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  • 2013/10/11 掲載

ナレッジ・インフラという視点とレジリエンス・マネジメント

【連載】変わるBCP、危機管理の最新動向

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前回は安倍政権の進める「国土強靭化」の施策と「ナショナル・レジリエンス」の基本的な考え方、方向性について概説した。今回はこの解説を受けて、ナショナル・レジリエンスに係る最近の具体的な事例をとりあげたセミナーの講話をもとに、具体的な動向を点検してみることとしよう。
 セミナー講師で登場するのは、前回同様、次世代BCPとレジリエンス・マネジメント双方に詳しい、リスクマネジメントのシニアコンサルタントのD氏である。

我々は日常的に多くのインフラリスクと接している

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D氏:私たちは、普段、あまり気にしないで過ごしていますが、実は日常的にさまざまなインフラリスクと接しています。そして、大都市などでは一部のインフラに支障がきたすことによって発生する事業継続性への影響、さらには風説・風評、誤報・虚偽情報による社会的混乱にも充分に配慮しなければなりません。

 たとえば、高速道路を利用する際には、その5分の1が笹子トンネルと同じような潜在的なリスクを抱えていますし、大都市の病院で入院していても、いざ大地震が発生した場合には常に死と隣り合わせの状況にあると思っていた方がいいでしょう。これは決して脅しではありません。


 また、2013年8月9日、NHKのテレビ放映などで、「奈良、大阪で震度6弱から7程度の地震が発生する恐れあり」という緊急地震速報が一斉に流されましたね。これは結局、気象庁が8日午後に発表した緊急地震速報の誤報でしたが、このとき、西日本各地では、津波を警戒して高台に避難する人さえいたといわれています。

 もちろん単なる誤報だけで済んだわけではありません。この騒動が原因で関西の主要鉄道各社は全列車を緊急停止し、交通機関のダイヤも乱れてしまいました。たまたまこの騒動が帰宅ラッシュ時間帯と重なってしまったためにターミナル駅は混雑しましたし、ホームの乗客の携帯電話が一斉に鳴り響いて、一時騒然となったそうです。

 ところで、因果なことではありますが、この誤報騒動があった日に、大阪府から南海トラフ巨大地震の被害想定最終案が公表されていますね。この被害想定に関する最終案では、大阪・梅田などでは最大2メートルの津波が到達するという可能性が指摘されています。

 今回の誤報騒動では、いみじくも多くの市民が模擬訓練、実地訓練をさせられてしまった格好ですが、決して他人事ではないと思います。冷静に見れば、私たちは例外なしに、日常的に多くのインフラリスクと接していることを知っておくべきでしょうね。

聴講者A:メディアなどでも富士山噴火のXデーなどが囁かれるようになっていますが、火山噴火はインフラに大きな影響を与えるのでしょうか?

D氏:もちろんです。火山の噴火の影響は広範囲・長期間にわたりますので、地震や津波とは別の意味で、インフラに与える影響が甚大なものとなるでしょう。たとえば、桜島の噴火は今年に入って600回を超えていますが、8月18日に噴火した際は、噴煙で夏空が一気に暗い街並みとなり、桜島噴火に慣れているはずの鹿児島市民でさえ、一様に不安を募らせていました。

 火山が怖い理由の一つは、火山の活動は大抵、他の火山活動や地震活動にも影響を与えていることです。最近、富士山周辺では不穏な状態が相次いで観測されています。これは単なる風評ではなく、科学的な見方でも噴火を懸念する声があることは確かですね。

 仮に富士山が噴火した場合、関東圏には直ちに生命の危険が及ぶことはなかったとしても、最も懸念されている問題は、やはり火山灰降灰などによるインフラへの直接・間接の影響でしょう。間接の影響のなかには、インフラに支障がきたすことによって発生する風説や誤報による混乱が考えられます。

 偏西風の流れから推察すれば当然、関東全域が降灰被害に見舞われることになるでしょう。そうなれば、電気、高速道路、水道などのインフラに大きな影響をもたらすのは必至と予想されます。浄水場は火山灰で埋まり、一時的に水道供給は停止する怖れがありますし、停電は長期間に及ぶでしょう。

 高速道路も寸断され、流通が途絶する怖れがあります。そうなった場合、企業においてはサプライチェーンの途絶・停止、社会においては心理的な不安、風説・風評、誤報・虚偽情報による混乱、一部の暴動やパニック現象にも充分に配慮しなければなりません。

聴講者B:企業インフラや生産活動への影響についてはいかがでしょうか?

D氏:実は、ここ数年、公共インフラだけでなく、工場や化学プラントなど民間企業のインフラ設備でも爆発事故、死亡事故が連続して発生しています。

 2002年に三菱重工業で建造中の豪華客船で発生した火災事故、2011年11月に東ソー南陽事業所 塩ビモノマー製造施設の爆発火災事故、2012年4月には三井化学岩国大竹工場 レゾルシン製造施設爆発事故、2012年5月にはアイシン高丘の西尾工場溶鉱炉で発生した死亡事故、2012年9月に日本触媒姫路製造所爆発・火災事故といった具合です。

聴講者B:連続して発生しているとおっしゃいましたが、確かに工場の火災や爆発事故であっっても、こうした事故は昔からあったのではないでしょうか? それと、工場の事故と、レジリエンスと関係しているインフラ・リスクとはどのような関係があるのでしょうか?

D氏:はい。これらの連続事故では実は多くの共通しているパターンを見ることができます。下記は、これら事故で共通する点です。

1.普段はあまり行わない非定常作業の際に発生していること
2.リスクに対する気付き(アウェアネス)能力の低下、言い換えれば、リスクに対する現場の対処能力の低下がみられること

 この2点からみてとれるのは、個々人のレベルで見た場合には、ある意味で「リスク不感症」といえる現象でしょうし、一方、組織の観点で見た場合には、一種の「組織的リスク対処能力の低下」といえる傾向ではないでしょうか。

 ついでに、Aさんのご質問に答えるかたちで、この点について、もう少し掘り下げて検証してみることにしましょう。

【次ページ】連続事故の背景にあるものは?組織マネジメントの観点で検証
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