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- 2017/02/06 掲載
ルイ・ヴィトンやグッチ、GUの仕掛け人が語る「SNS戦略に悩む時点で周回遅れ」
ドレスイング CEO ナカヤマン。インタビュー
サッカー日本代表・槙野智章氏が自身のInstagramに投稿したルイ・ヴィトンのインタラクティブ・インスタレーションの事例。こちらもナカヤマン。氏の企画・制作によるもの。なぜ彼の仕掛けを著名人までもがこぞって楽しむのか。その理由は後半に記載(©makino.5_official - https://www.instagram.com/p/BPNIB9ch_jK/)
SNS戦略に悩んでいる時点で「周回遅れ」
──まずは、ナカヤマン。さんの経歴について教えてください。ナカヤマン。氏:大学卒業後、車載機器メーカーに就職しました。化学専攻だったので、お茶の水博士みたいな職業に就きたかった。ところが就職活動を始めてみると、そんな「ゼロをイチにする」仕事は存在しなくて。近いのが商品企画だと思い、就職しました。その頃は好きなコトを企画に詰め込み、趣味嗜好が自分に近い人をターゲットにした商品を企画していました。
──この時点でマーケティングには関わられていなかったのですか?
ナカヤマン。氏:全部やっていました。ボクの企画は新しいコンセプトで、他の人に任せるとイメージとズレてしまったんです。そこで本部長に「自分の商品は一人で全部やりたい。各部門の予算を自分に付けて欲しい」とお願いしました。やってみろよ、と商品1つに対して3,800万円の営業・広告費を頂きました。就職2年目のことです。
3年目にはお前が勝手にやっているのはマーケティングという仕事だからグロービス経営大学院大学というビジネススクールで学んでこい、と言われました。それ以降、ブランドマネージャーを務めることに。直観でやっていたことが体系化されました。面白くて、天職に思えて、マーケティングにはまっていきました。
──独立のきっかけは何だったのでしょう?
ナカヤマン。氏:きっかけはクリエイティブエージェンシーの設立ラッシュです。特に日本初のクリエイティブエージェンシーと言われるTUGBOAT(タグボート)には年齢が近い麻生哲朗さんがおられました。自分の名前で仕事をしている彼の記事を見て、「オレはいま同世代のプランナーで何番目だ!?」と騒いだくらい、自分の現状を悔しく思いました。ただ自分の環境が緩くて、保険が掛かりすぎていて、悔しがる権利すらないとも感じたんです。
──辞めて1年間はフリーランスとして活動されていたんですよね。
ナカヤマン。氏:ブランディングのプロとして独立したのですが、まったく仕事は取れませんでした。そもそも営業をしたことがないんです(笑)。会社員時代からVJ(ビジュアルジョッキー)をしていたので、VJとグラフィック制作で月5万円程度を頂戴して凌ぐ、というのが初めの半年です。フリーランスというよりはプータローですね。
──その後、ドレスイングを起業されるわけですが、現在の事業のドメインについて教えてください。
ナカヤマン。氏:ボクの興味に併せて変遷し、今はコンテンツエージェンシーと名乗っています。数年前からファッション業界ではSNS戦略ならドレスイングという評価を頂いていますが、2015年以降ボク自身の興味は、その先に移ってきています。それがコンテンツ形成です。
現在の当社の強みは、かなり固めのデジタル戦略をベースにしたコンテンツ形成です。それにより確度の高いデジタルマーケティングが提供できています。
長所であるSNSに関する知見をフル活用するのは当たり前。更なる確度と伸び代を提供するのがコンテンツ形成だと考えています。例えばその為に、インスタグラム連動の地上波テレビ番組までをも自社で企画・制作しています。
正直、いまSNS戦略に悩むのは一周遅い。そのままではずっと周回遅れです。2017年はチャネルとコンテンツについてしっかり悩むべき。自社のSNS戦略の遅れなんてその過程で巻き返せます。
2009年から9年間変わらないSNS戦略
ナカヤマン。氏:2009年にTwitterと出会ったことが大きいです。フォローという概念を見たとき雷に打たれました。フォロワー=ファン、今でこそ当たり前ですが、こんなにもファン構造を可視化する概念があることに驚きました。ブランドのファンがブランドのアカウントをフォローする世の中においては、ブランドAとブランドBの重複したファンすら把握できる。興奮しました。
