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  • 2010/06/03 掲載

【CIOインタビュー】徹底した採算管理でグローバル競争に打ち克つ──日揮 丹治紀夫氏(前編)

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1928年、日本初のエンジニアリング企業としてスタートした日揮(当時の社名は日本揮発油)は現在、世界的に需要が高まっている天然ガス関連分野のプラント建設のスペシャリストとして、とりわけLNG(液化天然ガス)プラント建設プロジェクトでは世界の4強を占める地位を確立している。一方で、石油精製関連分野では、韓国勢の低価格攻勢や中国の台頭もあり、同分野の競争は急速に激しさを増している。世界のトップエンジニアリング・コントラクターであり続けるために、日揮エンジニアリング本部情報技術部 部長 丹治紀夫氏に、同社のIT戦略についてお聞きした。

景気の波に左右されやすいEPC事業

photo
日揮
エンジニアリング本部
情報技術部
部長 丹治紀夫氏
──まずは日揮の特徴についてお聞かせください。

 日揮は、日本初のエンジニアリング・コントラクターとしてスタートし、現在はEPC(E:エンジニアリング・P:プロキュアメント・C:コンストラクション)をコアビジネスにする総合エンジニアリング企業です。EPCとは、プラントの設計から建設までを一気通貫で実行する仕事です。対象の施設は、石油精製やLNGプラントなど、ハイドロカーボン(石油や天然ガス、石油化学工業の原料の総称)の分野から、医薬品、医療関係、社会施設、原子力と幅広い分野に及んでいます。また近年では、非EPC系の業務として発電、水などインフラ系への事業投資のほか、日揮グループ内では、触媒やITなども手がけており、EPCと非EPCの複合ビジネスモデルによって、社会に貢献しています。

 コアとなるEPC分野は受注産業であり、世界景気の波に左右されやすいのが弱点です。原油価格が低下すると、顧客である産油国の投資が一気に減退し、受注が減少します。そのため、企業として安定的な収入を得るために、これまでの技術を活用して非EPCの分野を整備していこうという考え方に立っています。この非EPC分野は5年前から本格的に開始し、今後、安定的な収益が確保できると見込んでいます。業態として、商社と何が違うのかと言うと、技術力をベースにしているところで、場合によっては投資したものを自社でつくってしまいます。技術評価ができる事業主側にもなるが、建設側にもなるところが特徴ですね。

──事業の規模についてお教えください。

 日揮はこれまでに世界70カ国、2万件以上のプロジェクトを手がけており、2009年度の受注額は約7,300億円と、そのうち約90%は海外が占めています。通常は海外70、国内30の割合ですが、2009年度はとくに国内の石油関係の設備投資が不振で、国内の受注比率は10%程度にとどまりました。人員配置も今後、国内から海外にシフトする必要があると検討しています。かつて稼ぎ頭だった国内石油産業は国内産業界での省エネ対策が進み、需要が減退していることは、自動車産業などを見ると明らかです。

 人員はグループ全体で9000人、国内が4500人。そのうち、プロジェクトオペレーションに携わる人員が4000人で、さらにその4000人のうち、2500人を設計エンジニアが占めています。プロジェクトのマネジメントを行う人が755人で、それ以外はR&Dやセールス、管理、人事などです。

価格競争力では韓国勢が圧倒しつつある

画像
図1 日揮が手がけるプラント
──現在の経営環境はいかがでしょうか?また、そのなかで日揮はどのような方向に向かおうとしていますか?

 リーマンショックが起きた2008年度、当社は最高益を記録し、中期経営計画の目標である純利益300億円を超えました。2009年度はそこまで行くか不確定ですが、当社の業績は世の中の景気とズレる傾向にあります。今の売上は2~3年前に獲得したプロジェクトで動いているので。現在は受注残があるからよいものの、景況がこのままで受注がないと、2~3年後の業績に響いてきます。そのため、事業投資に注力しており、人も新規事業ということでシフトしています。

 現在は海外案件が多く、そのなかで当社は特にLNGに強みを発揮しています。また、従来型のプラントでは日本のエンジニアリング企業は価格競争力でもはや韓国勢に勝つのが厳しい状況にあり、差別化のため、重質油を精製するプラントや、天然ガスから軽油をつくるGTL(ガス・ツー・リキッド)などの新技術に注力しています。

 一方、非EPC系事業では発電、水事業などについて日本企業だけで組むのではなく、力のある海外企業も取り込んで“最強の共同事業体”で臨もうとしています。インフラ系は価格だけでなく、オペレーションの優劣が問われますが、日本では水関連の運営は自治体が手がけており、民間で手がけているところはありません。一方、海外企業は運営まですべてのサービスを含めて、相手国に提供する体制にあります。そこで、日本勢は民間企業と官庁の水道局が共同で運営ノウハウを含めて提供しようとしています。

 当社がシンガポールの水企業・ハイフラックス(Hyflux)社と組んでいるのはそのためで、Hyflux社は水事業の運営のノウハウを持っており、たとえば現在手がけている中国・天津市の工業用水設備は中国最大の海水淡水化プラントになる予定です。今後、当社とハイフラックス社は中国だけでなく、中東、北アフリカなどで海水淡水化事業に積極的に取り組んで行く計画です。

 当社が海外で強いエリアは、中近東、アルジェリアを中心とした北アフリカ地区、アジアではマレーシア、インドネシア、ベトナム、そして、最近は南米のブラジルや重質油が出るベネズエラにも注力しています。また、主な顧客は、シェル、エクソンモービル、BPなどのオイルメジャー、国営の石油企業、国内の石油・化学・医薬関連の会社です。

【次ページ】コア業務に埋め込まれたIT
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