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  • 2015/09/08 掲載

羽生名人の言葉に学ぶマネジメント 勝ちつづけるための「他力」の極意(2/2)

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マネジメントという「究極の自力思想」で活きる「他力」の使い方

 プロ将棋界で常に最高のパフォーマンスを出し続けている人物、羽生 善治名人。彼の偉大なる記録といえば、1996年2月14日、将棋界初の7タイトル独占を達成したことが有名であるが、これを達成してから20年の時が経ってなおトップ・オブ・トップの座を占め続けている。

 羽生名人の実績として分かりやすいのがタイトル獲得ランキングで、歴代最高記録の92期の獲得を誇っている。他の現役棋士でこれに次ぐ成績は谷川浩司九段の27期、3位は渡辺明棋王の15期であり、あらゆる記録において全ての棋士を圧倒している。羽生名人とはプロ将棋界において、「勝利数のマネジメント」に歴史上最も成功したプレイヤーといえる。

 その羽生名人が長きにわたって卓越した実績を残してきたことについて、多数のインタビューやエッセイが出版されている。それらのなかで羽生名人は「他力」によってこのような実績を打ち立てたということを頻繁に語っている。

将棋の対局では、不利ではない互角の局面でも、自力だけではなく「他力」を使う、つまり「相手に手を委ねる」という考え方が鍵になる局面が多く現われます。

(中略)

将棋は、自分が一手指すと相手の番になり、そのときは何もできません。自分だけが読み筋を立てて、その通りにいくような手を指しても、相手もプロです。自分と何度も対局していることも多く、それを逆手に取られて技をかけられてしまいます。ですから、技をかけられないように、うまく手を渡す必要があるのです。

(羽生 善治著 「結果を出し続けるために」より)

 そもそも将棋というものは、ベストな手を互いに指す以上は、一方的に自分だけが得するような手が存在しない。こちらが歩を一枚得したら、必ずあちらにも同じだけの得をする手が存在する。ゆえに、トッププレイヤーのゲームともなると、自分から技をかけに行ってもだめで、相手がミスをしてくれない限りはどうしようもない、というのである。

 そう言われるとなるほど、という感じがするが、羽生名人の他力思考は、ここから様々な飛躍を見せる。例えば、その時に流行している戦型が自分のスタイルと合わなければ、結果が出ないのは仕方がないことである、といったような「環境と自分」という観点での他力思考や、自分自身のやる気やコンディションといったことについても、「一年を通して風邪をひかないことはないように、不調は避けられない」といった点でも「自分の意思だけではどうにもならない」という考えを表明している。

 そもそもマネジメントとは、日々発生する様々な事象に対して、自らの意図した通りの結果を出そうという「自力発想」の行為である。そして将棋という、あらゆる指し手が「自力」を通してのみ生み出されるゲームで、「勝利数のマネジメント」に最も成功したプレイヤーが、ここまでして「他力」を主張するということは、極めて意外な話のように感じられる。

 しかし翻って考えてみると、この世というものは自力で制御できることなどごく僅かなものしか存在しないものだ。しかも、現場と意思決定機関の間にある不確定要素がギャップを生み、それを困難にする。その矛盾によって、物事を思い通りにしたいという欲求が増幅され、日々試行錯誤がなされている。

 そう考えると、マネジメントにおいて問われるものとは、意思決定の「精度」ではなく意思決定の「流儀」なのだと気付かされる。その最高の流儀が、「他力との付き合い方」にある。そのことを、稀代の名人が繰り返し語っているということは、我々の社会にとって幸福なことであるように思われる。

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