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企業においてAIが広く浸透する中、AIの責任者を設置する動きが加速している。SAPやデルなどのテック大手、さらには世界的な広告代理店グループのWPP、日本の博報堂DYも「
最高AI責任者(CAIO)」を任命し、AIへの取り組みを加速させている。企業におけるAI責任者とはどのような存在なのか。その責務や求められるスキルについて、最新情報を交えて探ってみたい。
AI人材競争激化、責任者ポジションはさらに熾烈に
AIや生成AIの普及により、労働市場における様相も大きく変化している。AI関連の職種や
CAIO(最高AI責任者)の需要が急速に伸びているのだ。
リンクトインの
データによると、「Head of AI(AI責任者)」ポジションを設置する企業数は過去5年間で3倍以上増加し、2022年12月以降だけでも13%の上昇を記録していることが判明した。
AI関連職の
給与は高いがそれでも需要は高く(需要が高いので給与が高いとも言えるが)、業界別にも顕著な特徴が見られる。オーストラリアでは、2022年12月以降、プロフェッショナルサービス、行政・支援サービス、政府機関の順でAI関連職の需要が拡大。
一方、世界的に見ると、プロフェッショナルサービス、金融サービス、製造業の順で需要が高まっているという。
AI関連職に求められるスキルも明確になってきている。とりわけ需要の高いAI関連スキルとしては、人工知能(AI)、機械学習、パターン認識、データ構造などが挙げられる。
しかし、AI人材の獲得競争は激化しており、特にオーストラリアやニュージーランドでは人材流出問題が悪化の様相だ。AIを専門とする投資企業スクエア・ペグのケイシー・フリント氏はリンクトインの取材で次のように語っている。
「(オーストラリア/ニュージーランド)域内のトップAI人材と話をすると、米国に強く引き寄せられていると感じる。特に、OpenAIのような企業が魅力的な給与やインセンティブを提供していることが大きい」という。
AIの進化と普及が加速する中、適切なAI戦略を立案・実行できる人材の需要は今後さらに高まっていくと予想され、人材獲得競争も一層激しくなる見込みだ。
特に、組織のAIへの取り組みを統括できるAI責任者をめぐる獲得競争は熾烈なものになっている。
高まるCAIO/AI責任者の需要、テック大手でもCAIO任命の動き
CAIO(Chief AI Officer=最高AI責任者)/AI責任者需要の高まりは、テクノロジー大手企業の動向からもうかがうことができる。
たとえば、ドイツの大手ソフトウェア企業SAPは、2024年1月に
フィリップ・ヘルツィヒ氏を最高AI責任者(CAIO)に任命した。ヘルツィヒ氏は、以前はクロスプロダクト・エンジニアリングおよびエクスペリエンス部門の責任者を務めていた人物。この人事異動により、ヘルツィヒ氏は直接CEOのクリスチャン・クライン氏に
報告を行い、研究開発から顧客への実装に至るまで、SAPのビジネスAIに関するバリューチェーン全体を監督する立場となった。
SAPによると、この新体制の目的は、AI開発のペースを加速させることにある。ヘルツィヒ氏のチームは、SAP内の他のイノベーターと密接に連携し、AIをポートフォリオのあらゆる部分に統合することを目指すという。
一方、米国のテクノロジー大手デルも、2023年9月に
ジェフ・ブードロー氏を同社初のCAIOに任命した。ブードロー氏は、AIとデータ戦略を主導し、AI主導の取り組みを加速させ、組織全体で生成AIイニシアチブを拡大する役割を担う。同氏は、全社的なAI戦略、教育、ガバナンス、およびポリシーを担当するデルのAIイノベーションセンターのリーダーも
兼任している。
日本でも、アクセンチュアや楽天を経験してきた森正弥氏が2024年2月に博報堂DYホールディングスのCAIOに
就任している。
これらの事例は、大手企業がAIを戦略の中核に据え始めていることを示すもの。CAIOには、単なる技術的なリーダーシップを超えて、企業全体のAI戦略を統括し、倫理的な側面も含めたAIの責任ある利用を推進することが期待されている。
【次ページ】CAIO、その責任範囲、求められるスキルセットとは?
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