──そこからSNSを軸としたマーケティングを展開するようになったのですね。
ナカヤマン。氏:そうです。読者モデルをプロデューサーに据えたファッションブランドが多かったことも功を奏しました。プロデューサー個人のブログ経由で形成されていた売上を、組織化できないかと試行錯誤が始まったんです。初めにMURUAという人気ブランドから相談がありました。12か月のコンサルティングプランを作って契約したところ、新聞に掲載されました。反響は大きく、半年の間にさらに11件のクライアントを獲得しました。
──MURUAがTwitterの重要性に気づいたのは随分早かったのですね。
ナカヤマン。氏:オウンドメディアの効果と重要性をブログで熟知されていました。おそらく次の美味しいメディアを探しておられたのではないかな。そういう組織は判断も早いので次々と成功事例が作れます。「組織化」という課題も明確、「プロデューサー個人のトラフィック」という強みも明確。そして当社がTwitterの仕組みは熟知していたので、あとは成功体験を増やすだけでした。
当時のロジックは、数字が有る場所から欲しい場所にコピペしていくこと。例えばアカウントAのフォロワーをアカウントBにコピペする。重要なのは、この数字の1つ1つが人間であると忘れないこと。その上でブランドが毀損されない方法で実施する。コピペの工程をコンテンツ化するんです。ファンに楽しんで参加してもらえるように。この育成ロジック自体はインスタグラムに変わっても、雑誌、地上波テレビが加わっても変わっていません。
──コンテンツ化すると何が起こるのですか。
ナカヤマン。氏:フォロワーという数値だけが増えるのではなく、きちんとファン形成されます。最終的にSNS経由の売上を問われることも少なくないので、中身がない実績はすぐにバレます。例えば24時間のゲリラセールをきちんとコンテンツ化するだけで、売上が2倍になった事例もあります。たった24時間の企画でも「千万」の単位で差が作れるんです。この集大成が当社の成功事例のひとつ、インスタグラムプロモーション「GU TimeLine」ですね。
必要なのは「インスタグラム以降」でも通用するデジタル戦略
──今はコンサルティングだけでなく、制作も手がけられていますね。コンテンツエージェンシーへの転換は、何かきっかけがあったのでしょうか。ナカヤマン。氏:2012年にフランスの有名ラグジュアリーブランドからご相談を頂きました。本国からのオーダーでバイラルキャンペーンを実施したいが、オフィシャルアカウントは使わずやりたいという相談でした。そこで提案したのは「場所を作ること」。自身で花粉を運べないのなら、ミツバチに運んでもらいましょう、と話した記憶があります。ミツバチが喜んで来てくれる遊び場が必要です、とも。当時から当社はファッション誌のコンサルティングもしていたので、そのミツバチにもコネクションがありました。
少し脱線しますが、このロジックはインスタグラマーをイベントに集客して情報流布を仕掛ける最近のトレンドに引き継がれています。当社は、雑誌に加えて、芸能事務所などのコンサルティングを始めた関係で、インスタグラマーやタレントの方々もミツバチとして参画して頂く基盤があります。ただ、ミツバチとのコネクションを使って強制していてはダメです。普段のコミュニケーションから性質を理解し、楽しんでもらえるコンテンツ形成を行うことが必須です。
(©nkymn - https://www.instagram.com/p/0ufPpJp46L/)
2012年に話を戻すと、スノードームをコンセプトにしたそのキャンペーンでは、そのブランドの代表的なアルファベットや数字のモチーフが飾られたクリスマスツリーをユーザーがカスマイズできる遊びをご用意しました。自分だけのツリーを、SNSのアイコンやヘッダーとしてダウンロードできる。同時にSNS上でキャンペーンサイトのURLが拡散していく仕組みです。そのブランドの事例の中で、最もアクセスされたキャンペーンになりました。
アクセスが昼か夜かによって白ver.と黒ver.を出し分けたり、12月24、25日の2日間だけはゴールドver.がダウンロードできたり。スノードームのコンセプトに合わせてシェイクすると雪が舞い上がるというスマートフォンならではの遊びも入れました。雪が舞っている間にキャプチャしてSNS投稿するという遊びも副次的に流行りました。この投稿ではURLが拡散するわけではありませんが、案外「副次的な遊び」を仕込んでおくことは重要です。ファミコンの裏技が盛り上がるのに近いですね。
