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  • 2012/01/13 掲載

BCPにおける「リスク・コミュニケーション」と「ソーシャルメディア」の重要性

【連載】変わるBCP、危機管理の最新動向

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前回の“BCP2.0”へ向けた仮説・提言で、現在、BCPやエンタープライズ・リスクマネジメントを取り巻く意識がどのように変化しつつあるのか、その端緒を掴めてきたと思う。そこで今回は、BCP2.0で重要な軸となる、「組織的対話やステークホルダー間の効果的な関与のあり方」をさらに踏み込んで解説することにしよう。言うまでもなく、有事の際のコミュニケーションは非常に重要であるにもかかわらず、最新のコミュニケーション技法はBCPやBCMで十分に取り入れられてこなかった。そこで今回は「リスク・コミュニケーション」について、EAP(従業員支援プログラム)の世界で経験豊富なコンサルタントとの意見交換の対談形式で取り上げる。
登場人物
A氏:EAP(従業員支援プログラム)の世界で経験豊富なコンサルタント
森田:筆者

EAPとは
EAPはEmployee Assistance Programsの略語で、経営管理者や社員を対象に心理相談などのメンタルヘルスケアを実施する活動のこと。CSRや職務充実に対する意識が高まってきた2000年代以降、EAPを導入する企業が増加し、組織リスクマネジメントの1つとして位置付けられている。具体的なテーマには、たとえば次のものが含まれる。
・組織の生産性向上とメンタルケア・サービスとのバランス調整
・リーダーのマネジメント能力や部下に対する動機づけ促進
・関係機関・組織との連携による予防活動/コンサルテーション

“リスクコミュニケーション問題”を抜きにBCP2.0を語ることはできない

森田:お久しぶりですね。このところ、労働市場や企業の雇用調整にも大きな変化があるようで大変ですね。確かAさんは、ステークホルダーに対するコミュニケーションのあり方、メッセージ伝達のあり方を経営的な観点でコンサルティングし、啓蒙活動を展開されていましたよね。

A氏:はい。そのとおりです。

森田:ご存知かと思いますが、組織のコミュニケーションやステークホルダーに対する意思表示といったことは、言葉でうまく表現しづらいのが難点です。そのために、企業だけではなく、リスクマネジメントのコンサルタントでも敬遠してしまう傾向がありましてね。そのためにリスクマネジメントやBCPもあまりうまく効果を発揮できないという問題点を抱えているんですよ。防災や危機管理とコミュニケーションについて何かいいアイデアがあれば、1、2点、ヒントを示していただけもらえませんか。

A氏:BCPとコミュニケーションのあり方ですか。森田さんらしくて、なかなか興味深い切り口じゃないですか(笑)。確かに森田さんが仰るように、ドラッカーは、「企業の存続・成長」には「社会的責任」とか「経営管理者の能力・育成」、「社員の態度」といった視点をきわめて重視していましたものね。そういう意味では、これからは、危機管理、リスクマネジメントでも「開かれたリスク・コミュニケーション」が重要なポイントとなるでしょうね。

リスク・コミュニケーションとは
リスク・コミュニケーションとは、リスク遭遇時に組織の関係主体間でリスク情報をリアルタイムで共有し、関係者間で意思疎通・合意形成を図ること。関係主体は社内部門間だけではなく、行政組織、取引先、顧客、市民などのステークホルダーすべてが含まれる。現在、これら諸要素を社会的な文脈の中であらためて定義し直し、リスク対策に対する組織的コンセンサスのあり方、意思決定の質向上が課題となっている。
特にソーシャルメディアの発達した現代において、BCPのカルチャーを組織に植え付けるには、社内の内部統制という閉じたコミュニケーションだけではダメでしょうね。顧客、取引先、関係機関、株主などのステークホルダーに対する意思表示という視点もいずれクローズアップされてくるはずですよ。

森田:その通りなんです。しかし、暗黙の世界で成り立ってしまう世界でもありますので、つい避けて通ってしまうことが多いですよね。少し具体的な話題で示していただけますか。

