- 2025/03/13 掲載
タイパ最強すぎる、リクルート流のアイデア創出方法「壁打ち」の極意
リクルートが新規事業を生み出し続ける活力の源泉とは
「ちょっと壁打ちに付き合ってくれない?」私がかつて在籍していたリクルートでは、この言葉が頻繁にオフィスの中を飛び交っていました。
リクルートは1960年創業と古い会社ながら、今も活力を保ち積極的に新規事業を生み出し続けています。その活力の源泉は、壁打ちという特徴的なコミュニケーションのスタイルが浸透していることにあるのではないか、と気づいたのが『すごい壁打ち』を執筆するきっかけになりました。
トップダウンやボトムアップなど上下のコミュニケーションだけに頼ると、組織が大きくなり階層が深くなるに従い、物事を決めるのに長い時間を要するようになります。また、組織全体のタテ割りが強くなると、効率化は進みやすい一方で、タコ壺化が生じ、横の連携は取りにくくなります。
それは、環境の変化が激しく、不確実性が高く、正解がない中で絶えず試行錯誤を繰り返しながら前に進んでいかなければいけないといわれる現代において、大きな弱点となります。そこで有効なのが、壁打ちなのです。
壁打ちは個人の仕事の質を高め、結果的に組織の活性化が進みます。
たとえば、仕事で課題にぶつかって解決策を考えなければならないときや、自分だけではなかなかしっくりくるアイデアが出てこないときはありませんか? 頭の中にモヤモヤとした「アイデアらしきもの」はあるものの、どうもうまく整理できない。やりたいことはあるが、いまひとつ自信を持てない。そんなときに、効果的な手法が壁打ちです。
壁打ちは雑談と相談の中間に位置するコミュニケーションです。
「相談に乗ってほしい」と頼まれたら、「何か重大なことでもあったのか」と身構えてしまう人もいるでしょう。かといって、雑談のような気軽すぎるコミュニケーションでは、新しいアイデアを生むための真剣な空気感は生まれづらいかもしれません。
壁打ちによって、相手に過度な負担をかけることなく、その場で数分から数十分話すだけで自分が何に悩んでいたのかがはっきりしたり、1人悶々と考え続けていたことに光明が差したり、何からどんな順番で考えていけばいいかが分かったりします。
リクルートでは、壁打ちが昔も今も活発です。現在も私自身、OBという立場で現役社員の壁打ちに付き合うこともあります。また、リクルートには「壁打ちを頼まれたら断らない」という空気もあるのです。
よく「リクルートの元気の秘密は?」と聞かれます。私は、社員同士で日常的に横のコミュニケーションが活発に交わされていることが、個人の持つアイデアを増幅させ、周囲を巻き込みやすくし、事業のスピードを速めることの支えになっていると確信しています。
かけた労力に比べて大きな効果が期待できる
こんな経験をしたことはありませんか?- 目の前の課題に対する解決策がうまく思い浮かばず、あれこれと悩んでいるうちに、問題が大きくなってしまった
- 部下や同僚からすでに手遅れに思える問題を相談されて、「もっと早く話してくれていたら、力を貸せることがたくさんあったのに」と残念に思った
仕事をしていると、行き詰まることは誰にでもあります。そこで、多くの上司は「困ったことがあれば相談に乗るよ」と声をかけますが、すぐに相談に来てくれる部下ばかりではありません。
なぜなら、「相談」には状況を整理し、資料をまとめ、論点を明確にするといった準備が必要だからです。また、せっかく相談しても、ダメ出しをされたり、振り出しに戻されたりすることを恐れる部下も少なくありません。結果として、1人で問題を抱え込んで、それが大きな問題に発展してしまうこともあるでしょう。
壁打ちは違います。行き詰まっている人から持ちかけるだけでなく、その様子に気づいた周りの人から声をかけることもできるのです。私自身、部下に対して「この人は今行き詰まっているな」と感じたときに、「少し壁打ちでもしてみない?」と声をかけることがよくありました。
誰かに話をすることは、思考を整理する効果的な方法です。最初は自分が何に困っているのかさえうまく言葉にできなかった部下が、壁打ちを通じて頭の中を整理し、解決の糸口を見つけていく。そんな場面に、私は何度も立ち会ってきました。
最近では「1on1」を制度として導入し、上司と部下が定期的に対話する場を設ける企業が増えています。もちろん、それも大切なコミュニケーションの機会です。しかし、壁打ちはそれほどかしこまったものではなく、もっと気軽に、日常的に行えるものです。それなのに、かけた労力に比べて大きな効果が期待できるコミュニケーションなのです。
ここまで、リクルートを例に出してきましたが、壁打ちはリクルート特有の手法ではありません。スタートアップ企業やイノベーション、デザイン思考などを重視する業界では、日常的に実践されていると聞きます。また、「壁打ち」という言葉こそ使っていなくても、実質的に同じような対話が行われている組織も多いはずです。
とはいえ、さまざまな企業やコミュニティの方々と接していると、壁打ちはまだまだ一般的な言葉・習慣ではないように感じます。特に、古い体質が残る組織では、「気軽に声をかけづらい」「『結論から言え』と叱られてしまう」という声をよく耳にします。
せっかく同僚や上司、部下といった「ともに仕事をする仲間」が身近にいるはずなのに、なんともったいないことでしょう。「うまく壁打ちを使えば、仕事はもっとしやすくなるのに」と感じざるを得ないのです。
特に現代は「VUCAの時代」と呼ばれ、先が見えづらく、正解もわかりにくい時代です。だからこそ、1人で考え込むだけでなく誰かと一緒に考えることが大切なのです。そんな思いから、壁打ちという手法をより多くの人に知ってもらいたいと考え、『すごい壁打ち』を執筆しました。 【次ページ】「壁」になることで相手の思考が自然と整理されていく
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