- 2025/04/25 掲載
アングル:外需に過剰依存、中国企業に米関税の壁 国内市場は薄利
[北京/上海 24日 ロイター] - 中国東部で衣料品工場を経営するエノ・チアン氏は、海外販売で1点あたり20元(約2.74ドル)の利益を得ているが、国内販売の利益はその10分の1にとどまる。彼女の事業は関税の影響を被るものの、国内販売への移行は「現実的ではない」と頭を抱える。
米国は中国製品への輸入関税を145%に引き上げると発表し、中国製品にとって米市場は凍結状態になった。このため中国政府は輸出企業に対し、米国に代わる市場として国内で買い手を探すよう呼びかけを強めているが、転換は困難だと企業側は懸念を示す。
輸出に依存する製造業の多くは中国市場について、内需低迷、価格競争、利益の低さ、支払い遅延、返品率の高さといった問題を指摘する。
チアン氏は、薄利と「キャッシュフローのリスク」を理由に「国内販売は追求しない」ことに決めた。中国の小売業者は支払いが遅れたり返品を要求したりするが、「外国のビジネス相手はもっと安定感がある」という。
こうした問題は、中国が経済成長を輸出に過剰依存している実態と、消費者の所得を早急に増やす必要性を浮き彫りにしているとアナリストは指摘する。
財政刺激策で内需を刺激しない限り、中国市場で製品の供給が増えれば事業が圧迫されてデフレ圧力が強まり、裏目に出るだけだという。
豪モナシュ大学経済学のヘリン・シー教授は「中国では激しい競争ゆえに利益率が極めて薄く、時にはゼロに近い。このため輸出企業の一部は、国内市場に軸足を移せば倒産する恐れがある」と述べ、倒産が増えれば人々の収入も減って悪循環に陥るとの懸念を示した。
中国商務省は今月、トランプ米大統領による関税引き上げの影響を緩和するための主要戦略の一つとして、輸出企業による国内販売拡大を支援すると表明した。
同省はその後、北京、広州、海南島など各地で「マッチング」イベントを開催し、製造業者と電子商取引(EC)プラットフォーム、スーパーなどの小売業者を結び付けようとしている。
また地方政府は、輸出企業の「国内市場への不慣れ、運営経験の不足、ブランド認知度の低さ」などの問題を解決するためのタスクフォースを設置しつつある。
<必要なのは景気刺激策>
EC大手、京東集団(JDドット・コム)は、今後1年間に輸出企業が国内販売を拡大できるよう2000億元(273億5000万ドル)の基金を設立すると発表した。同社によると、既に約3000社から問い合わせがあった。これは外国貿易を行う中国企業の約0.4%に相当する。
料理宅配アプリ大手、美団も輸出企業に対しマーケティング支援などを行うと表明した。
しかしチアン氏は、本当に必要なのは「税制や補助金」面での支援だと言う。彼女は米国の関税の影響で売上高の30%を失い、従業員の削減に追い込まれており「最悪の場合、工場を閉鎖しなければならないかもしれない」と厳しい口調だ。
中国南部で下着工場を経営するデイビッド・リアン氏は、国内市場は「価格に極めて敏感で、販売促進コストが高く、頻繁に返品がある」と語る。外国の顧客は大量の卸売注文を入れるが、中国市場は「小売りと小口」が中心だとし、今は中東、ロシア、中央アジア、アフリカで新規顧客を探していると明かした。
一方、寧波の工場から照明関連製品を輸出するリュウ氏は、国内販売を推進するためには人を雇って専用のチームを作る必要があると指摘。「うちは零細企業で、そんな余力はない」と切り捨てた。
中国共産党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員会は今月会議を開く見通しで、国営メディアは討議内容について、特に輸出企業の国内シフト支援策を大きく伝えそうだ。
ただ、モナシュ大のシー教授は、会議は国内向けに強さをアピールするとともに、米国への抵抗姿勢を示すのが狙いだと指摘する。エコノミストらが注目するのは、より具体的な内需刺激策だ。
中国の昨年の小売売上高は43兆2000億元(5兆9200億ドル)で、対米輸出3兆7000億元の11倍余りに相当した。
キャピタル・エコノミクスのアナリスト、ジュリアン・エバンズプリチャード氏の推計では、今後2年間で米国向け販売が2兆ドル減少しても、同期間に消費が4%増加すれば理論的には影響を相殺できる。
しかし同氏は、消費者は経済見通しに自信を持てない限り、もしくは政府がより手厚い社会保障措置を約束しない限り、貯蓄を切り崩すことはないと話す。あるいは賃金が急増する必要があるが、雇用主が関税の打撃を被ることを考えれば、このシナリオは可能性が低い。
グローバルデータ・TSロンバードAPACのシニアエコノミスト、ミンシオン・リャオ氏は「社会保障セーフティーネットに関連する措置、中でも、何年も遅れている年金・財政改革が鍵になる」と述べた。
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