A氏:福島第一原発が突きつけた本質的な問題は、原発の「技術的な不全」によるものだけではありませんよね。ことの本質はむしろ、「社会的責任意識の欠如」、「安全を確認しあえるための組織文化」のあり方が間違っていたことではないでしょうか。これこそ、リスク・コミュニケーションが脆弱であったことの良い例証になっていると考えています。

森田:それに、ひょっとしたら東京電力という一企業だけの問題ではないのかもしれませんね。

A氏:最近、中国電力が松江市内に島根原発建設を打ち出したときの経緯について報道がありましたね。電力側は当初、近くに活断層はないとしていましたが、3号機計画中の98年になってから8キロの活断層(宍道断層)を発見したと公表しています。断層の長さについても2004年時点で10キロに、2008年には22キロに、それぞれ訂正を重ねていたそうで、島根県議会はこの問題の究明で揺れているそうです。なにしろ原発から半経20キロ圏内に松江市のほぼ全域がかぶってしまう上に、他の断層とつながっている可能性もあるとのことですから。仮に、大地震が発生したら、かなり広域に影響を及ぼしかねません。今後、国の防災指針が改定された段階で、災害時の県庁移転も検討していると聞いています。

森田:困ったものですね。そういえば、明治乳業の粉ミルクから放射性セシウムが検出されたという報道もありましたね。乳業会社にはセシウム混入情報が寄せられていたそうですが、詳しい検査に乗り出さないまま約2週間ほど放置され、社会的な問題となりました。市民団体の通報や共同通信の取材をきっかけに製品の詳細検査を開始したそうです。

ごく最近の事例だけでもこれだけあります。日本の企業組織のいかにリスクに対する感度が鈍ってしまっているかということでしょう。この点は、根本から厳しく見直さなければならないでしょうし、BCPのあり方にも大きな影響があると思います。

A氏:このところ、SPC(特別目的会社)による損失隠し疑惑が立て続けに起こっており、日本企業の決算への信頼性も揺らいでいますしね。もしかしたら一企業の問題ではなく、日本全体がそうした組織カルチャー、社会的な慣習になってしまっているのかもしれません。

森田:ドラッカーがいう、企業生存・存続にとって社会的責任の脈絡で、もう一度BCPを厳しく再点検しなければならない事態かもしれませんね。これまでのリスクマネジメントはこうした組織的対話やステークホルダー間の効果的な関与のあり方を軽視してきたことを戒める必要がありそうです。

A氏:人事コンサルタントの立場から言わせてもらうと、リスク・コミュニケーションで重要なのは、情報の流れを「一方通行」ではなく「相互作用」としてとらえることにあります。先ほども申し上げたように、ソーシャルメディアの発達した現代ではこの、“開かれたリスクマネジメント”の視点が欠かせないものとなってくるはずです。ここが大事なポイントですよね。

リスクに関する正確な情報を、リスクに直面する関係者の間で共有し、相互に意思疎通を図ったり、合意形成へ持っていくためには、リスク・コミュニケーションとか、エンパワーメントを、ふだんから組織マネジメントのなかにしっかり浸透させておくべきではないでしょうか。

森田:やはり企業でも組織が肥大し過ぎると、リスク・コミュニケーションを軽視してしまいますね。そのまま放置すれば、ゆでガエル症候群といったものが蔓延し、管理中枢でも意思決定や責任意識が希薄になっていくのでしょうかね。

A氏:確かにそれもあります。しかし、そうした問題だけで片付けるのも単純すぎるかもしれません。リスク・コミュニケーションの視点でリスクマネジメントをみるときには、管理中枢の意思決定・責任に加えて、じつは「現場対応力」とか、現場への権限委譲の問題、いいかえると「エンパワーメント」が重要な鍵を握っていることが多いのですよ。

【次ページ】アドホックなリスク・コミュニケーションを促進する「ソーシャルメディア」
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