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生成AIの利用が進む米国の政府機関や大企業において、「CAIO」(最高AI責任者:Chief AI Officer)という役職の任命が急激に増えている。CAIOとは、それぞれの企業や組織がAIに求める役割に応じて技術革新を推進する役職者を指す。だが、似た役職であるCTO(最高技術責任者:Chief Technology Officer)やCIO(最高情報責任者、Chief Information Officer)とは何が違うのか。どれくらいの権限を持ち、何を期待されているのか。最新の事例を基に解説しつつ、日本でもCAIOの任命が増えるかどうか読み解く。
CAIOとは何か?
CAIO(最高AI責任者:Chief AI Officer)とは、それぞれの企業や組織がAIに求める役割に応じて技術革新を推進し、AIを安全かつ有意に活用していくための役職を指す。経営や運営の根幹にかかわる極めて重要な役割を担っている。
ITメディア企業の米ファウンドリーが2023年に965社を対象に
調査 したところによると、AI関連雇用においてCAIOは雇用済みが全体の11%、求人中が21%だった(図1)。
日に日にCAIOへの需要は高まっているようだ。だが、CAIOは比較的新しい役職であるため、その役割や要求されるスキル(
後ほど解説します )は企業や組織によって大きく違うことに留意が必要だ。
こうした中、ニュースサイトの米アクシオスは記事の見出しで次のように
形容 していた。「ワシントンで今、最もホットな仕事」。
ではアクシオスはなぜこのような表現をしたのか。そのヒントは、米国政府の特徴的な動きにあるようだ。
CAIOが「ワシントンで最もホットな仕事」のワケ
まずバイデン大統領は2023年10月に、「安全性、確実性、信頼性のあるAI開発と利用に関する大統領令」を
発令 し、主要な連邦政府機関にCAIOを任命するよう命じた。これを受けて、行政管理予算局(OMB)は3月28日、各機関が60日以内にCAIOの辞令を発し、AIに関する(1)ガバナンス、(2)イノベーション、(3)リスク管理を行わせるよう通達を出した。
そもそも、連邦政府におけるCAIO任命はトランプ前政権が2020年12月に
開始 したもの。AI規制を模索するバイデン政権はそれを大幅拡充することで、政府の音頭取りの下、民間にAI利用のあり方や方向性で自らお手本を示す決意を示したことになる。
大統領の肝いりプロジェクトであるだけに、各省庁の対応も熱が入る。
ロイド・オースティン国防長官は4月9日、国防総省のCAIOにラダ・プラム博士を直々に
任命 した。プラム氏は調達・持続性担当の前国防次官で、過去にはフェイスブック(現メタ)やグーグルの規制担当部門の要職を
歴任 したテック通でもある。これに加えて、国防総省内の米空軍でも、チャンドラ・ドネルソン氏をCAIOに
任命 している。
この他、国土安全保障省、国務省、司法省、商務省、農務省、労働省、教育省、保健福祉省、エネルギー省、住宅都市開発省、退役軍人省、政府調達局など主要省庁がCAIOの
辞令 を発令済みだ。まさに、「ワシントンで今、最もホットな仕事」である。
給与は意外と安い? でもCAIOには「異例の高位」も
では、政府内における、CAIOの位置付けと権限の範囲を見ておこう。
コンサルティング企業の米フォレスター・リサーチの
分析 によれば、今回の大統領令で任命が義務付けられた連邦政府のCAIOは、たとえば組織内のDXを任務とするチーフ・データオフィサー(CDO)などとは、権限の範囲の大きさ、先任性、知識および技能レベル、そしてより広範な管理責任において一線を画している。
先述の通達では、CAIOについて、「職責を遂行するために必要な権限が与えられ、当該省庁の次官などトップレベルの高官と日常的に接触できる立場を確保されなければならない」と規定している。そのため、CAIOには課長・部長級からなる連邦上級管理職(SES:Senior Executive Service)という、異例の高位が授けられる。この規定だけでも、CAIOが単なるお飾りではないことがわかる。
たとえば、司法省のジョナサン・マイヤーCAIOはスタンフォード大学のコンピューターサイエンス学科で博士号を取得し、さらに同校ロースクールで法学博士の学位を受けており、ITと法律の
両方 に通じている。2月に任命されるまではプリンストン大学で教鞭を執っていた。それなりの肩書と経験を持つ人たちが任官されているわけだ。
具体的なCAIOの
役割 としては、連邦緊急事態管理庁(FEMA)でAIを用いたハリケーン被害状況の分析・評価プロジェクトの推進、海洋大気庁(NOAA)における異常気象現象や洪水、森林火災の予知体制構築など、国民の命の保護に密接に結びついたAIイノベーションの開発・指揮もあり、省庁によってはかなりの重責となる。
なお、気になる報酬については、博士号あるいは同等の資格が要求されるSESレベルの年俸は最高でも21万2,000ドル(約3,324万円)と、びっくりするような額ではない。物価の高い首都ワシントン勤務だから、妥当な線であろう。
企業口コミサイトの米グラスドア
調べ によると、CAIOの平均年収は基本給が約15.5万ドル(約2,665万円)、プラス成功報酬や諸手当の18.4万ドル込みで、トータルが34万458ドル(約5,323万円)。民間企業などと比べると、相対的に連邦政府CAIOの報酬は低めだ。その代わり、彼らには大きな権限が与えられ、「天下り」後は民間で巨額の報酬の仕事に就くことが期待できる。
ここからは民間も含めたCAIOの動向などについて解説しつつ、日本でCAIO任命が増えるか読み解いていこう。
【次ページ】CAIOに必要なスキルや、ドコモgaccoの事例など
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