0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
会計システムのIFRS(国際会計基準)対応にともなって、膨大なデータ量を扱うことになった西鉄ストアでは、Hadoopによる分散処理に対応した新しい会計システムを国内データセンターに構築していた。ところが、プロジェクトの最終段階でインフラに関わるトラブルが頻発し、急きょアマゾンのクラウドサービス、AWSへの移行を決定。最終的には、わずか1ヶ月でAWS移行を実現したものの、移行作業については「非常に苦労した」という。プロジェクトを担当した西鉄ストア 情報システム部 濱田孝洋 氏と移行業務を担当したノーチラス・テクノロジーズ 代表取締役社長 神林飛志 氏がプロジェクト概要とその後の運用結果を明かした。
IFRS対応と複数スーパーでの共同利用を背景に新会計システムを構築
西鉄ストアは、福岡に本拠を置く九州有数のスーパーマーケットである。店舗数は約60店舗で、西鉄グループの中核を担う食品小売りチェーンを展開している。
同社が新しい会計システムの検討を開始したのは、約6年前にさかのぼる。1つの理由はIFRSへの対応だった。AWS Summit Tokyo 2014に登壇した、西鉄ストア 情報システム部 濱田孝洋氏は、新しい会計システムが必要だった理由を次のように振り返る。
「IFRSに対応するには、正確な利益計算が必要となる。ところが、従来採用していた“売価還元法”という経理処理だと、締め処理をしないと原価が確定しないため、週次や月次でしか利益がわからない。そこで、単品ごとに、日々、利益が計算できる“個別原価法”を採用することになった。しかし、個別原価法では、単品ごとに細かくデータをとって計算する必要があるため、売価還元法に比べて計算量が1000倍以上になる。このため、分散処理に対応した新しい会計システムが必要とされた」(濱田氏)
また、西鉄ストアが新しい会計システムの検討を開始した背景には、システム更新時期が迫っていたこと、そして共同利用を見据えていたことがあった。
「もちろんシステム更新時期が迫っていたという現実的な問題もあったが、もともとは中規模のスーパーマーケットが集まって、共同利用できる基盤を作ろうという試みからスタートした。スーパーマーケットの場合、会計処理はどこもそれほど大きな違いはないので、共同で使えるIFRS対応の会計システムを構築すれば、会社ごとに開発する必要はなくなるだろうと考えた」(濱田氏)
こうして、スーパーマーケット数社が参加して500項目に及ぶ要件定義を行い、入札も実施してベンダーもほぼ決定した。そして、システム更新が迫っていた西鉄ストアが先行する形で、プロジェクトが動き始めたのである。
カットオーバー直前に問題が多発、わずか1ヶ月でAWSに移行
システム開発自体も紆余曲折を経たが、カットオーバーが近づくにつれてインフラ部分の課題が顕在化してきた。もともと、国内のデータセンターを利用してシステム構築していたが、インフラのトラブルが頻発するようになったのである。
「もともと、契約した国内データセンターはコストが高いわりにはパフォーマンスは悪く、サーバが落ちることもあった。さらに、トラブルが発生すると『ベンダーに聞いてみます』という回答が返ってくるだけで、原因追及も十分に行われず、Hadoopのような最新技術への対応が不十分なのは明らかだった。2013年3月にはカットオーバーの予定だったが、とてもこのままでは難しいという状況に陥り、国内データセンターからAWSに移行することを決断した」(濱田氏)
移行作業は、協力ベンダーであるノーチラス・テクノロジーズが担当。2013年2月末に AWSへの移行を決定した。現在、以下の7つの業務を対象としたシステムがAWS上で稼働しているという。主に利用しているのは、Amazon EC2とAmazon S3で、HadoopをAmazon EC2インスタンス上にインストールして利用している。
- 売上締め処理
- 債権計上・回収処理
- 仕入・費用計上締め処理
- 買掛未払計上・支払い処理
- テナント管理
- 売価還元法管理会計
- 個別原価法管理会計
システム開発そのものも難航したプロジェクトだったわけだが、AWSへの移行も一筋縄ではいかなかった。
【次ページ】AWSへの移行で感じた2つの課題
関連タグ