、週2日休む40過ぎの男性がいたら、恐らく心配される。一番心配されないのは、一所懸命働いていること。仕事が忙しいということが、男性として評価が高いということといまだに繋がっています」
そして田中氏は「女性の活躍推進を実現するためには、男性の働き方、暮らし方の見直しが欠かせない」と続ける。
「女性活躍推進や働き方改革という掛け声は大きいですが、ではいざ、男性が仕事を辞めて主夫になる、あるいは非正規社員になって子供の面倒を見ることに専念する、そこまで極端ではなくても時短勤務するという男性社員が出てきたとき、どれぐらいの人がその状況をきちんと受け入れられるのかという問題があります」
労働基準法では、1日8時間/週40時間が標準の労働時間として定められているが、フルタイムの総合職ではこれが最低限の労働時間となっている。つまり1日8時間/週40時間は当たり前で、これ以上働いて初めて長時間労働の問題が議論されるようになるのだ。
「働き方改革については、本音と建前が大きく乖離している現実があります。建前では男性の長時間労働を是正するというが、企業に入って調査をしてみると、どの職場でも長時間労働は問題ではない、仕方がないと思われているという結果が相当出てきます。だから男性の場合、時短勤務は許されないし、育児休暇のような長期休暇も取れない。企業が働き方改革を実現するためには、この本音にどれだけ切り込めるかが問われることになります」
一方、女性の活躍について考えたとき、田中氏は「配偶者控除という制度が残っている現状からも分かるように、日本にはまだ『男は仕事、女は家庭』という認識がベースにあるという前提でいろんなことを考えていく必要がある」と指摘する。
「たとえば女性が出産して時短勤務をするとき、その影響が他の社員に及ぶことをどう考えていけばいいのか。ダイバーシティという観点からは、ピーター・L.バーガーという社会学者が唱える『積極的寛容』という理念を持つしかないでしょう」
今の若者は他人に対して、いろんな人がいてもいいじゃないかと全般的に寛容だという。
「しかしそれは無関心の表れです。職場の場合、そうはいかない。いろんな人と一緒に働いていかなければならない。そのときにどんな価値観を持つべきか。重要となるのが『敬意』だと思います。生活スタイルも含めて自分とは異なる価値観を持つ相手の考え方や生き方に敬意を払えるかどうか。自分には理解できないが、そういうやり方もあるよねと敬意を払って受け入れることができるかどうか。女性活躍や働き方改革を進める上では、そうした積極的寛容の姿勢がとても重要です」
残業しない社員は「正社員」ではない
多くの国でパートタイムワーカーの反対語はフルタイムワーカーと定義されている。
「フルタイムワーカーは1日8時間働く人を指します。そして日本ではフルタイムワーカーを正社員と訳しますが、誰も8時間働く人のことを正社員とは思っていない可能性が高い。朝9時に出社してきっちり6時に帰る人は、会社への貢献度が低いとかやる気がないと見なされる。8時間はあくまで最低ラインで、日本でいう正社員とは、オーバータイムワーカーのことです」
一方の働く側も正社員である以上、男性にしても女性にしても、残業することは普通にだと考えてしまう。それが日本の現状だ。そのため残業できない人は、最低限の義務を果たしていない、あるいは特別な待遇を受けていると周りから見られてしまう。
たとえば毎日16時に帰るワーキングマザーは、早く帰るという権利をもらっている代わりに、他のところで権利が制約されても仕方がないと考えられてしまう。だからやりがいのある仕事を任されるとは思わないでねとか、高い評価や昇進、昇給もそんなに簡単に起こるとは思わないでねとなってしまう。
【次ページ】ダイバーシティが失敗するメカニズム
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