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- 2013/07/29 掲載
成長ベンチャーの理想的人事評価制度とは?評価基準の具体例から考える
連載:急成長ベンチャーの人財マネジメント戦略
企業名:ホニック社
主な事業:スマートフォン向けのゲームアプリの開発
従業員数:100名
売上高:20億円
スマートフォン向けのゲームアプリの開発会社ホニックは、サラリーマン向けに開発したゲームアプリが大ヒットとなり、社員数100名、売上高20億円にまで急成長を遂げたITベンチャー企業である。しかし、事業の拡大スピードに人材の採用が追いつかず、数年前から採用したエンジニアの離職率を高さも組織課題となっていた。社長の岩崎から直々の要請を受け、営業部門のマネージャーから人事部長に抜擢された宮田は、大学時代の友人で現在人事コンサルティング会社に勤める河上に相談を持ちかけ、河上のサポートを受けながら社長の直轄プロジェクトとして、ホニックの人事改革を推進することとなった。
人事改革の結果が徐々に形に
「女性エンジニア」をターゲットとした採用活動は、結果として4名のエンジニア採用につながった。新たに加わることとなった女性エンジニアたちは、前職でエンジニアとしての基礎的な知識を身に付けているだけでなく、ホニックが“基盤姿勢”として採用時に重視をした「迅速性」「主体性」「ストレス耐性」をある程度備えている人材であった。採用プロセスの最終面接で4名と直接面接を行った社長の岩崎も、自社が新たに取り組み始めた採用活動の結果に手ごたえを感じ始めており、4名の女性エンジニアに対しても大きな期待を寄せていた。
人事部長の宮田は、採用プロセスの見直しにより一定の成果を挙げたが、その結果に甘んじることなく、矢継ぎ早に次の取組みに着手していった。
宮田は、人事コンサルタントの河上のアドバイスを受けながら、社内の育成体制の整備にも取り組み、中途採用されたエンジニアたちが全員共通で受講する社内研修プログラムを現場の責任者たちとともに設計・導入していった。
また、各部門で必要となる知識やスキルについては、各現場の責任者を中心とした部門別研修の場で習得することを促進。それと同時に、OFF-JTとして、マネージャークラスのメンバーを対象に、社外の専門機関でマネジメント研修を受講させ、問題解決や対人関係のコンピテンシーを高めるための機会を提供していった。
“入社したらとにかく現場に放り込み、あとは見よう見まねで覚えていくしかない”といった従来までのホニックの価値観ややり方を変えようと、宮田は一気呵成に育成体制の整備に取り組んだ。
一部の社員からは「業務の合間をぬって研修を受けなければならず、現場の業務が滞ってしまう」という声や、「現場の業務を進めながら新人の教育を行うのは負担が大きい」という声も聞かれたが、宮田は「成長ベンチャーほど、外部から優秀な人材を獲得することは難しい。だからいち早く“人を育てる”文化や風土を組織内に作らなければならない。成長期にある組織であればあるほど、早めに組織の基盤を築いておかないと、今後人員が拡大してからそれに取り組もうとしても手遅れになる」と周囲のメンバーを説得し、強い信念と意志を持って人事改革に取り組んでいった。
こうして、人事改革の結果が徐々に形となっていく中、宮田と河上はホニックの会議室で次なる一手を検討していた…。
エンジニアのパフォーマンスをどのように評価するか?
宮田:採用活動の見直しや社内育成体制の整備については、まだまだ十分とは言えませんが、それでも、なんとか徐々に形になってきたと思います。そこで次に着手すべきテーマは、ホニックに採用され、教育を受けた人材たちにいかにして高いパフォーマンスを発揮してもらうか?と点にあると考えています。つまり、“人事評価”をどうするかということです。これまでホニックにも一応“人事評価制度”はありましたが、創業期に形式的に導入された仕組みであり、今の組織や仕事の実態に合っているとは言えない。やはり次に取り組むべきは“人事評価制度の見直し”だと考えています。河上さんはどう思いますか?
河上:そうですね。これまでも、ホニックの社員たちから何度となく“自分は一体何を基準に評価されているのかよく分からない”“この会社ではどのような貢献を果せば認めてもらえるのかよく分からない”といった声をよく聞きました。現在のホニックの人事評価の基準や仕組みは、残念ながら社員にとっては不透明であり、“正直よく分からない”という実感を持っている社員が大半だと思います。
ということは、人事評価制度が本来の機能を果していない、ということになります。人事評価制度は、本来、社員を方向づけたり、動機づけたりする機能を持たなくてはならないのに、ホニックではその機能がほとんど発揮されていない、ということです。
そう言うと、河上はいつものようにホワイトボードを使いながら、宮田に対して説明をし始めた。
河上:ここに示したように、人事評価制度には主に3つの機能があります。一般的には、給与や賞与など査定を目的に人事評価が行われていると認識されていますが、人事評価制度は、査定機能以外にも、方向付けや人材育成としての機能を担っています。人事評価制度をうまく活用できている会社とそうでない会社では、当然組織力にも差が出てきます。ですから、宮田部長が考えている“人事評価制度の見直し”はIT成長ベンチャーにとって非常に重要なポイントとなります。
宮田:確かに、給与や賞与を決めるためだけに人事評価を行う訳ではなく、本来は動機づけや人材育成にまで結びつけていかなければ意味がないですね。毎年の人事評価を通じて、個々人の強み・弱みが確認され、それを埋めるために1人ひとりがOJT、OFF-JT、自己研鑽を通じて能力を高めていく。会社としても、個々人の能力や適性に応じた配置や異動を進めていく。私はそれが本来の望ましい姿だと思っていますし、ホニックでもそれを実現していきたいと思っています。
ただし、ホニックにおいて理想的な人事評価制度を導入し、運用していくには、乗り越えなければならないハードルがたくさんあります。どのような評価基準を設定すべきか? 1人ひとりの評価をどのようなプロセスで決定していくか?さらには評価を実施する評価者たちの評価能力をどのように高めていくべきか…?など、検討すべき点は多岐に渡ります。まずはどこから手をつけていけばよいでしょうか?
河上:まずは人事評価基準の検討から始めましょう。その前提として、会社は社員にどのような貢献を求めているのか?会社はどのような人材を求めているのか?という問いに立ちかえることが重要です。人材育成の検討の際に、“求めるエンジニア像”を議論しましたが、その際に用いた“基盤姿勢”“コンピテンシー”“知識・スキル”などの視点も含めて検討してみると良いでしょう。
宮田:毎年の人事評価では、“能力を保有している”という点よりも、仕事を通じて“能力を発揮している”という点をできるだけ評価したいと考えています。なぜなら、いくら豊富な知識やスキルを備え、高度な資格を保有していたとしても、実際の仕事の中でそれらを活かしながらビジネスの成果に結び付けなければ会社としては意味がない。やはり、ホニックの人事評価では、具体的なビジネスの成果において一人ひとりがどのように目に見える形で貢献を果したか?を確認していきたいと考えています。
【次ページ】“ビジネスの成果”とは何であるのか?をきちんと定義する
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