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  • 2012/11/07 掲載

なぜ医療のIT化は進まないのか?BCPを契機に進む「スマート・クラウド」の流れ

【連載】変わるBCP、危機管理の最新動向

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現在、クラウドが持つ弱点や課題点に関する認識が高まっているが、そうした中でも政府・自治体が推し進める医療クラウドは今後発展が有望視される分野であり、BCPとの関係にも絡んで、さまざまな模索が開始され始めている。そこで今回は、医療クラウドは今後BCP拡充・発展とどのような関係を持ちうるのか、BCPにおいてどのような変革をもたらすのかについて取り上げよう。
 今回、レクチャーの講師として登場していただくのは、医療クラウドについてさまざまな角度で探求しておられるO氏である。同氏は、自治体システムや医療システムがご専門で、医師・病院向け各種研修での講演などでも活躍しておられる方である。 本稿ではレクチャーの記録から一部を抜粋して紹介する。

ディザスタリカバリ対策重視へ傾斜する医療クラウド

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O氏:本日は医療クラウドとBCPとの関係や可能性についてお話しします。

 皆さんもご承知のように、企業がクラウドを導入する最大の目的は、IT資産を所有から利用へ転換(脱資産化)すること、すなわちITにかかる固定費を変動費へシフトすることにあります。またパブリッククラウドなどであれば、データセンターや仮想化技術など、クラウド基盤を支える技術群では常に最新の技術を利用できるというのもメリットと言えるでしょう。

 また、東日本大震災以降、これに「BCP関連の補強対策」という新たなクラウド導入のインセンティブが加わりました。それは「スマート・クラウド」という潮流です。実際、総務省は昨年6月に「スマート・クラウド研究会」なるものを立ち上げています

 スマート・クラウドとは、BCP関連の補強対策を広い視野で捉え、社会システム全体の高度化を実現するための構想ですが、この中には自治体クラウドや、本日お話しする「医療クラウド」、「病院クラウド」などの取り組みを含んでおり、企業向けというよりは、市民向け、公共系向け、あるいは社会全体の継続性を志向したクラウド・サービスの流れといってよいでしょう。

 もとより、“BCPに貢献するクラウド”として確立させるためには、業種・業界に特有のシステムを標準化し、情報資源を共有・連携するバリューチェーンを構築することが前提にあります。そのためにはBCPにおける要件定義とクラウドにおける業種・業界単位での標準化をシンクロさせていくことが条件となります。

 この点に関し、日本政府は、SaaS関連のガイドラインを次々と発表し、データの取り扱いに関する規制緩和、これらに関する標準化、環境対策としての減税措置を検討開始しているようです。総務省の「スマート・クラウド研究会」は、5月に公表した報告書で、企業や産業の枠を越えて膨大な情報や知識の集積と共有を図り、社会システム全体の高度化を実現する次世代のクラウドサービス構想として「スマートクラウド」戦略を発表しています。

 この構想は、自治体に関しては「自治体クラウド」、教育に関しては「教育クラウド」、社会に関しては運輸・自動車を中核とする「社会クラウド」、そして業種クラウドにおいて「医療・ヘルスケアクラウド」などによって構成されています。またそれぞれの分野において標準化と重点テーマ項目を設定し、社会システム全体の信頼性向上、継続性向上を促進することを狙いとしているようです。

 このうち、「医療・ヘルスケアクラウド」ではその重点要素として、カルテ、レセプト、介護、健康診断、処方箋、サプリメント、緊急医療体制、フィットネス、健康家電などをテーマ項目として採りあげられています。

 東日本大震災の津波被災では、多くの紙カルテが流失し、ディザスタリカバリ対策としての医療クラウド活用について注目されたことは、まだ記憶に新しいところです。こうした痛い経験をもとに政府IT戦略本部によって開設された「医療情報化に関するタスクフォース」では、医療情報のバックアップ体制、医療機関相互のバックアップ体制、患者自身による医療情報所持などが具体的な論議・検討の対象となっています。

 そしてこの場では、BCP/ディザスター・リカバリー対策が医療クラウド改良・導入において最も大きな促進要因の1つと位置付けられています。

 なお、医療に携わる皆さんならご承知かと思いますが、すでに医療分野では、データ管理基準に関する法律が改定(注1)され、診療データを民間のデータセンターに保管することが認可されています。従来は各医療機関でデータを個別に管理していたことを考えれば、ここ数年、大きな前進がみられる分野となったといえるでしょう。

【注1】 データ管理基準に関する法律改定経過

厚生労働省が2010年2月に発表した「「診療録等の保存を行う場所について」の一部改正について(PDF)」という通知によって、医療情報を、関連ガイドラインの順守の前提をもとに、民間事業者が保有するデータセンターなどに保存することが明確に認められた。これにより、医療分野でもクラウド形態でのサービスを提供しやすい環境が整備されつつある。

 私見ではありますが、この「ディザスタリカバリ対策としての医療クラウド活用」の流れは、広い意味でソーシャル系の次世代BCPの動きと合流していことになるとみています。

 残念ながら、これまで医療クラウドのみならず、医療系のシステムは、公共系・民間系を問わず、他のシステムと完全に分離・分断されてきました。これは、医療系システムの停滞と同時に、クラウド全体の順調な発展を阻害していたと思います。

 しかし、3.11以降、この状況にも変化がもたらされつつあります。クラウドのスケーラブルな価値とBCPへの適用可能性を上げていくには、業種を超えた共有・連携によるバリューチェーン、そして産業・社会の共通プラットフォームとしての“公民連携クラウド”“社会クラウド”が構想されてしかるべきだからです。これにはもちろん医療クラウドも、その対象に含まれています。

【次ページ】医療クラウドに適合しやすいシステムとは?
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