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- 2015/09/03 掲載
明治大学 加藤 久和教授に聞く、マイナンバー制度開始は所得格差解消の第一歩
税と社会保障制度における日本の課題と、マイナンバー制度の利活用
加藤氏:マイナンバー制度の運用開始にあたって、マイナンバーと個人情報を紐付けた特定個人情報が、正しく管理・運営できているかを監査する必要があります。
たとえば、地方公共団体はマイナンバーを利用する際に児童手当が必要な方とその方の所得を結び付けるのですが、各情報は別々に管理されています。制度が開始したときに、互いのプライバシーが守られているか、またどのようなシステムで実現しているのか監督するのが委員会の主な役割です。
──マイナンバー制度の目的について、簡単にご説明いただけますか。
加藤氏:マイナンバー制度は「国民すべてに12桁の番号を振る仕組み」です。法人に対しては13桁の法人番号が割り振られるほか、住民票がある外国人も対象になります。
制度の目的は、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現することです。その適用範囲は現在も国会で議論されていますが、2016年1月の運用開始当初(注1)には税と社会保障、災害対策に関する分野に限定されています。マイナンバー制度によって、すべての情報を1つにまとめてどこかで管理するわけでは決してありません。各行政機関で持っている情報の紐付けをするためだけに使います。
(注1)本インタビューは2015年8月11日に行われたもの。
──日本における税と社会保障の課題とはどのようなものでしょうか。
加藤氏:まず税の課題ですが、「十五三」あるいは「クロヨン」(注2)というように、職業によって所得の捕捉がバラバラになっています。同じ所得の人に、同じ税負担をさせられない不公平性を解消するために、所得をきちんと捕捉することが不可欠になっています。
(注2)所得の捕捉率を示す俗称。「十五三」は、給与所得者(サラリーマン)が十割、自営業が五割、農業が三割程度というところに由来する。「クロヨン」は、それぞれ九割、六割、四割という割合を示す言葉。
マイナンバーによって政府が国民全員の資産を捕捉しようとしている、というネガティブな声もありますが、納税の公平性を考えるならば、資産の捕捉は大事なことです。とはいえ、マイナンバーだけでは資産の捕捉はできません。あくまで所得のみです。土地や家などの価値も計る必要があり、技術的に難しいためです。
社会保障の課題では、まず生活保護に関する課題が挙げられます。現在約210万人が生活保護を受けていますが、必ずしも保護者の所得を捕捉できているというわけではありません。所得が分からないまま、生活保護を出すケースもあります。不正受給する人もいますし、逆に所得が低いのに受給対象外の人もいます。本当に必要な人に社会保障を給付するためにも、マイナンバーが求められています。
災害対策については具体的に使い方は決まっていませんが、避難者の支援が行えるようになるでしょう。マイナンバーを使うことで、大災害によって住人が他の住居地に移った場合もその場所を追えるようになります。
マイナンバーで管理される情報とは?
加藤氏:自身の情報が漏れてしまう、あるいは誰かの手によって一元的に管理されるといった誤解の声がよく聞こえてきます。しかし、決してSF小説に出てくるような、監視社会になるわけではありません。背番号を付けられるという言い方をされる人もいますが、番号は完全に乱数であり、あくまで情報を紐付けるためのキーになる番号なのです。
これまで日本では、2000年代に制度化された「住民基本台帳カード」運用の際にもプライバシーの問題が取り沙汰されました。当時は「国民総背番号制」という言葉が独り歩きして、そのメリットとデメリットをしっかりと議論する機会が少なかったのです。
今回のマイナンバー制度では、情報が洩れないように、運用・処理・破棄のルールをきっちり決めています。各地域に分散された情報を、単純に紐付けるキーとしてマイナンバーを使います。細部にわたって懸案をクリアし、情報流出がないように手を打っています。現在、先進国の多くが番号制度を導入していますが、日本のマイナンバー制度は過去の失敗や他国の事例を参考にしているため、世界的に見てもセキュリティに配慮された制度だと思います。
【次ページ】マイナンバー制度が所得格差の課題に寄与する理由
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