このラグジュアリーブランドのお仕事が当社の最初の制作です。翌年度も引き続きクリスマスキャンペーンのご依頼を頂いたり、噂を聞いたブランドさんからサイトやアプリの依頼を頂いたりと、コンサルティングに続いて制作の体制が構築されました。
2014年にはインスタグラム活用の代表事例にも挙げて頂く「GU TimeLine」を、企画・制作に加えて運用までを2年強に渡って手掛けました。マスブランドのGUだからこそ出来る売上直結型の施策で、多い時にはGUのオンライン全体の売り上げの2割を占めるまでに成長。実施から2年後の2016年にはソーシャル活用売上を指標にした企業ランキングでドミノ・ピザに続く2位をGUが獲得しています。
──SNSの中でも、最近はインスタグラムと連動したコンテンツを製作することが多いのでしょうか。
ナカヤマン。氏:インスタグラムはすべての案件に含みますが、2015年以降当社ではインスタグラムに重きを置いた考え方はしていません。さまざまなチャネルを組み合わせて効果を最大化する組み立てをしています。逆に言えばインスタグラム以降でも通用する企画を提供しているつもりです。
先日開催されたFashion×ITのワールドワイド・カンファレンス「DEOCDED FASHION」登壇時にも共有させて頂いたのですが、2016年以降、当社ではすべての提案を「Single, Powerful Content for Multiple Channel」というコンセプトで企画しています。SNSを含む多様なチャネルに細分化する前提で、最高の中核コンテンツを1つ企画するのです。
このコンセプトは、「GU TimeLine」から派生して2015年後半から手掛けているインスタグラム連動の地上波テレビ番組の企画・制作で固まりました。地上波テレビにおける露出も、出演インスタグラマーのアカウントからの露出も、Facebook広告による露出も並列で解釈して、デジタルプロモーションのKPIに基づいて効果検証しています。
──御社が得意とされるラグジュアリーブランド向けのイベント用インタラクティブ・インスタレーションにもそのコンセプトは適用されるのでしょうか。
ナカヤマン。氏:はい、していますね。当社ではインスタグラムが動画対応した直後から、動画対応したインタラクティブ・インスタレーションを提供してきました。もちろんインスタグラムに投稿されることを想定して企画します。
そして体験者数を最大化したい一方で、体験者の投稿ですべてのメッセージが伝わるとも考えていません。広告を拡散してもらっているのではなく、ユーザー体験が投稿されているのですから。とても重要なポイントです。それを前提とするとSNS投稿に加えて、メディアに何をどう切り取ってもらうか? 配信されるプレスリリースとの兼ね合いは? など、すべてを企画の時点でイメージする必要があります。プレスリリースを起点とする露出もデジタルマーケティングのチャネルの1つです。
加えて2016年を振り返ると多様化のリスクが急激に上がっています。パッケージ化されたデジタルギフト、例えば体験者に配布する5秒の動画ファイルなどが企業の思惑通りアップされない確率も上がっている。体験ブースには入るものの用意したカメラでなく自身のスマホで撮影したい子もいれば、新機能のインスタストーリーでラフにアップしたい子もいます。
ルイ・ヴィトンで行った常設インスタレーションでは、どのアプローチで利用されてもコラボレーションアーティストであるチャップマン・ブラザーズの作品が流布されるように構成しています。例えばレセプションでも別途フォトコールを設置せず、インスタレーション用のブースを使って有名カメラマンの新田桂一さんが撮影されていました。真似てアップするファッショニスタも多くおられました。
ルイ・ヴィトンのインタラクティブ・コンテンツのブースでスマホ撮影されたインスタグラム投稿。槙野選手の投稿の様にパッケージ提供された動画の投稿ではないが、チャップマン・ブラザーズのアートワークはしっかり露出している(©mademoiselle_yulia - https://instagram.com/p/BPPxTZmAQtQ/)
【次ページ】 「個人」から「マスメディア」の間を無数の「アカウント」が役割分担する世界で、「周回遅れ」の企業はどうするべきか?
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